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断界の英雄  作者: 明太子
星喰天誅
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112/115

絶縁

ラグナの右手に、見たこともない色をした電気が集まり始めた。

青白い火花ではない。

もっと鈍く、もっと不気味で、触れれば骨の髄まで焼き切られそうな異質な電流だった。


雷牙はその違和感から目を離せなかった。

嫌な予感が、背筋を這い上がる。


ラグナが軽く指を鳴らす。

直後、空気が震え始めた。


「絶縁」

低く落とされたその一言と同時に、雷牙の身体を走っていた電気信号がぷつりと途切れる。

筋肉が命令を受け付けない。

脚に力を込めても膝は崩れ、指先だけが痙攣した。


「何を……した……」

かろうじて絞り出した声に、ラグナは肩を竦める。

「身体を動かす信号を止めた。簡単に言えば、お前の身体はもうお前の言うことを聞かねぇ」


雷牙は歯を食いしばり、立ち上がろうとする。

だが足元はふらつき、全身が震えた。

踏み込むどころか、立っているだけで精一杯だった。


弐番隊が廃ショッピングモールに突入する約20分前、フードコートを見回しながら、ナギトは静かに言った。

「ラグナ、しばらくここで暴れてくれ」

「暴れるだけでいいのか?」


ラグナの問いに、ナギトは薄く笑う。

「あぁ…あ、それともう一つ」


視線を上げたまま、ナギトは人差し指を上に指した。


「戦闘中でいいから、この建物に電気を通しておいてくれ」

「は?」

「必要になる」


意味がわからない、とでも言いたげにラグナは眉をひそめたが、すぐに口元を吊り上げた。

「……まぁいい。面白そうだしな」


そして現在。


「まだ立つか」

ラグナは倒れない雷牙を見下ろし、愉快そうに笑った。


「……時間が出来た」

ラグナが両腕を振り下ろした。

「天衝!!」


空気を叩きつけるような大規模な放電が、雷牙の頭上から降り注いだ。

轟音とともに閃光が走り、その電流は床下の配線、壁の内側、天井裏へと一気に広がっていく。

ラグナが放った放電が、ショッピングモール全体に電気を通したのだ。

まるで巨大な獲物に血を巡らせるように。


絶縁をモロに喰らっている雷牙は、避けることも、防ぐこともできない。

直撃を受け、身体の奥まで痺れが突き抜ける。

感覚がさらに麻痺し、視界の端が白く飛んだ。


「どうした、雷牙!!さっきまでの勢いは!!」

ラグナは裂光と電遷を重ね、容赦なく攻め立てる。

雷牙は何度も吹き飛ばされ、床を転がった。

だが、倒れたままでは終われない。


(やるなら……今だろ!!)

震える腕で床を押し、歯を食いしばって立ち上がる。

「驟破!!」


全身の力を振り絞った一撃。

だが、絶縁と天衝の影響で雷牙の速度は死んでいた。

踏み込みは鈍く、拳は重く、狙いは読まれるまでもない。


ラグナはあっさりと身をかわし、冷たく言い放つ。

「……遅ぇ」


次の瞬間、雷牙の身体は再び叩き伏せられた。

視界も霞み、音も遠い。

床に頬をつけたまま、雷牙は荒い息を吐いた。


(このままじゃ……負ける)

それでも、諦めることだけはできなかった。

指先を動かそうとする。

膝を立てようとする。

ほんの少しでも身体を言うことを聞かせようと、もがき続けた。


だが、絶縁は容赦なく彼の自由を奪っていた。

薄れゆく意識の中で、雷牙の脳裏に浮かんだのは、裂光を発動したラグナの姿だった。


全身を駆け巡る電気。

身体能力を極限まで引き上げる、あの力。


雷牙は、かすれた声で呟く。

「身体に……雷を流す……」


その瞬間、彼の中で何かが繋がりかけた。

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