ep.55 委員長ちゃんと不良生徒くん
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「氷塊投〈アイススロー〉!」
ドロシーが魔法を発動させると、空中に拳大の氷塊が出現した。杖で指し示した標的目掛けて物凄い速度で射出される。
先頭を走る鋼鉄蟻に氷塊が直撃、顔が潰れてひっくり返った。
氷とは名ばかり。ただつぶてを投擲させただけのようだが、それはそれでえげつない威力だった。
(ほう、ドロシーは上級冒険者だけあって、複数の属性持ちか?)
などと事情通の体で知ったかぶりをかましているのは、戦闘を見守っているオレ。後方(前方)で腕を組み、偉そうに実況解説を務めちゃったりする。
ドロシーは火球〈ファイアボール〉を多用していたので、てっきり火属性魔法を得意としているモノと思われたが、意外に氷属性魔法も使えるらしい。
これがゲームなどの話なら、火と氷では対局に位置しており、一方を得意とするならば、もう一方が苦手だったりするモノだが、実際は別に制約なく振るえるようだ。
(やっぱり鋼鉄蟻程度、姐さんの敵じゃないな)
姐さんというのは、オレによる勝手な敬称だ。ドロシーの実年齢は知らない。
経験豊富で言動も大人。仲間の中で年長者然とした振る舞いをするが、成果主義が常であり、数字上の線引きがいい加減な世界なので、年齢に関する事柄も不明確だ。
けれど、少なくとも見た目で言えば、仲間の中で一番若い。
人伝で聞いた話だが、ドロシーは上級冒険者の最年少合格記録保持者だそうだ。
やはりその顔は、まだあどけなさが残る……ような気もする。背丈も小柄で、長身寄りのオレとは頭一つ分以上の差があった。
(まあでも、やっぱり本当のところはわからないので、実は美魔女という可能性もなきにしもあらず……魔法使いだけにな!)
「氷塊投〈アイススロー〉」
ドロシーは遠距離から鋼鉄蟻を着実に仕留めていく。敵が近寄る暇を与えない。
「う、うっし、敵が何だろうと、俺様も負けてらんねぇな」
ドロシーの鮮やかな手並みに、対抗心を燃やしたジョニィが前へ出る。二人の標的が重なり、不用意に魔法の射線上に入ってしまう。
しかも間が悪いことに、魔法を連発していたドロシーは、その一発を放つとき、技名を叫んで仲間に告知するのを忘れてしまっていた。
「避けろ馬鹿者!」
「へ――ぬおっ!?」
ドロシーが声を張り上げ警告を飛ばし、反射的にジョニィが振り返ると、鼻先を剛速球の氷塊がかすめた。やや狙いが逸れて着弾した鋼鉄蟻は脚がもげる。
「っぶな! あっぶな! や、やい、ドロシー! テメェは俺を殺す気か、バカ!」
間一髪のところで命拾いしたジョニィは、怒気満面でドロシーに詰め寄る。
「馬鹿はお前だ! 何度言わせるんだ! 魔法使いの真正面に立つ奴があるか、阿呆!」
「うるせぇ! あの位置が攻めやすかったんだよ、グズ! そっちは後衛だろうが、ネクラ! ちったぁ融通を利かせやがれ、イシアタマ!」
「……言わせておけば好き放題に……! このっ、馬鹿阿保間抜け! アンポンタン!」
(小学生の口喧嘩か……)
売り言葉に買い言葉。あのドロシー先輩もジョニィに絡まれるときに限り、悪影響を受けて知能指数が激減した。
このようにドロシーとジョニィは度々仲違いをする。
さすがに憎み合うほどではないが、性格が正反対の二人は相性が悪い。さながら水と油。委員長と不良生徒のように反発し合う。
「お前とは、一度きちんと話し合わなければならないようだな、ジョニィ」
「お? いつぞやのようにまた決闘か? ジョーキュー魔法使いサマは、やっすいプライドを守るのに必死だな」
「なんだと!」
「やんのか、コラ!」
(相手との実力差は歴然としてるだろうに……ジョニィ、お前はどうしてそう喧嘩腰なんだ……ん? おい、まずいぞこれ――)
戦闘中だというのに、二人は口論は過熱させる。鋼鉄蟻から意識が外れてしまっていた。
「おぉーい! 魔物が来てるぞぉぉー!!」
「ああ!?」
「なに――うわあっ!?」
オレがフォローに回ろうと駆け出した時だった。接近する鋼鉄蟻にドロシーが慌てたせいで、洞窟を照らす魔法が途切れてしまう。
瞬間、ブレイカーが落ちたように明りが落ちる。
「おわっ!? お、おい早く明りを!」
「わ、分かっている! 詠唱するから黙っていろ!」
人間は外部情報を得るのに、大部分を視覚に頼っている。急に外界から遮断された二人は、パニックに陥ってしまっているようだ。
しかし、視界ゼロの中で身動きが取れない人間が居る一方で、魔物共は健在だった。
暗闇に生息する奴らは、端から視覚に頼らず生きている。音や臭い。振動や熱といった微細な環境の変化を、特殊な感覚器官で捉えて獲物の位置を特定するのだ。
その証拠に、ドロシーが魔法を唱えている間にも、鋼鉄蟻が立てるガザガザという音が迫って来ている。
もはや、一刻の猶予もない。
「二人とも伏せてろ!」
洞察スキル〈千里眼・黒〉
スキルの効果により、オレの目には、暗闇で蠢く鋼鉄蟻の輪郭が浮き出て見える。標的の位置を割り出し一直線に向かう。
(やむを得ない、か――)
身体能力強化スキル〈筋力増加・超〉発動。
無理でも走力を上げたお陰で戦線に到着する。しかし、無理に走力を上げたせいで、足下の岩に躓き前のめりに体勢を崩す。
だが、逆にその勢いを活かして敵陣へ戦鎚を振り下ろした。
「うおぉぉぉ!!」
「ひぃ!?」
「でりゃあッ!」
「うくっ! な、何事だ――!?」
「ふんっ!」
暗闇の洞窟内にオレの掛け声と外骨格を砕く破壊音、それから怯えた二人の悲鳴が上がる。
――遅れること十数秒後。ドロシーの魔法が再び展開されると周囲に明りが戻る。
「うげっ!? コ、コレ、みんなお前がやったのか!?」
辺りには鋼鉄蟻の死体の山が積み上がっている。体液を撒き散らし、頭をつぶされてもピクピクと脚が痙攣している姿がなんともアレだ。
「なんと……あの一瞬で……!」
瞬く間に魔物を打ち倒したオレの妙技に、二人は驚嘆する――とはいかず、目の前の惨状に困惑しているようだ。
「えっと……ま、まぐれだぞ? 出たとこ勝負だったけど、上手くいってよかったぜ! ……な、なーんて」
「まぐれって、いくらなんでも……あの暗闇だぞ?」
「あー……それは、うん……野生の勘? みたいな、ね……コツを掴めばそんなに難しくないと思うぞ、きっと……」
咄嗟に行動したオレは、いい訳の一つも考えておらず、しどもろもどろになりながら答えた。二人から懐疑的な目を向けられて、背中に冷や汗が滲む。
「そ、そんなことより、先を――」
「んなことよか! やいやいドロシー! 俺ぁ、まださっきの件を許しちゃいねぇからな!」
焦ったオレが話題をすり替えようとしていたところ、ジョニィが割り入って、訝しんでいるドロシーに懲りずに噛み付いた。
「はぁ? 許すもなにも、非があるのはそちらだろう! 弱い癖に戦場をウロチョロしおってからに」
「んだと、テメェ! こ、この俺様が弱いだって!?」
「ふん、事実だ」
「ま、まあまあ、二人とも落ち着いて……」
(二人がケンカする度に、思わずオレが仲裁に入ってるけど……ああ……損な役回りが定着しそうだ――)
「――ん?」
再び口論を始める二人に呆れつつ、それをなだめようとオレが歩み寄ると、足の裏に不自然な感触を覚える。
「どうした?」
「ああ、うん。今、何か踏んだような……何か沈み込んだような気がして……」
「それって、もしかして……」
オレが話した違和感の正体に、ドロシーは思い当たる節がある模様。ハッとした表情で息を呑んだ。
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