裂光
フードコートの床には、先ほどまでの激突で生まれたひび割れが走り、倒れた椅子や割れた皿が散乱していた。
照明は半分以上が落ち、残った明かりも不安定に瞬いている。
そんな中で、二人だけが異様な熱を帯びていた。
「もっと楽しませてくれよ!!雷牙!!」
楽しそうな笑みを浮かべたラグナに対し、雷牙は静かに拳を構える。
その目に迷いはない。
相手が何者であろうと、今は目の前の一撃を受け止めるだけだと、全身が告げていた。
先に仕掛けたのはラグナだった。
その姿が掻き消える。
「ッ!」
雷牙は反射的に身を捻った。背後から放たれた蹴りが脇腹をかすめる。
「避けたか!」
ラグナは最初は笑っていたが、その表情はすぐに驚きへと変わった。
蹴りをかわした雷牙が、間髪入れず拳を返していたからだ。
拳はラグナの横腹を掠め、浅い裂傷を刻む。
「……はは」
ラグナは頬に触れ、指先に残った痛みを確かめる。
「今の俺に触れるか」
雷牙は構えを崩さない。
「よくわかんねぇけど……来るなら、殴るだけだ」
その言葉に、ラグナの目がわずかに見開かれる。次の瞬間には、堪えきれないように笑い声を上げていた。
「ハハハハハ!!やっぱ最高だよ、お前!」
ラグナが雷牙に向かって歩いて進んでいった。
「いいぜ!!もっとだ!!!」
再び二人がぶつかり合う。
今度は一歩も譲らない。
ラグナは電遷で姿を消し、実体化した瞬間に拳を打ち込む。
雷牙も気配を捉えるや否や、迷わず拳を叩き込んだ。正面、背後、側面と同時に放たれる打撃を、雷牙は迎え撃ち、ラグナはさらに速度を上げる。
拳と蹴りが空を裂き、時に肉を捉え、轟音と衝撃がフードコート全体を揺らした。
一撃ごとに空気が震え、床の破片が跳ねる。
だが、どれだけ速くても、どれだけ鋭くても、雷牙はとにかく食らいついた。
視界の端で光が弾けるたび、身体が勝手に反応する。理屈ではなく、戦いの中で磨かれた勘だけが、ラグナの軌道を追っていた。
やがて、ラグナの拳が雷牙の頬を打ち抜く。
吹き飛ばされた雷牙は、空中で体勢を立て直すと、そのまま突っ込んだ。
「紫電撃!」
雷を纏った拳が迫る。
ラグナはそれを腕で受け止めると、凄まじい衝撃が周囲へ広がった。
床が砕け、破片が跳ねる。
それでも、ラグナの口元には笑みが浮かんでいた。
「悪くねぇ。だが、まだ足りねぇ」
言い終わると共に、全身から電気が噴き上がる。
青白い光がフードコートを飲み込み、割れかけた照明が次々と破裂した。
「……裂光!!」
漏れ出していた電流が、一気に膨れ上がる。
「何だ……?」
雷牙が目を見開く。
ただの放電ではない。
空間そのものが歪んだように見え、ラグナの輪郭が光の残像に溶けていく。
雷牙の本能が、今までとは比べものにならない危険を感じ取っていた。
ラグナが床を蹴った。
陥没した床から跳ねるように、姿が消える。
「なっ――」
次の瞬間、雷牙の腹に強烈な拳がめり込んだ。
「がはっ!」
雷牙は吹き飛び、壁へ叩きつけられる。
だが、攻撃はそこで終わらない。
姿を消したラグナが、背後から、側面から、正面から、次々と打撃を叩き込む。
「遅ぇ!」
「ぐっ!」
「まだまだァ!!」
圧倒的な速度と圧倒的な破壊力。
雷牙は防戦一方に追い込まれた。
それでも、何度吹き飛ばされても立ち上がる。
床に膝をついても、壁に叩きつけられても、視線だけは逸らさない。
ラグナの気配を追い、次の一撃を待つ。
だが、その一撃は待つ間もなく襲いかかってくる。
「……ハハ」
ラグナは嬉しそうに笑った。
「最高だよ、雷牙。こんなに楽しい戦いは久しぶりだぜ」
雷牙は血を拭う。
細かい理屈は分からない。
だが、目の前の相手が危険だということだけは本能で理解していた。
ラグナの身体を見据える。
全身を駆け巡る電気。
絶えず高出力で流れ続ける電流。
その熱が、嫌な予感となって身体の奥へ染み込んできていた。
そのときだった。
ラグナがゆっくりと右手を持ち上げる。
そこに、これまでとは明らかに異質な電気が集まり始めた。
空気が震える。
本能が警鐘を鳴らす。
危険だ、あれだけは受けてはいけない。
雷牙の足が、無意識に床を踏みしめる。
逃げるべきだと分かっていても、視線はその右手から離れない。
あの一撃を受ければ、次はない。
そう確信させるだけの圧が、そこにはあった。
ラグナは笑った。
「楽しかったぜ!!雷牙ァ!!だからこそ――次で終わらせてもらう!!」
雷牙は拳を握り締める。
理屈は分からない。
それでも、あの右手だけは見逃せないと、身体が叫んでいた。
雷牙はただ、その右手を見据えた。




