ep.48 次なる旅路へ――
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「なるほど。そんなことが……マティルダ嬢のことは、その、なんだ、残念だったな」
「残念というか、うーん……嫉妬じゃない……対抗意識とも違う……一言では表せない複雑な心境だ」
「人の心は複雑怪奇だな…………か、彼女に恋心を抱いていたわけじゃないのだろう?」
「たぶん……じゃあ、どうしてこんな気持ちになってるんだって話だけど……」
「人は失って初めて大切なものに気づくと言うが、同様に手の届かないものほど強く求める傾向がある。腕から零れたマティルダ嬢に、実際以上の価値が加えられているのだろうな」
恋愛経験ゼロのドロシーは、人間心理を用いて問題を紐解く。燻っているオレにも不器用ながら同情的だ。
「そうだな……狂熊じゃないけど、オレは逃げてくものを追いたくなる衝動に駆られているだけかも……」
思えばマティルダがオレに抱く好感度は、出会いからMAX100%で、最初から関係性が完成されてたから、オレはそこで満足していたのかもしれない。
もしもスタートが30%程度か、あるいは初見のジョニィに対するように0%だったら、オレはマティルダに関心を持ち、順調に恋心を育んだだろうか。
(とはいえ、例え相思相愛になったとしても、いつ新しい男が現れるか気が気じゃなかっただろうけど……)
男爵家の未来の婿に同情する。きっと夫婦生活に一波乱あるだろうから。
(純情を気取るオレに、そんな大役は務まらない)
そう考えると早々に離れて正解だった。心にかかったモヤモヤが幾分か晴れる。
会話が一段落したところで、品質の悪い屑肉を材料にしているからだろう、少し塩辛いミートパイの残りを、ドロシーに倣って平らげた。
「ところで、今日はどんな用事があって来たんだ?」
遅まきながら、本日ドロシーがここを訪れた要件を尋ねる。よもやミートパイを届けるためだけに、わざわざ来たわけではあるまい。
「これといって要件はないよ。強いて上げるなら、君に会いに来たといったところかな」
「あのドロシーが、わざわざ時間を割いてオレに? ……怪しいな」
効率廚であり、無駄を嫌うドロシーだ。その性格からいって、これは甘言だろうかとオレは邪推した。
マティルダの件があり、疑心暗鬼になっている少年に対して、思わせぶりな態度を取るのは如何なものか。
「バレたか。実はとあるダンジョンの攻略を考えていてね。生息している魔物が強く、一筋縄ではいきそうないのだが、君がいれば話は別だ。まだ未踏の階層がありレアアイテムが眠るとされているのだが……どうだろうか?」
ドロシーはいたずらな笑みを浮かべ、腹積もりを白状した。
「その話、乗った!」
「君なら、そう言ってくれると――え?」
その提案に、間髪入れず諸手を上げて賛成したのは、オレではなく想定外の第三者。
「ジョ、ジョニィ、どうして、お前がここに……!?」
男爵邸でマティルダとよろしくやってるはずの男が、いつの間にかこの宿に現れ、ちゃっかりと会話に加わっている。
「エースを差し置いて冒険の算段たぁ、ずいぶんと薄情じゃあないか、えぇ?」
「いや、だってお前。冒険者は引退して、男爵家の婿養子になるって言ってたじゃん……マティルダはいいのか?」
オレは屋敷を出て行く原因となったジョニィに、多少の気まずさを感じながら訊ねる。
「それが聞いてくれよ! マティルダ様ったらヒデェんだぞ!」
「ほう、さっそく仲違いしたのか? 想定より、だいぶ早かったな」
知的好奇心旺盛のドロシーは、自分自身のことはともかくとして、他人の恋路には興味津々の様子。
人格に難があるジョニィだから、マティルダと破局するのは時間の問題だと考えていたようだ。
「俺がちょっと目を離した隙に、蜂から守ってもらったとかで、庭師なんかに熱を上げてやがるんだ!」
「へ? は、蜂? ……蜂型の魔物とか?」
驚いた。大鬼、狂熊と続いて今度は蜂ときた。
マティルダは、魔物を引き寄せるフェロモンでも漂わせているのだろうか。
「いや、敷地内で庭師が魔物と格闘するとは考えづらい。ただの蜂だろう」
ドロシー先生の冷静な分析力が光る。
強力な魔物から庇ってくれた男に、ときめくのはわかる。白馬の王子様じゃないけど、窮地に颯爽と駆けつきてくれた相手なら、乙女でなくとも運命を感じるだろう。
(でも蜂って……)
「……もはや何でもありだな。お嬢様は相当に惚れっぽいようだ」
オレの内心の呆れをドロシーが代弁する。
「ハハ……悪い子じゃないんだけどね……」
「ちくしょう……俺の純情を弄びやがって……まだキスだってしてねぇのによぉ……」
「やれやれ……貞操観念が固いんだか緩いんだか……」
「つーわけだから、冒険者として返り咲いたジョニィ様をよろしくぅ!」
ジョニィは憎たらしい笑顔と共に、その存在を誇示するかのように両の親指を自身の胸に突き立てる。相変わらず感情の起伏が激しい奴だ。
「何がよろしくだ。レベルを上げて出直してこい」
「なっ!?」
ジョニィをバッサリと切り捨てたのは、これから高難度ダンジョンに挑もうとするドロシー先輩。実利主義の彼女は、このトラブルメーカーに対して辛辣だ。
「どうしてもっていうなら、少しは見込みありそうだし、荷物持ちくらいなら考えてやらんこともねえぞ」
「ななっ!?」
オレはいつぞやの誰かさんがの宣った文言を、そっくり返してやる。
お調子者のジョニィの扱い方が一致し、オレとドロシーの間に妙な連帯感が生まれた。
「そりゃないぜ! 一緒に狂熊と戦った仲だろぉぉ!」
膝を着いたジョニィの嘆きが、ボロ宿にこだまする。
旅を経て、それぞれの人となりを理解し合った3人は、軽快なテンポで掛け合いながら、次のクエストの計画を話し合うのだった。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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