表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらボロ小屋でした。〜住人の笑顔が燃料なので、全力でおもてなしします〜  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

第35話:凱歌の余韻と、星空を裂く絶望

 歓声が、王都を物理的に揺らした。


 城壁の上で、騎士たちがボロボロの拳を突き上げた。

 広場では、冒険者たちが互いの血まみれの肩を叩き合い、地べたに座り込んで笑っている。

 路地の隅に隠れていた市民たちが、おそるおそる、だが確信を持って顔を出し、崩れるように泣き出した。


 老いた兵士が、隣の若い兵士に抱きついた。

 昨日まで顔も知らなかった二人が、ただ生き残ったという一点だけで、同じ声で笑っていた。


 そこには、身分も所属も関係なかった。

 王国騎士団長が石畳に膝をつき、祈るように額を地につける。その隣では、名も知れぬ物乞いの老人が、同じように天を仰いで嗚咽していた。


 戦いは、終わった。


 俺は城塞の上から、その光景をセンサーで捉えていた。


(……終わった、か)


 静かに、俺は自分の中の回路を一度、冷却させた。


 ◇


 戦闘が終息してから、俺はひたすら動き続けた。


 飛行体が王都の各地を飛び回り、瓦礫の下に埋まった負傷者を引き出す。アイテムボックスから医薬品と包帯を展開し、応急処置に当たる騎士たちの手元に次々と補充した。回復薬が底をつきかけた野戦病院に、在庫を丸ごと転送する。


【アイテムボックス出力:医薬品各種 ―― 大量展開中】

【アイテムボックス出力:包帯・消毒液 ―― 大量展開中】

【アイテムボックス出力:食料・飲料水 ―― 大量展開中】


 瓦礫に挟まれた小さな手を飛行体が引き抜いた時、泥だらけの子供を抱きしめた母親が叫んだ。言葉にならない、ただの振動のような声。生きている、という事実だけが、その一呼吸一呼吸に詰まっていた。


 城塞の広場には、俺が急造した「炊き出し処」が立ち並ぶ。

 コンソメスープの香り、炊きたての白米の湯気。

 今日ばかりは、A5ランク和牛のステーキも全弾解禁だ。


「……なんだ、これ。涙で味がしねぇ……。でも、うめぇよ……」


 血まみれの手で肉を頬張った騎士が、そのまま動けなくなっている。


「……本当に、うまい」


 泣きながら食べていた。


 その隣で、ルカが同じ肉を幸せそうにほおばっていた。


「お家様のお肉、世界一!」

「ルカ、今は戦いが終わったばかりなんだから……」


 ミアがたしなめつつも、自分も温かいスープを一口飲み、安堵に目を細めた。


 ャリン、チャリン、チャリン、チャリン――!!


 BPの流入が、計測を超え始めた。


【通知:感謝によるBP還元 ―― 計測限界超過、集計中】

【通知:信仰BPチャージ ―― 王都住民・全域更新中】

【通知:新規信仰登録 ―― 騎士団員・多数】

【通知:新規信仰登録 ―― 王都市民・多数】

【通知:新規信仰登録 ―― ――】


 通知が、途切れない。


(……後で集計しよう)


 今はまだ、やることがある。


 ◇


 王宮の広間には、俺が提供した「和平と祝勝の宴」が並んだ。


 カシムが王宮の侍従と迅速に交渉し、城塞の食料を王宮に「緊急供与」することになったのだ。どんな地獄の後でも商機を、あるいは『恩義』という名の無形資産を積み増すことを忘れない男。頼もしい限りだ。


 チョコレートフォンデュに、カスタードプリン。

 王族たちが、震える手でスプーンを持った。


「……な、なんだ、この滑らかさは……。天界の食べ物か?」

「甘い。甘すぎる。この世界に、これほどまでの幸福があったというのか……」


「魔法、あるいは『真心』でございます」


 カシムがにこやかに、それでいて慇懃に答えた。


「カザン村、改め『聖魔導居住圏』の総意として、本日は王都の皆様へ進上いたします」


 王が、カシムを静かに、だが鋭く見た。


「……カザン村。あの廃村が、これほどの力と慈悲を持つに至ったとはな。すべては、あの家……お家様のおかげか」

「左様でございます。お家様こそが我らのすべてにございます」


 王が、ゆっくりと立ち上がった。

 広間にいた全員が、息を呑む。

 王は窓の外、夕暮れに染まる白亜の城塞を見た。


 侍従も、王族も、騎士団長も、誰一人として声を上げない。

 王が、窓の外の城塞を見た。白亜の城壁が、夕暮れの光の中に静かにそびえている。


「……余は、あの城に礼を言いたい。王の権威でも、国家の代表としてでもない。一人の、守られた人間としてだ」


 王がゆっくりと、深く、家に向かって頭を下げた。

 一国の王が、家に向かって、頭を下げた。


「……礼を言う。王都を、わが民を、守ってくれた。感謝する」


 その瞬間。


 チャリン。


【通知:王国民からの感謝 ―― +5,000,000BP】


(……王都全体の感謝は、えげつない額が来るんだな)


 俺は少しだけ、驚いた。


 ◇


 城塞の広場に戻ると、住民たちの話し声が聞こえてきた。


「あの家、神の使いじゃないか」

「いや、守護神そのものだろ」

「城が空を飛んで、魔王を倒したんだぞ。神じゃなかったら何だ」

「カザン村、一度行ってみたいな。あそこにいれば安全だろ」

「俺も家族を連れていきたい。あんな場所、他にないぞ」


 俺は柱を一度鳴らした。


(……神様じゃないんだけどな)


 でも、言葉がないから訂正できない。


 ◇


 城塞の広場。ミアが俺の柱にそっと手を当てた。


「……お家様、みんなが『神様』だって言ってるよ」

(……俺はただの、セキュリティの行き届いた家なんだがな)


「ふふ、お家様、また石畳がポカポカしてる。照れてるの?」

(……システム温度が上昇しているだけだ。照れてない)


(……照れてない)


 アが笑った。その笑顔一つで、俺の演算回路の疲れが吹き飛ぶ。

「照れてるじゃないですか」


 チャリン。


 ◇


 夜が近づいてきた。

 リュシアンが城壁に腰を下ろし、夜風に吹かれていた。ミリアが隣に座り、無言で、だが丁寧に回復魔法をかけ続けている。


「……終わったな」

「そうね。終わったわね」

「剣……なくなっちまったな」


 しばらく、二人とも黙っていた。

 風が城壁を吹き抜けて、リュシアンの髪を揺らした。


「俺たち、いつか元の世界に帰れるのかな」


 ミリアが少し黙った。


「……分からないわ。でも、今は……あのお家様のところで、もう少し『住人』をしていてもいいかなって、思うの」

「……そうか。そうだな。悪くない」


 リュシアンが空を見上げた。


 夕暮れが終わり、夜の色が広がってきた。最初の星が、一つ瞬いた。


「……この世界の星、多いな」


「ええ。元の世界より、ずっと多い気がする」


「そうか。……悪くないな」


 ミリアが小さく笑った。


「珍しいこと言うじゃない」


「たまにはいいだろ」


 ルカが二人の間に割り込み、夜空を指さした。


「お星様、いっぱい! きれいだね!」

「ああ、きれいだな……」


 リュシアンがルカの頭に手を乗せた。


 その、安らかな会話の途中で。


 ◇


 俺はセンサーの感度を、禁忌の領域まで引き上げた。大気圏外。衛星軌道。


(……まてよ)


 俺はセンサーの感度を最大まで引き上げた。大気圏外。衛星軌道上。


 そこに、影があった。

 一つではない。三十、四十。いや、それ以上。


(……なんだ、ありゃ。鑑定、全機能解放!!)


 俺は高性能レーダーと鑑定スキルを同時に起動した。データが流れ込んでくる。


【鑑定結果】

【全長:約1km 超巨大旗艦 ×1】

【全長:約500m 巡洋戦艦 ×120】

【所属:魔王軍艦隊】

【現在位置:王都直上 衛星軌道上】


(……宇宙艦隊だと? ファンタジーじゃなかったのかよ!?)


 俺の意識が、コンマ数秒、凍り付いた。

 魔王を倒した? 軍勢を撃退した?


 だが、魔王軍は地上だけではなかった。遥か上空、大気圏の外側に、一切の気配を殺して展開していた艦隊が、今この瞬間に動き始めている。


(……あの魔族の兵士の最後の言葉)


「魔王様のお体は――」


 続きが聞けなかった。今は分からない。でも今重要なのは、そこじゃない。


 軌道上の艦隊が、動いている。


 その瞬間、センサーが警告を発した。


【警告:衛星軌道上に敵影を確認】

【警告:高出力電磁加速反応を検知】

【警告:目標 ―― 王都直上】


 警告が、俺の脳内に絶叫のように響き渡る。


【緊急警告:衛星軌道上より、高出力電磁加速マスドライバー反応を検知】

【目標:王都直上 ―― 質量弾、射出まで10秒】


 軌道上から質量弾を撃ち込む。大気圏を突破した質量弾は超高速で地表に到達する。その運動エネルギーは、魔導カノンどころではない。爆発すら必要ない。ただ落ちてくるだけで、王都を壊滅させる。


【質量弾 発射まで:10秒】


 十秒。


 俺は結界を最大まで展開した。


【結界展開:最大出力】

【BP消費:300,000BP/秒】


 カザン村は守れる。ミアも、ルカも、住民たちも守れる。


 でも、王都は。


 まだそこに、何万人もの人間がいる。さっきまで泣きながら肉を食っていた騎士が、今も広場にいる。路地の隅で抱き合っていた親子が、まだそこにいる。王に頭を下げた市民たちが、まだそこにいる。


【質量弾 発射まで:8秒】


 リュシアンが、弾かれたように立ち上がった。

「……お家様、空が変だ。何か、嫌な予感がする!」


 俺は城塞の警報を最大音量で鳴らした。


 広場の歓声が消えた。食事の手が止まった。全員が空を見上げた。


「上か」


 リュシアンが夜空を見上げた。


【質量弾 発射まで:5秒】


 星の間に、光の粒が瞬いている。一つではない。無数にある。


 その奥に、星とは違う影が並んでいた。まるで夜空そのものが艦隊になったかのように、巨大な船体が静かに王都を見下ろしている。


「……あれ、全部」


 ミリアが立ち上がって、光の粒を見つめた。その顔が青ざめていく。


「……来る」


【質量弾 発射まで:4秒】


 ミアが俺の柱に掴まった。


「……お家様!」


 ルカが叫んだ。


「お家様、どうするの!?」


【発射まで:2秒】


 空気が、猛烈な熱を帯びて呻き始める。

 星が落ちてくるのではない。

 『絶望』という名の質量の塊が、重力の神に背中を押されて、王都へ向かって牙を剥いた。


【0秒 ―― 質量弾、大気圏突入】


 夜空が、真っ白に染まった。

 数十条の光が、天を切り裂いて降ってくる。


 ――空が、落ちてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ