ep.40 理想と現実と迷子の少年ハート
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
一行は目的地である△△山脈の麓に到着した。
マティルダは薬師として、さっそく薬草採集に着手し、その間オレたち戦闘員は周辺の警戒に当たる。
「思ってたんと違う」
早々に見張りを放棄したジョニィが、地面に寝転び天を仰ぎながら呟いた。
「急にどうした?」
オレは周囲をぐるりと見渡し安全を確認しつつ、退屈を紛らわせるためにジョニィの愚痴に耳を傾ける。
「冒険つったらワクワクするもんだろ? それなのによぉ……これまでに出くわした奴らときたら……掃いて捨てるほどいる小鬼だろ。雑魚の代名詞である醜妖精だろ。あとはチンケな追剥ぎが精々だ」
ジョニィは、ここまでの道程で遭遇した敵を、ため息交じりで指折り数えた。
(オレにとっては物珍しいけどなぁ……)
現地人からすれば村の周辺で見かける野生動物くらいの感覚でも、異世界人のオレからしたら御伽噺に登場する魔物たちだ。それらと遭遇することは十二分に心躍る冒険譚の一幕である。
「そいつらだってドロシーの魔法で一捻りだし、さっきの追い剥ぎなんざ、その名を聞いただけで一目散に逃げ出しちまいやがった。俺様が活躍する暇もねぇ」
今のところ、事務のみならず戦闘面においても、活躍しているのはリーダーのドロシーただひとりだ。
オレたちは完全に置いてけぼりの傍観者。頭数だけの案山子だった。
例えるなら、オンラインRPGゲームで、若葉マークのプレイヤーが上級者プレイヤーにお手伝いしてもらっている感じ。
フィールドで敵と遭遇して戦闘場面に突入。まさしく見慣れない操作画面と操作入力でもたついてる時にはもう、敵は一掃され戦績表示が流れてしまっている。
全国の冒険を夢見る少年代表として、ジョニィの不満はわからなくもない。
「だあああ! どこにいるんだッ! 英雄に封じられた魔王ゥ! 千年生きた竜ン! 世界を股に掛ける大盗賊ォ!」
緑が茂るのどかの麓に、ジョニィによる魂の叫びがこだまする。
「それらが存在するのならば、権謀術数が渦巻く王都や聖地と崇められる霊峰。古代文明が眠るとされる未開の禁則地などだろうな。間違っても、こんなひなびた土地周辺ではない――と、この地を治める貴族のご令嬢を前にして、非礼をお詫びします」
ドロシーは薬草を引き抜き、根に就いた土を叩いてそう語りつつ、隣に居るマティルダに頭を下げる。
ドロシーも薬学の知識があるようで、マティルダの護衛も兼ねて薬草採集を手伝っている。
「別に構いませんのよ。私だって退屈しておりますの。盗賊は恐ろしいですけれど、魔王や竜には一度お目に掛かかりたいものですわ」
(盗賊はダメなのに魔王や竜は平気なのか。恐怖の基準がわからない……)
お嬢様にしてみれば、暗殺や身代金目当ての誘拐などを企てる悪党は、魔王よりよっぽど身近に潜む脅威だからか。
「ちぇ、夢がねぇなぁ、つまんねー……」
不貞腐れているジョニィは、枕元に生えている雑草を引き千切ると空に向かって散らす。
「得てして現実なんてそんなものさ。誰しも歴史書に刻まれる傑物になれるわけじゃない。亡国の王子然り。大賢者の子孫然り。選ばれし者は、そういう星の下に生まれているんだ」
「認めねぇ……農家の三男坊舐めんなよ……」
魔法使いや貴族のご令嬢といった、物語の登場人物でもあるような彼らが、現実がどうこうと所帯じみた話をしているのが、なんとも奇妙だった。
どんなイベント事も、繰り返せばただの日常になる。やはり彼らからすれば剣よ魔法よという世界が生まれながらの日常なのだ。
(逆に彼らを現代世界に連れて来たら、そこが煌びやかな舞台に写るのかもしれないな)
「さてと、こんなところだろう。そろそろ帰るとしよう」
薬草で籠が一杯になり、女性陣が採集を切り上げると、男性陣の見張りの任も解かれる。
つつがなく目的が達成されて、オレはすっかり気を緩めていた。
しかし、帰るまでが遠足だ。とは言ったもので、事態が急変したのはそんな時だった――――。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
ご感想など お待ちしてます 活動の励みになります




