感情吐露
例えばコップの中の水が満タンなのに、まだいけるって水を流し込んだらどうなる?
夜、PCの前でにらめっこをしている。
時計の針がぐるぐる回っていくが、PCから打ち出された文字は何一つない。
溜息を吐き出すことおそらく二桁。PCで開いていた小説作成のページを閉じた。
かけない。
俗に言うところのスランプである。
何を書きたいのか、わからなくなってきてしまっている。
書いていた小説はもう完結まじかだ。短い小説だったが何人かの読者の感想やレビュー評価によって救われたおかげで書き続けられてきた。
しかし、だがしかし、かけない。
終が見えなくなってしまった。
…嘘だ。
終わりは決めている。
これは、私の問題。
「今本当に完結させていいのか?」「もっといい終わりがあるのでは?」「これ以上、作品をかけるのか?」
…この小説に、愛着が湧いてしまって完結させようと思っても、なかなかそこまで踏み切れない状態だった。
自分の小説は、好きだ。
生み出したキャラクターに愛着が湧いた。
生み出したキャラは、私が動かさないと何もしないしそこで止まってしまう。
多分私は、このキャラが動くのをずっと見たいのだと思う。
しかし、それは甘えだ。
物語は完成するからこそ、美しく、できるだけ綺麗な形で終わりたい。
私が初めて、表に出した作品だからこそベストを尽くしてみたいのだ。
そう意気込んだはいいものの、書き出しが思いつかない。
物書きの知り合いが少ない私の相談相手はただひとり、彼だ。
電話をかける、数コールすると、彼が電話に出てくれた。
電話に出てくれた彼に状況を伝えた。
「…と、いうわけで…絶賛スランプなんですよ…」
「スランプ…あー、なんかいい感じにかけないのか」
「そういうのないの?」
「あんまないなぁ…なんていうか、勝手に自由に動いていく感じ」
「自由に…んー……」
「こう…ギャップ以外のところでは、行動をテンプレ化してるんだよね俺は」
「テンプレ化」
「…まぁ、海には、無理かもだけど」
「……むり、かぁ」
一瞬胸がずくりと重たくなる。
無理。私にはできない。
そう言われたからではなく、私も無理だと彼の言葉を聞いて認めてしまったから。
なんというか、息が詰まる。
書き方なんて誰にでもあるし、いや、なんていうかもう、ただ純粋に彼に無理だと言われると思っていなかった自分がいた。
なんだかんだ、優しくて明るい彼は私が傷つくような言葉は選ばないし、強い言葉もあまり使わない。
だから、無理という言葉の大きさに驚いた。
重石みたいに心に黒いのがドンと落ちてきた。
ダメだ…彼は相談に乗ってくれているのに、しっかり、聞かなきゃ。
でも、なんだろう音が遠くなるような気がしてる。
しっかり聞いていくのに、水の中で音を聞くみたいにぼやぼやしてる。
「…無理…か」
「え?」
「私には、無理だと、思う…?」
ポロリと言葉が溢れた。
言うつもりなんて、別になかったけどなんでだろう。
出てしまった。意識せずに。
「なんで、私には無理って思ったの…?向いてないから?空くんには、出来ても私にはできないって、こと…?」
「いや、そういう意味じゃ」
「違わないでしょ」
なんて、嫌な言葉。
本当に私の口から出てる言葉なのだろうか。
重々しい。泥の塊みたいな言葉で彼のこと、汚さないで。
でも、開いた口から吐き出される言葉は止まらない。
いや、止めたくなかったのかもしれない。
「いいよね、才能もあって、努力もできて、周りの評価に振り回されないで…楽しそうに、書いて、それで、売れるんだから本当に…っすごい、私には、絶対に、できない…。それを、毎回楽しそうに私なら絶対に喜んで、祝ってくれるって、信じてやまない声で、報告してくるのがどれだけ、しんどかったのか、考えたことなんて、なかったでしょ…。悔しい、なんで、こんな、空くんのことはすき、友人として誇らしく思う、本が売れて、嬉しいって思う、それも嘘じゃないけど、私は、もう、喜べないかもしれない…。苦しい、私だけ、こうなのが、もう、耐えられないかもしれない。ごめん、ごめんなさい。今日はもう、電話、きる…ね」
彼の返事を聞く前に電話を切る。
そのまま、ベッドに体を沈めた。
情けない声。
熱も相手への情も、悔しさも全部混ざって弱々しい。
傷つけてしまった。
どうしよう。どうしよう。
苦しい、どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
言うつもりなんてなかった。
最悪だ。嫌われる。謝らなきゃ。
でも、今何を言ったところで、全部言い訳にしか聞こえない。
頭がぐるぐるする。お腹が痛い。心臓が重苦しい。
スマフォが光る。
コール音が鳴る。
空くんから。
出なきゃ、謝って…謝ってどうしよう。
応答を押そうとする指が震える。
───……結局ボタンは押せなかった。
その後、何度もメッセージの通知音が響いた。
何も聞きたくない、何も見たくない。
ベッドの中で丸くなって、耳をふさぐ。
何もかけない。
何も思いつかない。
そんな、ことが頭の中をぐるぐると巡っていた。
気が付けば、私は息苦しい中、意識をゆっくりと沈めた。
水は溢れる。




