バディの条件 2
遊歩道の緑ゆたかな通りを抜ける。
息をととのえながら、広い生活道路の歩道に出て自宅へと歩を進めた。
車の通りはまだ少ない。
もうすこししたら通勤の自家用車やバスで道路が混みだすので、そのまえに帰る。そしてシャワーを浴びて朝食。
いつものルーティンだ。
京也はこれからのスケジュールを頭に思い浮かべた。
「きょうの朝食なに? きのうのスクランブルエッグうまかった」
横をついて歩きながら海東が問う。
このあとシャワーを浴びて朝食。
一週間まえまでは、そういうルーティンだった。
京也は眉根をよせた。
「……きょうもうちで朝食を食べていくつもりですか」
「コンビニで弁当買ってくる言ってんのに、あんたが俺の分も出すんじゃん」
海東がスラックスのポケットに手を入れる。
べつに持てなしたわけではない。
テーブルの上に並べられたコンビニ弁当の栄養バランスの悪そうなラインナップが気になりすぎて、はじめの日はおかずを一品だけ出してあげた。
つぎの日は小皿に二品。
つぎの日も二品。
四日目からはどの栄養素が足りていないかを分析するのも面倒になって、舌打ちしつつ二人分の朝食をつくった。
目のまえに置かれた食事に「おー」と声を上げつつも、すんなりと食べはじめた海東の態度に、遠慮ってものがないのかとあきれた。
「目のまえで不健康な食事をされると、自分まで不健康を摂取した気分になるじゃないですか」
京也は眉根をよせた。
「なるかあ?」
海東が顔をしかめる。
「たぶん、あなたとは感性が違うんです」
「あーそれは分かる」
海東が頬をかく。
「え、んじゃ付きあった彼女が三食ジャンクフード食いたいって人だったらどうすんの」
「別れます」
京也は即答した。
「うはー」
海東がおかしな声をだして天をあおぐ。
「それじゃいっしょに食事できる友だちも少ねえだろ」
「そもそも人との食事って、不快になるためにするものじゃないでしょう。不健康を摂取した気分になって不快になる人なら避けます」
京也は答えた。
「栄養のバランスにこだわるのも仕事のうちですから。譲れるわけがありません」
「はー」
海東がそう声を上げる。
「よし。とりあえず俺との食事は不快じゃないカテゴリーだな」
大きな手でピースしてみせる。
「不快です」
パーカーのすそを軽く直しながら京也は答えた。
「しかしあんた一人暮らしでよかったわ。音楽用の離れあるとか、いざとなったら泊まりこめるな」
海東が空を見上げる。
「聞いてますか?」
京也は顔をしかめた。
住宅街の奥まったところにある京也の自宅に到着する。
古くからの住宅街だが、家の裏と東側には広い未利用地が広がっていた。
平屋のシックなデザインの母屋と音楽用のちいさな離れは、どちらも広めの敷地のまんなかにこぢんまりと建ってる。
防音設備はしっかりとした建物だが、なるべく周囲と音のトラブルは起こさないよう配慮していた。
「あー俺、シャワーの順番あとでいい」
海東が母屋の玄関まえでシャツの襟もとをつまんでパタパタあおぐ。
「なに先に使う権利があるみたいな言いかたしてるんですか」
京也は眉をよせながら玄関ドアの鍵を開けた。
背後からほのかにただよう汗の匂いが気になる。
「……というかそれ、水洗いだいじょうぶなら洗濯機に入れておいてください」
「あー、きょうもどうもね」
海東が答える。
京也の眉根がピクピクと反応した。
ここ一週間、汗臭い海東と朝食をともにしたくなくて、つい服の洗濯と乾燥を申し出てあまつさえ糊付けまでしてしまっている。
いつも糊付けを自分でするので、そこまでワンセットでないと気分が悪いのだ。
よくよく考えたら、自分はなにをやってるんだと京也は額に手をあてた。
「やー、さいきん刑事課に戻るとほら、着てるもんパリッとしてんだろ? “彼女できたのか” とか言われてよぉ」
海東が無精ひげのちらほら生える顎に手をやる。
「マメなカレシとか言ったらドン引かれるかあ?」
そうとつづけてギャハハハハと笑う。
俗に声楽は「芸術の皮をかぶった体育会系」などと言われたりもするが、ほんものの体育会系にはやはり関わらないほうがいいと京也は思った。
自分とは感性が違いすぎる。最悪だ。




