指先の一手
カナガラが迅に拳を振り下ろそうとしたーー
その刹那、空間が裂け、玲司がカナガラの拳を間一髪で受け止める。
「お、帰ってきたんだ」
カナガラが少し驚いたように玲司を見つめた。
「ああ……地獄のそこからな」
玲司は血を吐き捨て、ニヤリと笑った。
「いいね、そのボロボロ具合、君にお似合いだ」
「そりゃどうも、お前のおかげでこっちは苦労したんだよ」
カナガラは声を上げて笑いながら言った。
「違うよ!ここまで壊れてるのに……まだ終わってない顔してる」
そう言うとカナガラは玲司の横腹を蹴り飛ばし、もう一度迅の髪を掴んだ。
もう意識がない迅の頭を無理やり持ち上げる。
玲司の体は力なく揺れた。
「なあ」
顔を覗き込む。
「まだいけるでしょ?」
もちろん返事はない。
カナガラが笑う。
「いいよな、それ」
拳を振り上げた。
「壊れてる途中ってさ」
少しだけ首を傾ける。
「一番、楽しいんだよ」
カナガラが拳を振り下ろした。
その直前、玲司の指が動く。
体は震えていた。
それでも、無理やり力を込める。
「……空間跳躍」
一瞬だけ、空間が歪んだ。
迅の体が消え、拳が空を切った。
鈍い風だけが残る。
「……は?」
カナガラの動きが止まった。
消えたその場所へ呆然と視線を戻す。
ゆっくり振り返り、玲司を見つめた。
「つくづく意地が悪いね」
カナガラは玲司に近づき、次は玲司の顔を覗き込もうとしたが、うつ伏せのまま動こうとしない。
意識もほとんどなかった。
カナガラがしゃがみ、顔を寄せる。
「もう動けないのに、あんなこと出来たんだ……人間の本能かな?」
少し間が空いた。
そして、口元が歪む。
「いいな、いいなー」
小さく笑った。
「人間ってほんとに眩しいな」
少し落ち込んだように言った。
立ち上がり、首を鳴らす。
そして、ふっと息を吐いた。
「ここでこの二人壊すの、なんか違うんだよな……」
二人を品定めするように眺めたあと、興味を失ったように視線を外す。
一瞬の間を経て、カナガラは驚いたように迅に視線を戻した。
迅がうっすらだが目を開けていた。
「え!まだ起きるんだ!」
カナガラが驚いたように目を丸くする。
迅はカナガラの言葉を聞き流して、口を開く。
「他の仲間を置いて、逃げるのか?」
その声は小さいながらも確かに届いていた。
「うん、僕はあの人たちに興味は無いからね。今回は僕の負けでいいよ」
楽しそうに言う。
「今の君たちを壊しても、楽しくないからね」
倒れている迅と玲司に背を向けた。
「じゃあまたね」
意識が飛びそうになっている迅に軽く手を振る。
「次はちゃんと壊しに来るからね」
そのまま歩いていき、気配が遠ざかった。
完全に静寂が残る。
張り詰めていた空気が少し緩んだ。
二人は僅かに息を吐いたーー




