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断界の英雄  作者: 明太子
星喰天誅
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歓迎

弐番隊は廃ショッピングモールに到着していた。

三年前に閉鎖された巨大なモールは、外壁が崩れ、窓の大半も割れたまま沈黙している。


人気はない、あるはずがない。

立入禁止区域の奥からは、何かが蠢いている気配が漏れていた。

風のない空間に、妙な圧迫感だけが満ちている。


そして何より奇妙だったのは、そこから救助要請が出ていたことだ。

誰が、何のために、この廃墟のどこから。


「……ここから救助要請があったんですよね」

蒼真が建物を見上げる。


「ああ。通信記録も残っている」

迅が短く返した。

だが、その声には確信よりも警戒が滲んでいた。

「だが油断はするな。何かがおかしい」


その一言で、全員の空気が引き締まる。

廃ショッピングモールは静かすぎた。

静かすぎるからこそ、救助を求める声だけが、場違いに思えた。

助けを呼んだはずの場所が、まるでこちらを待っているような気がした。


「最初から分かれて探索する」

迅の指示で、弐番隊は複数班に分かれ、モール内部へ入った。


蒼真、迅、時夜、恒一、紫乃の五人は、一階の吹き抜けホールへ向かう。

ホールの脇には本屋があり、そこからも内部へ入れる構造だった。


薄暗い空間、崩れた手すり、床に散らばる本。

埃の匂いの中、ホールの中央に妙に整った一角が存在していた。

その中央で男が一人、本を読んでいる。


「……人?」

紫乃が目を見開く。


古びたベンチに腰掛けた男は、この土地の歴史書を静かにめくっていた。

まるで、彼らが来るのを知っていたかのように。


「おい」

蒼真が声をかける。


男は読んでいた本を閉じ、ゆっくりこちらを見ながら立ち上がった。

それは無駄のない動きだった。

ただそれだけで、空気が張り詰める。

「やっと来てくれた、歓迎するよ」


迅と時夜の表情がわずかに変わる。

「お前は誰だ」

迅が問う。


男は微笑んだ。

「レイ、みんなにはそう呼ばれている」


次の瞬間、轟音がホール内を裂いた。

天井を突き破って、巨大な骸骨の拳が吹き抜けの空間へ落ちてくる。


「っ!?」

蒼真たちは咄嗟に飛び退く。

ホールが半壊し、脇の本屋の棚も崩れ落ちる。

瓦礫の向こうから巨大な影が姿を現した。


「上だ!」

迅の叫びに、蒼真と時夜が即座に動く。

迅は鎖を屋上の縁へ投げ、引っ掛けた。

「行くぞ!」

三人は鎖を掴み、一気に上階へ駆け上がる。


屋上に吹き抜ける風の中、一人の男が立っていた。

背後には巨大な骸骨が立っており、その存在だけで、空気が重くなる。

「お前たちの相手は俺だ」


蒼真たちは静かに構えた。

男は余裕の笑みを浮かべ、獲物を値踏みするように彼らを見下ろしている。

まるで、こちらが踏み込んでくることまで最初から織り込み済みだったかのように。


雷牙、蓮、奏の三人はフードコート付近へ辿り着く。

そこでは、一人の男が好き勝手に暴れていた。

ひっくり返ったテーブル、砕けた食器、散乱する瓦礫。

その中心で、男は遊ぶように笑っている。


「ん?」

ラグナが三人へ視線を向けた。

そして、口元を歪める。

「やっと来たか!」


雷牙が一歩前へ出る。

「この騒ぎを起こしているのはお前だな」


「さぁな!!」

ラグナは豪快に笑った。


だが、すぐにラグナの冷たい視線が蓮と奏を射抜く。

「……いや、お前らは呼んでねぇ」


一瞬の衝撃と共に、蓮と奏は別方向へ吹き飛ばされた。

「蓮!奏!大丈夫か!!」


「問題ねぇよ!!」

瓦礫の向こうから蓮の声が返る。


雷牙はラグナを見据えたまま言った。

「二人は先に行け……こいつは俺がやる!!」


ラグナは楽しげに肩を鳴らした。

これから始まる戦いを、心から待ち望んでいる笑みだった。


モール内を進む蓮と奏の端末が反応する。

『救助要請発信源を再補足』

『場所――地下搬入口』


二人は顔を見合わせた。

「……やっぱり罠じゃねぇか」

蓮が低く呟く。


「でも、向こうが待ってるなら行くしかない」

奏もすぐに理解する。


止まる理由にはならない。

むしろ、敵が待ち構えていると分かったことで、胸の奥が熱を帯びる。


地下搬入口のコンテナの上に、一人の男が座っていた。

「やっと来たか」

ナギトはゆっくり立ち上がる。

静かな声だったが、確かな圧があった。


レイは本をベンチ脇の棚へ戻し、恒一と紫乃を見た。

互いに一歩も引かない。

レイの穏やかとはいえない視線の奥に、底知れない冷たさが潜んでいた。


ガイは蒼真たちを見下ろし、不敵に笑う。

「三人まとめて相手してやるよ」

蒼真、迅、時夜は静かに戦闘態勢に入った。


ラグナは肩を鳴らしながら笑う。

「さぁ、二人で遊ぼうぜ」

雷牙は誘いに乗るように、一歩踏み出す。


ナギトはコンテナの上から蓮と奏を見下ろした。

「歓迎しよう。せいぜい足掻いてくれ」

蓮と奏は警戒を強める。


レイは二人へ視線を向ける。

「では、始めようか」

恒一と紫乃は、静かに構えた。


歓迎の宴は、もう始まっていた。

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