表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断界の英雄  作者: 明太子
天断来臨
91/99

山嵐、再開

屋敷の奥へと続く廊下を、風が抜けていく。

外ではなく、中に風が流れているように感じた。

しかも一定の方向へ、まるで導かれているように。


颯は足を止めない。

背後に戦っている仲間の気配はあるが、決して振り返らなかった。


(……急げ!……この先にいる)


颯には確信だけがあった。

この先に、“何か”がいる。


廊下の奥まで走りきった颯は、少し汚れた襖を蹴り開けた。


埃が舞う向こう側の広間の中央に、少し背の高い影が立っている。

静かに、ただ立っているだけだった。

それなのに、空間が歪んで見える。


おそらく、風がその周囲を巡っている。

その真ん中にいるのは天狗。


颯は天狗と視線が合った。


その瞬間に理解する。

――やはり強い。


分かってはいたが、膝が笑っている。

しかし颯は一歩踏み出した。

「……最初は俺が相手か」


少し間が空き、やがて低い声が落ちた。

「一人か」

感情のない声だった。


颯はわずかに笑う。

「それはどうかな」


颯の周りの風が揺れると、天狗が口を開けた。

「初めに君が来てくれて嬉しいよ」

「……どういう意味だ?」

「同じ風の技能として、君を殺したかった」

その一言で、空気が冷えた。


颯の視界の端に恐怖が滲む。

それでも颯の足は止まらない。

「試してみろよ」


次の瞬間、颯の姿が消えた。

床を蹴り砕き、一気に天狗に距離を詰める。


「嵐脚!!」

天狗に蹴りが叩き込まれる――はずだった。

嵐脚は当たらなかった。

天狗は最小限の動きで、颯の攻撃を避けている。


(軌道が見えてる……?)

しかし颯は止まらない。

壁を蹴り、天井へ飛び、さらに踏み込んだ。


「風渡り」

空中で颯の足が止まる。


――風を踏んでいる。


目に見えない足場を蹴り、方向と進路をとにかく変え続けた。

そして直角に曲がり、天狗の背後へ回る。


天狗が颯の方へ振り向くより先に、風が分裂した。

颯の姿が三つに増える。

「……見切れるかよ…風影!」


天狗から見て右と左と正面に一人ずつ颯がいる。

同時に自分の方向へ迫る影。

しかし本体は天狗の死角から踏み込んでいた。


「嵐脚!」

確かな手応えは無いが、何かを掠めた感触が残った。

天狗の衣が、わずかに裂けている。


(……当たった!)


少しの高揚。

だが、その感覚はすぐに崩れた。


何も変わっていない。

天狗に傷は付いていなく、今の攻撃は意味を持っていなかった。

天狗は、ただそこに立っている。


「浅い」

短い一言で、颯の動きが一瞬だけ止まる。

しかしすぐに天狗が口を開いた。

「しかし確実に前よりは強くなったな」


天狗の右手が上がる。

そこには何もないはずだった。

だが、天狗の右手に風が集まる。

空気が収束し、形を持ちはじめた。


羽のように重なった空気の層は一つの扇となる。

「……山嵐羽扇」


それが出現したと同時に空気が一変した。

(……重い!)


押し潰されるような圧が部屋中に広がり、颯の動きが鈍くなる。

動こうとしているのに、進めない。

(……なんだ、これ)


屋敷が風に支配されている。

「強くはなったが、お前の攻撃は速いだけだ」

天狗が言った。

「全ての行動が荒く、風の流れを知らない」


颯は悔しそうに歯を食いしばる。

それでも前に出た。

「……まだだッ!!」


風を踏み込み、無理やり距離を詰める。

颯の残像を散らし、全てを叩き込んだ。


その瞬間、天狗の視線がわずかに動く。

「そうか」

ほんの少し、認めるような声の響きだった。


そして――山嵐羽扇が振られる。

「ならば、見せてやる」


風が裂け、空間ごと押し潰すような衝撃が、颯の身体へ迫っていく。


避けるのは間に合わないーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ