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断界の英雄  作者: 明太子
天断来臨
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糸は繋がった

翠霞と優雅が離脱してから数分後、蒼真と雷牙の攻撃は途切れていなかった。

だが、それでも天狗は崩れない。


しかも、受けながら余裕を残している。

主導を奪えきれない状況が続いていた。


(……おそらく互いに限界が近い)

蒼真がそう考えていた頃、異常な違和感が広がる。


やがて天狗が動きを止めた。

天狗の構えが変わり、空気が一段重くなる。


風が天狗に集まり始める。

あの一撃の気配が、場に満ちた。


蒼真の視線が鋭くなる。

雷牙も瞬時に状況を理解した。


ここで天狗を止めなければ二人とも死ぬ。


「……俺が止める」

蒼真に言葉を残し、雷牙が踏み込んだ。

速度を一気に引き上げ、一直線に距離を詰める。


拳を振りかぶる。

「紫電撃!!!!!」

すべてを乗せた一撃を天狗に叩き込もうとした。


だが、当たらない。

天狗はわずかに体をずらすだけで避けた。

拳はそのまま地面へ落ちる。

「……あ」


強い衝撃で地面が砕けた。

二人とも負けを確信する。

しかし、風は吹かなかった。


一拍遅れて蒼真は理解する。

「……ブラフ!」


雷牙の動きが止まる。

全力で踏み込んだ反動が一気に襲いかかった。


(……動け!体!)

しかし体はついてこない。

膝をつき、そのまま天狗の目の前で動けなくなる。


「お前もよく頑張ったよ」

そう言い終わらない内に、雷牙は戦場の外へ吹き飛ばされた。


蒼真が一人になる。

構えは崩さない。

だが状況は確実に不利に傾いている。


しかし天狗は動こうとしない。

張り詰めた空気だけが残る。


「……ここまでか?」

天狗が言う。

余裕は崩れていないが、おそらく天狗もだいぶ削られているのを蒼真は感じていた。


蒼真は天狗から視線を逸らさない。

「まだまだだろ」

短く返す。

その声に迷いはなかった。


その時、風が揺れる。

ほんのわずかな変化だった。

その数秒後、蒼真は気づいた。


天狗の手元。

壊れていた山嵐羽扇が、ゆっくりと形を取り戻していっていた。

欠けていた部分が埋まり、元の姿へ戻っていく。


山嵐羽扇の条件は確かに存在した。

それは風の流れを自分のものにするという絵空事のような条件である。

しかしその絵空事を成し遂げることが出来るのが天狗であった。

弐番隊がほとんど削られたことにより、条件は満たされたと天狗自身が認識したことにより、山嵐羽扇は完全に復活する。


その瞬間、天狗の目の前の風が裂けた。

誰も見えない速度で、影が踏み込む。


天狗の反応より先に動き、手が伸びた。

迷いなく、一直線に。

その男は山嵐羽扇を掴み、そのまま奪い取る。


天狗は呆気に取られていた。

「……は?」


天狗の向こうでボロボロの颯が立っている。

息は荒かった。

だが、天狗を見る視線は強い。


そのまま踏み込み、天狗との距離を一気に詰める。

一瞬で交差し、風と山嵐羽扇がぶつかり合った。

衝撃が弾ける。


颯は距離を取り、山嵐羽扇を握ったまま構えた。

颯の状態は完全ではないが、それでも戦える。


場面が変わり、高い位置。

戦場を見下ろす場所に二つの影が立っている。


「……まだ戦ってるみたいですね」

奏が静かな声が言った。


隣には人形使いが自分の力で立っている。

二人とも戦場を見ていた。


「当たり前だ。お父様は強い」

人形使いは短く言う。

奏はその言葉に苦笑いしつつ、呆れていた。


人形使いが少しだけ奏に視線を向ける。

「俺の名前……恒一……久遠恒一だ」


奏が驚いたような顔で恒一の顔を見つめた。

「……どういう心変わりですか?」


「今から死ぬかもしれないからな」

少し乾いたように恒一は笑う。


そんな恒一に奏は手のひらで触れた。

「…死なないでくださいね」

奏は少し笑って言う。


それを見た恒一も少し笑った。

「あぁ……ありがとう」

一瞬だけ空気が止まる。


その後ろには、さらに二つの気配があった。

蝶使いと時夜が並ぶ。


三人が揃い、全員が前を見た。


迷いはなく、そのまま戦場に向かって飛び降りる。

風を切りながら、一気に戦場へ向かった。


そのまま恒一が蒼真の横に並ぶ。

時夜と蝶使いが颯の隣に並び、天狗の正面に立った。


五人が揃う。

蒼真がわずかに笑った。

「……やっと来たか」

軽く言うが、その声には熱がある。


誰も返さない。

全員が前を見る。


ここからが、本当の戦いになる。

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