ep.51 彼を想ふ帰路
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「予定より話し込んでしまったな……」
男爵邸から表に出ると、もう日が傾き始めていた。
(彼の捜索は、明日以降にしたほうが良さそうだ)
野獣と暴漢は夜行性と相場が決まっている。夜間に下町の辺りをうろつくのは危険だ。
腕に覚えがあるとはいえ、私は魔法使い。近接戦には滅法弱く、いつ何時暴漢が飛び出して来るとも分からない路地は不利に働く。
荒事には慣れているものの、抵抗したところで女の細腕ではたかが知れており、悔しいが男の腕力には敵わない。掴まってしまえば一巻の終わりだ。
(……こういうときばかりは、戦士職が羨ましくなるな……)
一応、泥人形〈ゴーレム〉を召喚し、護衛として連れ歩くという手段もあることにはあるが、奴は動きが緩慢なので随伴させるには適していない。
召喚は事前に契約の代償を支払うので、小魔力の消費量は少ない部類の魔法だ。
けれども、いかな召喚魔法といえど、常時展開していれば消耗するし、そもそも町中で戦闘能力のある使い魔を連れ歩いていては、私のほうが衛兵に突き出されてしまいかねない。
そこまで気を回すくらいなら、素直に日を改めて表が明るい内に探索するとしよう。世の中に絶対の安全などはないが、一時の感情に惑わされず、見える危険は避けるべきだ。
(そうだ。男の一人暮らしだし、パイでも焼いて持っていってやろう)
ちゃんとした料理の経験などはないけれど、薬の調合と手順は似たようなものだろう。
用意した素材を切って。
磨り潰して。
計って。
振り撒いて。
呪文を唱えて。
混ぜて。
呪文を唱えて。
熱を加えて作成完了……実に簡単だ。
(調理器具は調合用の物を代用すればいい。うん。何の問題もない。私にもできるな!)
パイを頬張る彼の顔が目に浮かび、自然とこちらの頬も緩む。
私は自宅から市場へ方向を変えて、足早に歩くのだった。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます




