絶縁
ラグナの右手に、見たこともない色をした電気が集まり始めた。
青白い火花ではない。
もっと鈍く、もっと不気味で、触れれば骨の髄まで焼き切られそうな異質な電流だった。
雷牙はその違和感から目を離せなかった。
嫌な予感が、背筋を這い上がる。
ラグナが軽く指を鳴らす。
直後、空気が震え始めた。
「絶縁」
低く落とされたその一言と同時に、雷牙の身体を走っていた電気信号がぷつりと途切れる。
筋肉が命令を受け付けない。
脚に力を込めても膝は崩れ、指先だけが痙攣した。
「何を……した……」
かろうじて絞り出した声に、ラグナは肩を竦める。
「身体を動かす信号を止めた。簡単に言えば、お前の身体はもうお前の言うことを聞かねぇ」
雷牙は歯を食いしばり、立ち上がろうとする。
だが足元はふらつき、全身が震えた。
踏み込むどころか、立っているだけで精一杯だった。
弐番隊が廃ショッピングモールに突入する約20分前、フードコートを見回しながら、ナギトは静かに言った。
「ラグナ、しばらくここで暴れてくれ」
「暴れるだけでいいのか?」
ラグナの問いに、ナギトは薄く笑う。
「あぁ…あ、それともう一つ」
視線を上げたまま、ナギトは人差し指を上に指した。
「戦闘中でいいから、この建物に電気を通しておいてくれ」
「は?」
「必要になる」
意味がわからない、とでも言いたげにラグナは眉をひそめたが、すぐに口元を吊り上げた。
「……まぁいい。面白そうだしな」
そして現在。
「まだ立つか」
ラグナは倒れない雷牙を見下ろし、愉快そうに笑った。
「……時間が出来た」
ラグナが両腕を振り下ろした。
「天衝!!」
空気を叩きつけるような大規模な放電が、雷牙の頭上から降り注いだ。
轟音とともに閃光が走り、その電流は床下の配線、壁の内側、天井裏へと一気に広がっていく。
ラグナが放った放電が、ショッピングモール全体に電気を通したのだ。
まるで巨大な獲物に血を巡らせるように。
絶縁をモロに喰らっている雷牙は、避けることも、防ぐこともできない。
直撃を受け、身体の奥まで痺れが突き抜ける。
感覚がさらに麻痺し、視界の端が白く飛んだ。
「どうした、雷牙!!さっきまでの勢いは!!」
ラグナは裂光と電遷を重ね、容赦なく攻め立てる。
雷牙は何度も吹き飛ばされ、床を転がった。
だが、倒れたままでは終われない。
(やるなら……今だろ!!)
震える腕で床を押し、歯を食いしばって立ち上がる。
「驟破!!」
全身の力を振り絞った一撃。
だが、絶縁と天衝の影響で雷牙の速度は死んでいた。
踏み込みは鈍く、拳は重く、狙いは読まれるまでもない。
ラグナはあっさりと身をかわし、冷たく言い放つ。
「……遅ぇ」
次の瞬間、雷牙の身体は再び叩き伏せられた。
視界も霞み、音も遠い。
床に頬をつけたまま、雷牙は荒い息を吐いた。
(このままじゃ……負ける)
それでも、諦めることだけはできなかった。
指先を動かそうとする。
膝を立てようとする。
ほんの少しでも身体を言うことを聞かせようと、もがき続けた。
だが、絶縁は容赦なく彼の自由を奪っていた。
薄れゆく意識の中で、雷牙の脳裏に浮かんだのは、裂光を発動したラグナの姿だった。
全身を駆け巡る電気。
身体能力を極限まで引き上げる、あの力。
雷牙は、かすれた声で呟く。
「身体に……雷を流す……」
その瞬間、彼の中で何かが繋がりかけた。




