変わらない決意
蝶が舞う。
だがさっきまでとは違う。
荒れているのに、どこか迷いが混じっていた。
人形使いは一歩踏み出し、距離を詰める。
蝶使いが動く。
間合いに入る瞬間、蝶が襲いかかった。
人形使いは避ける。
最小限の動きで蝶の間を抜ける。
「……まだやるの?」
低く問いかける声。
人形使いは止まらない。
「止めに来た」
短く、それだけを言う。
次の瞬間、蝶が弾けるように広がる。
空間が歪みだす。
人形使いは踏み込む。
避けずに、受け流す。
「やめてって言ってるでしょ!」
声が強くなる。
感情が揺れている。
「もう終わりにしたいだけだ」
言葉は静かだが、揺れていない。
蝶使いの動きが荒くなり、攻撃が速くなる。
「終わりにするって何を?ここまで来て、何を終わらせるの?」
距離を詰める。
ほぼ至近距離。
「全部だよ」
即答だった。
その言葉に、一瞬だけ動きが止まる。
だが、すぐに蝶が再び動く。
「ふざけないで」
声が低く落ちる。
「全部って何?そんな簡単に終わらせていいものじゃないでしょ」
人形使いは目を逸らさない。
「簡単じゃない」
一歩踏み込む。
「だから終わらせる」
蝶が迫る。
だがその動きはどこか鈍い。
まだ迷いが混じっている。
「……またそうやって」
蝶使いの声が揺れる。
「全部一人で突き進んで」
攻撃は止まない。
だが、確実に弱まっている。
人形使いはそのまま距離を詰める。
「今回は違う」
静かに言う。
「あの日みたいに逃げない」
その言葉に、蝶使いの目が揺れる。
「……何を」
小さく問う。
人形使いは答える。
「父さんを倒す」
その一言は、はっきりとしていた。
迷いがない。
まっすぐだった。
その姿が昔と重なる。
まだ何も背負っていなかった頃の、弱いのに優しいまっすぐな姿と。
あの日、震えた小さい背中で姉を守ると決意を胸にした彼の姿と。
技能が発現したときに脳のショックで今までの地獄を忘れてしまったあの日の姿と。
(ねぇ、私寂しかったんだよ。守るって約束したのに全部忘れたあなたを見た時。あの日からあなたが今までの事を思い出さないように頑張ってきたんだよ。なのに……なんで?)
蝶使いの呼吸が乱れる。
「……なんで」
掠れた声。
「なんで今さら、そんな顔ができるの」
人形使いは少しだけ目を細める。
「遅いのは分かってる」
短く言う。
「それでもやる」
その言葉は重い。
逃げないと決めた重さがある。
沈黙が落ちる。
蝶がゆっくりと舞う。
さっきまでの荒れ方はない。
静かに。
「……変わらないね」
蝶使いが小さく呟く。
怒りではない。
呆れでもない。
どこか懐かしむような声。
「そういうところ」
人形使いは答えない。
ただ立っている。
その姿のまま。
蝶使いは目を閉じて、息を吐く。
ゆっくりと。
そして、
「……分かった」
静かに言う。
蝶が落ち着いていく。
空間の歪みが消えていく。
戦いが止まる。
完全にではない。
だが、もうさっきまでのような殺意はない。
蝶使いは目を開ける。
「最後まで付き合う」
小さく言う。
「その代わり」
わずかに視線を上げる。
「ちゃんと終わらせなさい」
その言葉は人形使いの心に深く刺さった。
人形使いは、静かに頷くーー




