その一人を残して
風が動いた瞬間、五人が同時に踏み込んだ。
先に出るのは蒼真。
迷いのない踏み込みで距離を詰め、そのまま連撃を叩き込む。
一撃で終わらせようとせず、速さを重ねることで、回避の余地ごと削っていた。
その動きに合わせて、横から雷牙が入り込む。
視界の外をなぞるように動き、反応が遅れたところへ一撃を叩き込んだ。
天狗が反撃に移ろうとした瞬間、天狗の周辺の重力が重くなる。
優雅が天狗の動きを押さえつけた。
天狗の踏み込みが鈍り、振り抜くはずだった軌道が、わずかに沈む。
そこへ、翠霞の攻撃が届く。
狙いは正確であり、再生しようとする箇所へ、迷いなく打ち込まれた。
天狗の動きをその場で止め、回復も潰す。
そして、その全てを繋げているのが灯真だった。
蒼真がどこまで踏み込むか。
雷牙がどこを抜けるか。
優雅の重力をどのタイミングで重ねるか。
一瞬先を読み、全員に的確に指示をしていた。
連携のボロが出る前に、修正する。
灯真の頭脳で五人の動きが、完全に噛み合っていた。
攻撃が途切れずに、逃げ場を与えない。
流れはこちらにある。
「いい連携だ……!」
天狗の感嘆の声が混じった。
押している。
確実に、押し込んでいた。
天狗の動きが制限されているのが、全員はっきり分かっていた。
だが、天狗の目が赤色に光る。
五人の個々の動きではなく、戦場全体を見る視線。
天狗は戦闘に適応し、五人の連携そのものを捉え始めていた。
その刹那、蒼真の踏み込みに、ほんのわずかに今までとの差が生まれる。
蒼真の連戦の疲労がここで襲いかかってきた。
蒼真に合わせるように優雅が天狗をその場で固定したことにより、動きが噛み合わなくなる。
「……まずい」
灯真の声が落ちた。
次の瞬間、天狗が一気に踏み込み、高速移動した。
「風閃」
狙いは優雅。
重力で戦場を支配しているこの戦闘の核。
そこを、潰しに来ていた。
「天風脚」
連続で放たれる風を纏った攻撃が、優雅の逃げ場を削っていく。
天狗と優雅の間合いが一瞬で一気に詰まった。
優雅が天狗の動きに応じる。
「重力収束」
周りの瓦礫を浮かし、自分と天狗の間に移動させる。
ほんの一瞬、優雅の動きが遅れた。
天狗は全ての瓦礫を叩き割り、減速の気配すらなく優雅に迫ってきていた。
ほんのわずかな遅れを、天狗は見逃さない。
優雅の目の前にまた高速移動し、もう逃げることが出来ない距離にまで天狗は来ていた。
圧縮された風が集まり始める。
「まずい——」
「間に合わない──」
誰かの声が重なった。
その瞬間、灯真が動く。
一瞬で天狗との距離を詰め、優雅の前に割り込んだ。
「優雅くん、動かないで」
短く言い切る。
同時に、優雅の立つ位置をわずかにずらした。
天狗の攻撃の中心から、ほんの少し外す。
完全に防ぐことはできない。
それでも、結果は変えられる。
そして、一瞬の静寂が破られた。
「天嵐」
空間ごと叩き潰す一撃が、灯真に直撃する。
優雅は弾き飛ばされるが、致命傷ではなかった。
代わりに、灯真が攻撃のすべてを受けた。
体が浮き、そのまま後方へ吹き飛ばされる。
それでも、最後まで視線は戦場を見ていた。
崩れかけた流れを、最後まで見ている。
最後の力を振り絞り、灯真が叫んだ。
「蒼真、雷牙、動けぇぇぇっ!!!」
次の瞬間、地面に叩きつけられる。
もう灯真は動かない。
蒼真と雷牙はすでに天狗に向かって走り出していた。
空気が変わる。
さっきまであった余裕が消える。
四人になった。
その事実が、全員に重くのしかかる。
蒼真と雷牙の正面で、天狗がゆっくりと視線を二人に動かした。
次に狙う相手を選ぶように。
その一瞬の重さを、全員が受け止めていた。




