その一閃の先に
地を抉る音が止まるより先に、蒼真は前へ出ていた。
腕の中の重さを後ろへ預けるようにして颯を離し、そのまま視線を外さずに天狗へ踏み込む。
蒼真には、考える間も確認する間もいらなかった。
今やるべきことは一つだけである。
天狗を一人で抑え込む。
踏み込みと同時に刃を振り抜くが、その軌道は正面で受け止められ、力を流された。
弾かれた勢いをそのまま利用し、体を捻って次の一撃へ繋ぐ。
斬り上げ、踏み込み、さらに間合いを潰した。
受けられる。
だが止めない。
「……手数が多いな」
低く落ちる声が届いた。
蒼真はそのまま天狗に刃を重ねながら、短く返す。
「飽きないだろ」
返しの一撃を弾かれながらも、さらに踏み込んだ。
言葉を切るより早く、次の斬撃が走る。
天狗の足がわずかに引いた。
その分だけ、蒼真は前へ出る。
刀を振るが、天狗に受けられ、全て弾かれた。
蒼真は天狗に呼吸の猶予を与えない。
間合いの内側へ、強引に入り込む。
蒼真は肘で弾き、肩で押し込み、体勢を崩しにかかるが、それでも天狗は最小の動きで処理を続けた。
ただ、その動きは完全ではない。
処理のために使う動きが、わずかに増え始めているのを蒼真は感じていた。
その積み重ねを、蒼真は逃さない。
さらに天狗に向かって踏み込んだ。
踏み込みを重ねるごとに、圧が増していく。
「止まらないな」
わずかな感心を含んだ声が落ちた。
蒼真は答えない。
そのまま間合いの奥へ潜り込み、斬撃を叩き込む。
弾かれるが、蒼真はもう次の攻撃へ移っていた。
蒼真の連撃が続き、とにかく押し込む。
その横合いに、金棒を持った影が滑り込んだ。
「状況は?」
灯真は短く問う。
蒼真は視線を外さずに答えた。
「武器は壊したらしい」
一歩踏み込む。
「でも終わりじゃない」
それだけで灯真には十分だった。
それ以上聞かず、戦場を一瞥して流れを追う。
視線の前ではすでに、蒼真がさらに踏み込んでいた。
止まらずに、ただ前へ出る。
防がれる前提で斬り、弾かれる前提で踏み込み、その上からさらに攻撃を重ねた。
天狗の防御は一切崩れないが、処理に使う動きが確実に増えていく。
その一瞬を、蒼真は見逃さなかった。
(……踏み込みを深くしろ)
強引に間合いの奥へ入り込み、体ごと押し込む。
わずかに蒼真の重心が揺れた。
その刹那、蒼真の気配が天狗の前から消えた。
視界から外れる速さで回り込み、斬撃が連なる。
「――瞬閃連牙!!」
一撃目で刀を受けさせ、二撃目で天狗の位置を固定し、三撃目で逃げ場を削った。
蒼真の斬撃は重ねるごとに圧が増し、連続する衝突が空気を震わせる。
それでも、まだ天狗は崩れない。
だが、蒼真の足は止まらない。
さらに一歩踏み込む。
完全に天狗の間合いの内へ。
天狗の腕がわずかに上がる。
その動きの外へ、蒼真が入り込んだ。
体を捻り、刀を振り抜く。
一瞬だが、音が消えた。
断ち切れる感触だけが、手に残る。




