表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらボロ小屋でした。〜住人の笑顔が燃料なので、全力でおもてなしします〜  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/40

第36話:不法投棄は認めない

 何が起きたか、最初の一秒は分からなかった。


 センサーが悲鳴を上げ、レーダーが塗り潰され、全方向からの衝撃警告が同時に炸裂する。


 俺は反射的に全センサーを天頂へ向けた。


 そこに、あった。


 百二十一隻。

 星の隙間を埋め尽くす、巨大な艦隊が。


(……ずっと、そこにいたのか)


 真っ白だった。


 レーダー画面が衝撃波と電磁ノイズで塗りつぶされ、外部センサーが過負荷で断末魔の悲鳴を上げている。

 落下する二百四十発の質量弾。

 その運動エネルギーは大気そのものを灼き、空間を歪めていた。


 コンマ数秒、俺の演算装置が弾き出した結論は、あまりにも冷酷な「絶望」だった。

 防げない。結界を張ったところで、この物理エネルギーの前では紙細工も同然だ。

 撃ち落とせない。飛行体の火力では、山のようなタングステンの塊を逸らすことすら叶わない。


 王都は、ここで終わる。 


 でも。


(……防ぎ切るのは不可能……)


 俺の意識の中で、一つのシステムが静かに起動した。


(……物理で勝てない? ルールが違う? 笑わせるな。俺の管理区域フィールドに落ちてくるなら、それはもはや物理現象じゃない。――ただの『不法投棄物』だ)


【買取システム:起動】

【対象:落下中質量弾 高純度タングステン・カーボン合金:計240件】

【買取価格:算定中……】

【算定中……】

【単価:28,000BP × 発射数:240発】

【合計:6,720,000BP】

【買取を実行しますか?】


(……当たり前だ。不法投棄は一欠片も許さねぇ。――全部、買い叩けッ!!)


 王都の直上。世界を滅ぼすはずだった光の雨が、音もなく消失した。


 ◇


 最初に気づいたのは、城壁の上で死を覚悟していたリュシアンだった。

 白く染まった夜空に剣を構えたまま、彼は彫像のように固まっていた。

 来る、と確信していた。防げない、と理解していた。それでも、彼は勇者として空を睨みつけていた。


 だが。


 衝撃が、来ない。


 大気を引き裂く轟音は天に満ちているのに、地面一つ揺れない。

 夜空を切り裂いた光が、都を灼きつくすはずの礫が――王都の真上で、吸い込まれるように消えたのだ。


「……何が」

 リュシアンの声が、掠れた。

「……何が、起きてるんだ……」


 ミリアが空を見上げたまま、腰を抜かして座り込んでいた。


 王都全体が、あまりの異常事態に沈黙していた。


 食事の手が止まり、傾いた酒杯から中身がこぼれることさえ忘れ、全員が「消えていく光」を、奇跡を、目撃していた。


 誰も、声を上げない。


 最後の一条が消滅し、夜空に再び星々が戻った瞬間、絶叫に近い歓声が爆発した。


 静寂。


 それから。


「……奇跡だ」


 誰かが、呟いた。


 その言葉が、王都に広がっていく。


「奇跡だ!! お家様が、空を食ったぞ!!」

「守られた! また、あの神の家に守られたんだ!!」


 歓声が上がった。

 さっきの歓声とは違う。恐怖が混じった、震えるような声だった。


 チャリン、チャリン、チャリン、チャリン――。


【通知:廃棄物買取完了 ―― +6,720,000BP】

【通知:王都住民の信仰急増 ―― 計測限界超過】

【通知:奇跡認定による信仰BPチャージ ―― 大規模更新中】


(……廃棄物扱いで六百万超えか。宇宙兵器ってのは、いい商売になるな)


 ミアが俺の柱に顔を押しつけた。


「……お家様、やった!!」


(……まあ、な)


 俺は石畳を一度温めた。


 ルカが飛び跳ねながら叫んだ。


「すごい!! お家様すごい!! 光が全部消えた!!」


「ルカ、落ち着いて」


「落ち着けないよ!!」


 カシムが帳簿を開きながら、小さく口笛を吹いた。


「大量の廃棄物回収。お家様、廃品回収業者としても最強ですな。カッカッカ」


(……笑い事じゃない)


 俺はすでに、次の問題に意識を向けていた。


 今の買い取りは、あくまで「落ちてきたもの」に対する防衛的処置に過ぎない。

 高性能レーダーは、なおも軌道上に留まる百二十一隻の「不法投棄の主」を捉えていた。


 ◇


 高性能レーダーが、軌道上の情報を吐き出し続けている。


 120隻の艦隊は、微動だにしていない。


 質量弾を全弾消失させられても、艦隊は動揺していないのか。それとも状況を把握できていないのか。


 いずれにせよ、時間の問題だ。


 俺は鑑定スキルを全開にして、艦隊の詳細を解析した。


【鑑定結果:更新】

【旗艦 全長:約1,000m】

【装甲材質:魔導合金】

【推進方式:魔力結晶炉・複数基搭載】

【武装:質量加速砲 多数 / 魔導砲台 多数 / 魔物格納庫 複数】

【搭乗戦力:推定数万】


【巡洋戦艦 全長:約500m ×120隻】

【装甲材質:魔導合金】

【武装:質量加速砲 / 魔導砲台】

【搭乗戦力:推定数千(各艦)】


(……桁が違う)


 巡洋戦艦一隻だけで、王都の騎士団全体より多い戦力を抱えている。

 それが、百二十隻。

 さらに旗艦が一隻。


 地上戦力では、届かない。

 魔法では、攻撃できない。

 飛行体を送り込んでも、艦隊の装甲を傷つけることすら不可能だろう。


 この世界の常識では、対処できない。


 リュシアンが城壁の上から夜空を見ていた。


「……まだいるのか」


「ええ」


 ミリアが震える声で答えた。


「……あの艦隊、私の魔法では届かない。結界を張っても、さっきの質量弾をもう一度撃ってくれば――」


「次は防げないかもしれない、ってことか」


「お家様が防いでくれたけど……同じ手が何度も通じるとは限らない。それに」


 ミリアが俺の城塞を見た。


「……お家様にも、限界がある」


(……正確に言えばな)


 買取システムは有効だが、相手が学習すれば対策を取ってくる。

 次は同時に数千発を撃ち込んでくるかもしれない。

 あるいは、別の攻撃手段を使うかもしれない。


 そして、もう一つの問題がある。


 俺は旗艦の解析を続けていた。


 旗艦の中心部に、異常な魔力反応がある。


 質量弾の発射装置でも、魔導砲台でもない。

 生体反応に近い、有機的な魔力の波動。


(……これは)


 俺はデータを照合した。


 先日感知した、魔王の魔力と、同じ質だ。


【警告:旗艦中枢部に生体魔力反応】

【照合結果:魔王と同質の魔力波動を確認】


(……魔王が、艦隊にいる)


 地上で倒したのは、囮か。分身か。あるいは魔王の「体の一部」だったのか。


 本体は、軌道上の旗艦にいる。


 その瞬間、ミリアが震えた。


「……リュシアン」


「感じるか」


「ええ。……旗艦から、魔力が。さっきの魔王と同じ、でもずっと大きい。あれが――」


「本体か」


 リュシアンが剣の柄を握った。剣はもうない。でも、その手は握りしめていた。


「……なるほどな。最初から、地上は囮だったわけか」


「おそらく。地上の戦力を消耗させて、王都を疲弊させて、その後で」


「本体が動く」


 二人が同時に夜空を見上げた。


 星の間に、光の粒が並んでいる。

 百二十一隻の艦隊が、軌道上で静かに待っている。


「……どうする、お家様」


 リュシアンが俺の柱に向かって言った。


(……考えている)


 俺は状況を整理した。


 王都は守れた。今のところは。

 だが、敵艦隊は無傷だ。

 魔王は旗艦にいる。

 再び質量弾を撃たれる可能性がある。

 艦隊が降下を始めれば、地上の防衛など意味をなさない。


 防戦だけでは、詰む。


 俺は城塞のシステムを確認した。


【浮遊推進システム:稼働中】

【最大高度:現在の三倍まで拡張可能】

【推進出力:追加BP投入により向上可能】

【軌道計算システム:搭載済み】

【城塞外装:追加改造可能】


 軌道計算システム。搭載済み。未使用。


(……いつの間に積んでたんだ、これ)


 俺はカタログを開いた。


 進化ツリーがバグっているせいで、見たことのないカテゴリが混入している。

 前に軍事ドローンが「マイホーム特集」に混じっていた。


 そして今、「城塞改造オプション」のカテゴリの最下部に。


【対軌道戦装備パッケージ:2,000,000BP】

【内容:軌道上昇推進システム強化 / 真空対応結界 / 対艦魔導砲台 / 乗員用与圧システム】


(……やっぱりバグってるな、このカタログ)

(なんで城塞のカタログに「対軌道戦装備」が入ってるんだ)

(まあ、今は文句を言っている場合じゃないけどな)


 俺はもう一度、状況を見た。


 地上から攻撃できない。

 待っていても状況は悪化する。

 防戦だけでは詰む。


 では、答えは一つしかない。


(……向こうが来られないなら、こっちから行くしかない)


 ミアが俺の柱の前に立っていた。


「……お家様、考えてる顔してる」


(……顔はないけどな)


「あるよ。柱の温度が変わるんだもん。いつも考えてる時は、ちょっと冷たくなる」


(……そんな細かいこと、気づいてたのか)


「ずっと一緒にいるんだから」


 ミアが柱に手を当てた。


「……どこかに行くんですか」


 俺は少し間を置いた。


(……行く、かもしれない)


「遠い?」


(……遠い)


 ミアが柱から手を離さないまま、夜空を見上げた。


「……帰ってきますか」


(……帰ってくる)


 俺は石畳を強く一度だけ温めた。


 ミアが少し笑った。


「……分かりました。信じます」


 チャリン。


【通知:家人からの深い信頼 ――+500BP】


(……500BPか。でも、これが一番重い)


 ◇


 俺はシステムの最終確認を行った。


【現在の形態:浮遊機動城塞都市】

【現在の保有BP:約9,000,000BP(買取・信仰BP込み)】

【対軌道戦装備パッケージ:購入可能】

【軌道計算システム:待機中】

【イージス:稼働可能】

【陽電子砲:再充填中(残り約48時間)】


 九百万BP。


 対軌道戦装備パッケージが二百万。

 残り七百万で艦隊と戦う。


 勝てるか。


 一キロメートルの巨大な旗艦。巡洋戦艦が五百メートル級が百二十隻。

 魔王が旗艦にいる。

 リュシアンの剣は消えた。


 問題だらけだ。


 でも。


(……問題があるなら、一つずつ解決すればいい)


 それが、俺の仕事のやり方だ。

 ボロ小屋の頃から、変わっていない。


 リュシアンが城壁の端に立って、俺を見ていた。


「……行くのか、お家様」


(……ああ)


 俺は城塞の推進システムを起動した。


「上か」


(……上だ)


 リュシアンが夜空を見上げた。星々の隙間に整然と並ぶ艦隊の光は、獲物を待つ獣の眼光のように冷たく王都を見下ろしている。


「……俺も連れていけ。剣は失ったが、まだ体は動く。あんた一人(一軒)で行かせるわけにはいかない」


 リュシアンが俺の柱に手をかけ、真剣な眼差しを向けてくる。

 だが、俺は無言で、城塞の全てのハッチを「ガチリ」と音を立ててロックした。


(……いいや。ここからは、人間は連れていけない)


 俺は石畳を鋭く鳴らして拒絶した。


「……足手まとい、か……」


 リュシアンが低く、絞り出すような声を出した。その拳は白くなるほど強く握りしめられている。魔王を倒し、世界を救うはずの勇者が、最大の決戦を前に「置いていかれる」という事実に、彼の自尊心が悲鳴を上げていた。


「違うわ、リュシアン」


 ミリアが静かに、彼の肩に手を置いた。


「……あそこは、私たちの魔法も、あなたの剣も届かない『空の果て』。空気もなく、血が沸騰するような絶望の場所よ。お家様は、私たちを足手まといだと思ってるんじゃない」


 ミリアが、慈しむように俺の壁に手を触れた。


「……お家様は、家だもの。自分の『住人』を、そんな地獄へ連れて行けるわけがないわ」


 カシムが帳簿を抱えたまま言った。


「お家様、王都を留守にするということでよろしいですか」


(……そうなる)


「では、その間の王都防衛について、騎士団長と協議が必要ですな」


(……カシム)


「はい」


(……今は、それだけでいい)


 カシムが帳簿を閉じた。


「……承知いたしました。」


 ◇


 俺は夜空を見上げた。


 星の間に、百二十一隻の艦隊が並んでいる。

 旗艦の中心に、魔王がいる。

 陽電子砲の充填は四十八時間後。

 リュシアンの剣はない。


 浮遊機動城塞都市の俺で――


 本当に、あの艦隊に勝てるのか。


 答えは、まだない。


 でも、やるしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ