自覚と焦燥感
夏の日には何かが起こる。
始まりは夏でした。とても暑い日だったことを覚えています。
彼とはよく電話で話していました。共通の趣味があったからでしょう。
お互いに小説を書き合うから。しかし、私は気恥ずかしくて作品を彼に見せたことはありませんでした。彼も茶化すようなことを言っていましたが強く見せてくれと頼んできたことはありませんでした。彼の良いところです。
彼の作品も、私は見たことはありませんでした。お互い別々のサイトに毎回投稿していました。
電話は何気ない会話でした。
「最近暑いよね。こうも暑いと外出るの嫌になっちゃうね」
「俺は別に暑いの平気だけどなぁ~…」
「そうなんだ。いいなぁ~こう暑いとね~。最近楽しいこともないし」
なんて、何気ないなんてこともない。ドラマだったら覚えられない程度のそんな会話でした。
なにがきっかけだったのかは覚えていません。
しかし、彼が何か言いたそうにしていたことだけは覚えています。
クーラーで冷えた部屋、空調の音が響いていました。
「俺さ、今度本出すことになったんだ…!」
なんて、無邪気に話す彼の声が一瞬遠く聞こえました。
やけにセミの声が大きくて、空調の音が耳の奥でずっと鳴っていました。
刹那のような永久に近い時間。ハッとして急いで返事を返しました。
「え!おめでとう!すごいじゃん!えー!お祝いしなきゃだね!」
私の友人はなんてすごいのでしょう!
自慢したい気持ちでいっぱいでした。素直にお祝いしなきゃとその日は柄にもなくずっとテンションが高かったような気がします。
その後、発売日をこっそり先に教えてもらっていましたが彼の好意で、本を送ってもらいました。
分厚い小説です。彼の熱意がこもっていることがわかります。
表紙を撫でる。完成された本。
暖かい紅茶を淹れて、一息ついて彼の本に震える指で触れました。
私のほうが気恥ずかしくて、なんだか緊張してしましました。
時計の長い針が二周したくらいにパタンと、読み終えた本を閉じました。
───あぁ、読まなければ良かった。
心の底からそう思いました。
才能溢れる、惹きつける魅力…というのでしょうか、彼の生み出した物語は終わってほしくない夏休みのように楽しくて、暑くて、毎日ワクワクするようなそんな物語でした。
終わってほしくない瞬間が続くような…すばらしい小説でした。
面白い、素敵な本。
だからこそ、私は余計に惨めな気持ちになってしまいました。
すごく、本当に、面白い
ユーモアなセンスに溢れていて、自分では、…私では絶対に書き上げることができない物語。
理解しました。
私は馬鹿でいたかったのかもしれません。
しかし、どうしてでしょう、私は案外馬鹿でなかったようです。
彼と並ぶことができない。
ただ、強く私がそう思ってしまったのです。
目の奥が少しだけ熱くなります。…今日はとても、暑いからです。
それ以上でもそれ以下でもありません。
机の上に置かれた、すっかりぬるくなってしまった紅茶に口をつけます。
お菓子を用意するべきでした、少し渋くなってしまったようです。
送ってもらった本は、今は本棚の奥、隅っこの方に片付けています。大切に。
彼に送ってもらった本がちゃんと届いたことを知らせました。
彼は少し、照れくさそうに
「どうだった…?」
と、無邪気な笑顔で私にナイフを突きつけてきました。
一瞬、嫌な汗が流れそうになりました。
「すごく面白かった!当たり前のことしか言えなくてごめん!でも、本当に面白かったよ…」
そう、言葉を返したことを覚えています。
笑って




