疑問
断界戦線本部の一室。
窓の外では、赤く染まった空が静かに揺れている。
天狗との戦いから数日後、部屋の中には包帯姿の隊員たちが転がっていた。
雷牙は椅子へ深く座り、蓮は机へ突っ伏している。
響は包帯の巻かれた腕を動かしながら顔をしかめ、奏はその隣で資料を眺めていた。
時夜はソファへ沈み込んだまま目を閉じている。
颯だけは窓際へ立ち、静かに外を見ていた。
「……静かすぎて逆に落ち着かねぇな」
雷牙が机へ顔を埋めたまま呟く。
颯が鼻で笑った。
「お前が騒いでないからだろ」
「怪我人に厳しくない?」
「元気そうだから問題ない」
そのやり取りを聞きながら、恒一は新しい隊服を見下ろしていた。
「……これ、本当に着んのか」
少し嫌そうな声が聞こえてくる。
響が視線を向ける。
「似合ってんじゃないの」
「慰めになってねぇよ」
恒一が即座に返した。
灯真が静かに口を開いた。
「安心して、まだ誰も似合ってるとは言ってないよ」
恒一がゆっくり振り返る。
「お前わざわざ追撃してきたのか?」
その横で、紫乃が隊服の袖を軽く引っ張った。
「……これちょっと大きい」
「そこなのかよ」
恒一が頭を抱え、小さな笑いが広がる。
その空気の中で、翠霞が小瓶を揺らしながら、ふっと口元を緩めた。
「でも、前よりはマシなんじゃない?」
恒一が視線を向ける。
翠霞は少し肩を竦めた。
「最初に会った時、すっごい怖かったし」
「……そんな顔してたか?」
「してた」
遠くから優雅が即答する。
翠霞も小さく頷いた。
「今はちゃんと喋れてるね」
恒一が少し言葉に詰まる。
その言葉を聞き、玲司がニヤついた。
「成長したなぁ恒一くん」
「うるせぇ」
迅が小さく笑う。
戦いの傷はまだ残っているが、こうして全員が同じ場所にいるだけで、少しだけ安心できるような空気があった。
その時、蒼真が松葉杖をつきながら立ち上がる。
部屋の空気が少し静まった。
蒼真は迅を見る。
「こんなときにすみません、迅さん」
迅が顔を上げた。
「少し時間いいですか」
その声に、時夜がゆっくり目を開けた。
蒼真は少し迷うように視線を落とす。
「……俺の兄ちゃんのこと、聞かせてください」
蓮が口を閉じ、雷牙も腕を組んだまま黙った。
翠霞も小瓶を握ったまま視線を落とす。
時夜だけが小さく目を細めた。
長い沈黙が続き、やがて迅が立ち上がった。
「……場所を変えるか」
時夜も無言で立ち上がる。
蒼真は二人の後ろを追っていった。
部屋の扉が閉まり、静かな空気だけが残る。
恒一が小さく息を吐いた。
「なんか……聞いちゃいけねぇ感じだったな」
奏が静かに資料を閉じる。
「壱番隊の話は、あまり表に出ないですからね」
翠霞は窓の外を見たまま呟いた。
「……まだ終わってないんですよ、多分」
その言葉を誰も否定しなかった。
夕陽だけが静かに部屋を染めていく。
場面が変わり、暗い部屋。
小さな灯りだけが机を照らしていた。
「天狗が落ちたか」
低い声が響く。
別の誰かが笑う。
「随分派手に暴れたみたいだな。おい、カナガラ!天狗はどんな感じだった?」
カナガラは机の真ん中に置いてあった煎餅を取りながら言った。
「うーん…いつもと同じ感じだったよ?まあいつもを知らないんだけどさ」
その時、カリッという静かな音が部屋の奥から反響してきた。
何か硬いものを食べるような音だった。
部屋の奥の暗闇の中に、一つの影が座っている。
姿はよく見えないが、その周囲の空気だけが異様に重
かった。
しばらく沈黙が続いたが、やがて静かな声が響いた。
「なぁ、お前ら」
その瞬間、部屋の空気が僅かに張り詰める。
「蒼真って知ってるか?」
誰も、すぐには答えなかった。




