包帯の下
ガチャ……
母親がドアの前で仁王立していた。
「もう、ご飯って何回言わせるのよ!あ、階段降りる時は怪我してる足だからね?」
僕が小さく頷いた
「わかってるよ。大丈夫だよ」
そして、僕の机に置かれた塾の宿題が進んでいることに満足したように階段を降りてった。
天井を見上げ、ぼんやりと今日のご飯はなんだろう。将来のことなんていつわかるんだ?
天井のシミを見つけて僕は苦い顔になる。
あのシミはいつ治るんだろう。僕の足は後遺症でスポーツはもうできないかもしれない。
「尚武!」
ため息をつき、ドアへ向かう
「はーい。今行くよ」
僕はいまはこの惨めな包帯を外してどこかに行ってしまいたいよ。
ザー……ザー……
雨、よく降るな。どっちにしろ今日は母さんに送ってもらわないと
えーっと、怪我してる方から……ゆっくり……
ガラガラガラ……
「母さん」
……今日は母さんは朝の出勤だったらしい。父親がテレビも付けず無言で米を掻き込んでいる。
「父さん、おはよう」
ようやく僕に気づいたのか父親の視線が僕の方に向いた
「ああ、おはよう。ご飯よそってやろうか?納豆でいいか?全く母さんのやつご飯くらい作って行けよな」
父さんが愚痴をこぼすのを僕は聞いてるだけ。共感も返事もしない。ただ頷くだけ。
「俺も仕事行くのに……」
母さんも忙しいんだよ。僕は父さんとは事務的なことしか話さない。
「父さん、今日雨だから車で行くよね」
少し考えてから、閃いたっという顔になった
「ああ、学校まで送ってて欲しいんだろ?今日は雨だもんな」
違うよ、行きたくもない場所だよ……
「大会。今日総体でしょ?」
「ああそうなのか。でも、お前は出場しないだろ?」
昇の活躍を僕は指をくわえてみるだけだけどね
「父さんの会社の方向とおんなじなんだ。途中で降ろしてよ」
父さんはルンルンでご飯と納豆パックを持ってくる。息子との雨ドライブデートがそんなにも嬉しいのか?
「わかった。時間は大丈夫か?」
「別に、応援だけだし」
ザー……ザー……
降りていくさい父親が声をかけてきた
「じゃあ、応援頑張れよー!俺も仕事頑張るぞー!」
他の学校の生徒もいたので苦笑いで父親を見送った。
濡れた肩で肩をぶつけさせられた……
「なんだよ昇」
すぐ見下すように一歩高い段差に登る
「お前、出られないっていうのに来たんだな。俺と隆二で賭けてたんだ」
ため息をつき、同じ目線になろうと昇と同じ段差に登る
「それで?どっちが勝ったの?」
「どっちだと嬉しい?」
どっちでもいいよ
「くだらない……。あ……」
ザー……ザー……
昇がもう一個段差を登る
「お前のほうがくだらないだろ?学校に行っておうち帰った方がいいんじゃねーの?どうせ出られもしない大会に応援に行くよりもよ!」
ああ、反論するだけでも無駄だ……
ザー……ザー………………
「何か言えよ!」
胸ぐらを掴んできた。
体育館の方から、部長が来る
「こら、昇。やめなさい!尚武、よく来てくれたね。応援でもありがたいよ。君のアドバイスはすごく的確だからね」
いつ見ても爽やかっすねー
「お役に立てれば……嬉しいと思って来ました。みるだけでも勉強になりますから」
昇が僕を挑発する。
「後遺症で剣道できるかわかんねーんだろ?剣道どころかスポーツ全般」
部長が珍しく眉を吊り上げる
「昇!やめろ!お前、ちょっと剣道が上手いだけで調子に乗るな!尚武の足元にも及ばなかったくせに!」
昇は部長の腕を振り解く
「俺は、俺だって頑張ってんだよ!でも、尚武、尚武って誰も俺を見なかった!」
ザー……ザー……
誰も答えなかった。誰も答えれなかった。
涙を溜めている昇は雨の中行ってしまった。
ザー……ザー………
濡れて、泣いてるのを隠そうとしたって無駄だよ。目がもう赤いもの……
俯いたままの部長に目を向ける
「部長。今回はあいつなしで頑張るしかないです」
顔上げた部長はなんだか情けなく映った
「誰がいいと思う。俺たち三年が四人と、2年生から一人」
「隆二がいいと思います。あいつはよく僕と一緒に素振りをしてますから。使ってやってください。きっと期待には応えてくれるやつです。昇ほどじゃないけど」
部長は情けないまま、僕に従った。入部当初、2年生だった部長。あんなに輝いていたのに、僕にはもう情けない姿しか映らない。
昇、僕は君を探しには行けない。雨の空気を吸って、重くなった包帯があるから。僕は傘がさせない。




