驟破
「踏み込み、か……」
訓練場に一人で雷牙は立っていた。
蒼真との模擬戦から数日、雷牙は毎日のように訓練場へ通い、蒼真から教わった踏み込みを意識した修行を続けていた。
「はぁっ!」
気合いと共に地面を蹴る。
脚へ雷を流し、一気に前へ飛び出す。
「うおっ!?」
しかし、勢いを制御できず、そのまま訓練用の的へ突っ込んだ。
盛大な音が訓練場に響き渡る。
「いてて……」
雷牙は顔をしかめながら立ち上がった。
「なんか違ぇんだよな……」
確かに速くはなっている。
だが、これでは駄目だ。
ただ勢い任せに突っ込んでいるだけでは、実戦では使い物にならない。
雷牙は再び構えた。
脚へ雷を流し、地面を蹴る。
今度は雷を抑えてみたが、今度は加速が足りない。
「違ぇ!」
さらに雷を強める。
しかし今度は勢いが乗りすぎ、狙った場所で止まれない。
「これでもねぇ!」
何度繰り返しても雷牙は納得できず、気づけば訓練場の床には無数の足跡が刻まれていた。
それでも雷牙は修行を止めなかった。
何十回目かの踏み込みを終えた時、雷牙は大きく息を吐く。
「くそっ……!」
苛立ちを隠せないまま、いつもより強く地面を蹴った。
しかし、踏み込んだ足が僅かに滑る。
「やべっ」
身体が大きく前へ傾いた。
転ぶ、と思った雷牙は、反射的に脚へ雷を集中させる。
次の瞬間、景色が一変した。
「……は?」
気づけば雷牙は訓練場の反対側まで移動していた。
勢いを殺しきれず、そのまま壁へ激突する。
「ぶっ!?」
壁に叩きつけられた雷牙は、その場に座り込んだ。
しばらく呆然としていたが、やがてゆっくりと顔を上げる。
「……今の何だ?」
先程の感覚は、今までとは明らかに違った。
雷牙は立ち上がり、もう一度地面を蹴る。
「違ぇ」
再び試したが、何度繰り返しても、先程の加速は再現できない。
「違ぇって!」
雷牙は苛立ちながらも修行を続ける。
気づけば外は薄暗くなり始めていた。
それでも雷牙は諦めない。
何十回と繰り返し、ようやく違和感に気づいた。
「……あ」
雷を流すタイミングだ。
今までは最初から最後まで脚へ雷を流し続けていた。
だが、あの時は違う。
転びそうになったあの瞬間だけ。
踏み込む、その一瞬だけ脚に雷を集中させていた。
「……試してみるか」
雷牙は深く息を吐き、ゆっくりと構える。
そして踏み込む瞬間だけ脚へ雷を集中させる。
すると、身体が弾けるような速度で前へ飛び出した。
「……できた!!!」
今までとは比べ物にならない速度だった。
だが、雷牙はすぐに表情を曇らせる。
「でもこれだけじゃ意味ねぇな」
速いだけでは足りない。
自分が欲しいのは速さそのものではない。
「俺が欲しいのは……ぶっ飛ばす力だ」
雷牙は訓練用人形へ視線を向ける。
そして、不敵に笑った。
「だったら話は簡単だろ、この勢いのまま全力で殴ればいい」
雷牙は拳を握り締める。
脚へ雷を集中させ、訓練用人形を見据えた。
「行くぞ……!」
地面を蹴った瞬間、景色が一気に流れる。
一瞬で人形の眼前へ迫った雷牙は、その勢いを乗せたまま拳を突き出した。
「紫電撃!!」
轟音が訓練場に響き渡る。
訓練用人形は大きく吹き飛び、壁へ激突した後、そのまま粉々に砕け散った。
訓練場はしばらく静まり返っていた。
雷牙はゆっくりと自分の拳を見る。
そして、口元を歪めた。
「……驟破」
新たな技の名を口にする。
しかし、雷牙の表情はすぐに引き締まった。
右手を前へ突き出し、指先へ意識を集中させる。
小さな雷が発生したが、その雷はすぐに霧散してしまった。
「ちっ……」
雷牙は舌打ちする。
「まだ駄目か」
驟破は完成した。
だが、雷牙の求める強さにはまだ届いていない。
雷牙は再び構えを取る。
「もう一回だ」
そう呟くと、再び地面を蹴った。
訓練場には、再び激しい衝撃音が響き始めた。




