表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断界の英雄  作者: 明太子
天断来臨
81/100

止められた一撃

蝶の猛進が終わった。

「……あとは頼んだぞ」

そのまま蓮が倒れ込む。


その背後で空気が歪む。

蓮が耐えている間、ずっと溜めていた。


「もう一回だ!!」

その瞬間、渦が走る。

「――渦喰!!」


響の一撃が鱗粉を巻き込み、空間を裂く。

一直線に、蝶使いへ――


だが、静かな声。

「……甘いわ」


翠霞は見逃さなかった。

群れから外れた、たった一匹の蝶。

それが――割り込む。


「っ――!」

次の瞬間、空気が歪んだ。

ぶつかった蝶を起点に衝撃が内側から膨れ上がる。

巻き込まれた波動がわずかに揺らぎ、吸収の流れが乱れる。


渦喰の軌道が崩れた。

押し切るはずだった力が、均衡を失う。


そして――

渦は、そのまま掻き消されるように消えていった。


「……は?」

響の声が、止まる。


渾身の一撃が完全に消えた。

「それで終わりだと思った?」


蝶使いがわずかに笑う。

「まだよ」


その一言で、戦場の空気が凍る。


蝶が動いた。

百翼葬の残滓。


いや――まだ、終わっていない。

蓮が前に出ようとした。


しかし体が動かない。

「……っ」


限界だった。

触手も伸びない。

身体がもう戦えないと告げている。


「くそ……」

膝が落ちた。


「蓮!!」

翠霞の叫び。


だが、蝶は無慈悲にも止まらない。

翠霞が毒針を飛ばすが間に合わない。

全員死んでしまう。


その瞬間――音が、消えた。


羽ばたきが止まる。

蝶が空中で静止する。

爆発の直前で。


「……え」

誰も理解できない。


ただ一人、その場の外に立つ影。

親指と人差し指で円を作っている。


その中に蝶使いを捉えている。

「……捉えた」


その目は、揺れていない。

「――止まれ」


世界が止まる。

たった三秒、それだけだった。


だが、十分だった。

空気が凍り、蝶が動かない。

時間が断たれている。


「……時夜さん……?」

翠霞が息を呑む。


だが、時夜は答えない。

指がわずかに震えている。


長くは持たない。

「……早くしろ」


小さく吐き捨てた。

その三秒の中で足音が響く。


静かに一歩ずつ。

その人物は戦場へと入ってくる。


止まった蝶の中を何も恐れずに通り抜ける。

そして蝶使いの前で、立ち止まる。


「……もうやめて」

小さな声だった。

しかし確かに届いた。


時間が戻り、蝶使いが動き出す。

それに合わせて蝶が再び羽ばたく。


だが、もう先ほどの流れではない。

蝶使いの目がら揺れている。


「……なんで」

声が低くなる。

「なんで、あなたがここにいるの?」


その問いに、彼は目を伏せた。

また一歩、近づく。


「……ごめん」

その一言でまた空気が変わった。

舞っている蝶がざわめいた。


揺れている。

感情が漏れる。


「……今さら」

声が震える。

「何を……今さら……!」


怒りか、悲しみか。

そのどちらも抑えきれない。


戦場の中心で、二人は向き合う。

もう戦いではない。

もっと――深いもの。


蓮が、掠れた声で呟く。

「……なんだよ、これ……」


誰も動けない。

ただ見ているしかない。


蝶が静かに舞っていた。


まるで――

壊れる瞬間を待つかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ