歪極
肉が戻り、骨が整う。
歪んでいたはずの体が、何事もなかったように形を取り戻していく。
その様子すら楽しんでいるように、カナガラは肩を揺らした。
「壊し方が変わるね!!」
声が弾んでいた。
さっきまでよりも明らかに。
ただ楽しくなっている。
金属が空中で静止した。
今回はばらけずに、意図を持って配置されている。
玲司が踏み込んだ。
空間が歪み、距離を詰める。
足を振るが届かない。
金属が割り込み、わずかに軌道がずれた。
カナガラは動かない。
「それじゃ、全然足りない」
少しだけ笑った。
指を上げると並んでいた金属が左右に分かれる。
綺麗に、均等に。
「ねぇ、鎖くん。君が処理できる量、超えたらどうなるの?」
その瞬間、引力が生まれる。
左右から一斉に弾かれ、引き合い、空気ごと中央へと流れ込んだ。
「ーー歪極!!」
金属が今までの比ではないほどに加速する。
あらゆる角度から収束していく。
玲司が動く前に、迅が動いた。
鎖が走り、迫る金属を弾き続ける。だが止まらない。弾いたはずの金属が軌道を変え、何度でも戻ってくる。
そして迅の鎖が引かれた。
中心へと、ものすごい力で。
迅の視線がわずかに落ちる。
理解した、その刹那。
鎖が消えた。
音もなく、迷いもなく。
玲司が歯を食いしばり、そこで動けなくなっている。
「……やべぇぞ、これ」
収束が進む。
空気が引かれ、床が軋み、中心で無機質な輪郭を持ち始めた。
カナガラが笑う。
声が生き生きとし始めた。
「ちゃんと二人とも壊れそうだね!!」
さらに指が激しく動く。
収束が一段と強まった。
「逃げ場ないでしょ」
楽しそうに言う。
「こういうのが一番いいね」
迅は迫り来る金属を全て避けながら葛藤していた。
(いったいあいつは何を狙ってる。でも確実にあれが直撃したら俺も玲司も死ぬ。なら……)
迅は深く息を吸いこんで叫んだ。
「玲司!!!逃げろ!!!」
しかし迅の声は玲司には聞こえてない。
そして玲司はもう覚悟を決めていた。
金属の集合体に突っ込んでいく。
玲司の目に宿る光が一段と強くなっていた。
「いや……全部受け止めてやる。まとめて来い」
低く言い放つと空間が裂ける。
収束の中心へ飛び込み、そのまま歪みごと抱え込む。
「少しだけ耐えてくれ!迅さん!!」
瞬時に、玲司の姿が消えた。
収束もろとも、空間の向こうへ消えていく。
引力が途切れ、静寂が落ちた。
大広間から全ての金属が消えている。
もう何もない。
カナガラがゆっくりと周囲を見渡す。
そしてまた笑った。
それは今までで一番楽しそうだった。
「最高だ!!」
はっきりと言う。
「全部なくなるのもいいね」
カナガラは迅をまっすぐに見た。
「でもさ」
笑ったまま一歩踏み出した。
「まだ僕壊したりないんだ」
迅は動かずに、ただカナガラを見ている。
「来い」
短く告げた。
カナガラが踏み込む。
一直線に、迷いなく、笑いながら拳を振る。
迅がカナガラを迎え撃った。
ぶつかり、重い音が響き渡る。
もう二人とも技能は使えない。
それでも空気が震えている。
カナガラが心底楽しそうに笑う。
「いいね、まだ壊せる」
もう、逃げ場はないーー




