壊しがい
空気が張り詰める。
さっきまでとは何かが違うような、押し潰す圧ではなかった。
均衡が、そこにある。
玲司が前に出た。
「来いよ」
短く吐き捨てる。
その瞬間、周囲の金属が一斉に動いた。
玲司の四方から同時に迫る。
しかし玲司は動かなかった。
カナガラは直撃を確信する。
次の刹那、玲司は消えていた。
そしてカナガラが気づいたときには、既に自分の間合いに入られていた。
そのまま拳が振り抜かれる。
カナガラは体をずらすが、避けきれない。
衝撃が入り、体がわずかに後ろに流れる。
「速いね…!」
カナガラが言う。
「でも……それだけだと足りない」
玲司は止まらなかった。
再び消え、別の角度から入り込む。
「足りねぇかどうか、試してみろよ」
低く言いながら玲司が踏み込んだが、その間に金属が割り込んだ。
だが、カナガラの金属が上に吹き飛び、玲司が全ての攻撃をすり抜ける。
カナガラの顔面に拳が入る。
今度はしっかりと。
カナガラの体が後ろへ吹き飛ばされた。
床を削りながら無理矢理止まる。
「……今のは面白いね」
軽く息を吐く。
(何をされた……?)
約数秒の思考の後、背後に気配を感じた。
カナガラが振り向くより早く、カナガラの胴体には迅の鎖が巻きついていた。
「遅い」
短く言う。
「……蛇鎖!」
動けないカナガラの体に、迅の蹴りが入る。
そして、体が宙に浮く。
迅の後ろから玲司が走ってきているのを、カナガラは一瞬だが視認した。
しかし反応は間に合わない。
「空間跳躍!」
浮いたままのカナガラが玲司の前に現れた。
そのまま拳が数発叩き込まれる。
一切の無駄がない連携に雷牙は息を呑んだ。
「……なんだよ、あれ」
悠雅も尊敬の眼差しで二人を見ていた。
「完成されてるな」
その時、迅がわずかに視線を向ける。
「お前ら、下がれ」
短く言った。
雷牙が反応する。
「え? まだ――」
「邪魔になる」
それだけだった。
余計な説明はない。
悠雅は迅の意図をすぐに理解した。
「……行くぞ、雷牙」
雷牙は一瞬だけ食い下がるが、舌打ちして引く。
「チッ……任せたぞ!」
二人が距離を取り、戦場から外れた。
その間にカナガラは体勢を整えようとする。
着地して、ゆっくりと立った。
「判断早いね」
おそらくその言葉は本心である。
「いいね。そういうの嫌いじゃない」
指が動き、部屋中の金属が散らばり始めた。
一つ一つが複雑に別の軌道を持っている。
「君たちの方が、壊しがいがある」
静かに、だが笑いながら言う。
玲司が鼻で笑った。
「上から目線やめろ」
玲司が踏み込むと、空間が歪んだ。
「ぶっ飛ばすぞ」
静寂が破られた瞬間、金属が動く。
だが、迅は動かずに立っている。
それでも、当たらない。
先程と同じように軌道が外れる。
「……外れた?」
カナガラが真剣に呟く。
「いや、違うな」
すぐに訂正し、迅に問いかけた。
「全部鎖で上に飛ばしてるでしょ?やっと見えたよ」
カナガラは気持ちよさそうな顔で笑っている。
迅がわずかに視線を動かした。
「見えただけでは勝てないぞ」
それだけ言う。
呼吸一つ分の間の後、カナガラと迅の距離が消えた。
もう目の前にいる。
迅が自分の体の周りで鎖を振り回している。
「鉄鎖乱舞!」
カナガラの体が大きく弾かれ、床を滑った。
一瞬の静けさ。
その静寂を破ったのはずっと抑えようとしていた、心からのカナガラの笑い声だった。
「いいね!」
はっきりと言う。
「今のは、本当によかった!」
ボロボロの体でゆっくりと立ち上がった。
カナガラは体を回復させながら、目の前の二人を見ている。
「壊し方が変わるね!!」
狂気が濃くなり、戦いは更に深くなる。




