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烙印者 Prequel ~空白の1ページ~  作者: 日月
第3章 旅立ち
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ep38 遭遇――魔物!?

拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです

「――ハッ! 気を付けろ! 何か潜んでいやがるぞ!」


 町を離れてしばらくして、街道が荒れ始め背丈の高い草木が目立つようになった辺りで、唐突にジョニィが警鐘を鳴らす。

「…………気のせいじゃないか? 何も聞こえないぞ」

 皆一斉に息を殺し周囲を警戒するが、それらしい兆候はない。

「て、てて敵襲だ! か、かか構えろ!」

 けれど、ジョニィだけは敏感に不穏な気配を感じ取っているようで、小刻みに震える手で短剣(ダガー)を構えている。

 冒険者の仲間(パーティ)ともなれば一蓮托生だ。誰か一人が異常を訴えたら、念を押して行動を起こすべきなのだろうが、発足して間もないこの仲間はメンバー間における信頼が薄い。

「うぎゃあッ! で、出たなっ、魔物(モンスター)!」

 側の草むらが揺れ動き、ジョニィが大きく飛び退く。

 そして、中から黒い影が飛び出した。

「い、いい、いいだろう! このジョニィ様が相手になってやるぅ!」

 恐怖のあまり半狂乱になりながら、その場で短剣を振り回すジョニィを、ドロシーが冷静になだめる。

「落ち着きたまえ。見ての通り非力なただの小動物だ」


 現れたのは小型犬サイズの、何とも形容し難い姿をした哺乳類だ。

「攻撃性はないので、放っておいて問題ないだろう」

「へえ、なんて名前なんだ」

 初めて見る奇妙な生物に、オレは興味本位で尋ねる。

「名前? さあな」

「ドロシーにも知らないことがあるんだな。あ、もしかして相当レアな生物とか?」

 オレの軽口に気色ばんだドロシーが釈明する。

「失敬な。一応の知識はあるさ。町の近辺に数多く生息しており、さりとて利用価値もなく、市場に出回らない生物なので、明確な名前がないだけだ」

 何でもその獣は過食部分が少なく、臭みが強くて味は最悪。毛皮の質も肌触りが悪く低級で、捕まえたとてまるで売り物にならないのだとか。

「ふーん、そういうものなのか」

 実利が伴わず、自分たちの生活に影響しない生物のことなど、無関心であって普通か。

(この世界に、生物学者などはいないのだろうか?)



「……待てよ。そういえば狩人のイェーガー氏は、あれを名前で呼んでいたな」

 とはドロシーの言説。

「へぇ、なんて?」

「あれは、確か……ええと……モドキ、そうウサギモドキと呼んでいた。兎と思い仕留めてみたら、実際は奴で落胆するそうだ」

「なるほど。言われてみれば、兎に見えなくもない、か……?」

 オレは人間を前にしても警戒心を持たず、呑気に毛繕いをしている生物。ウサギモドキなる獣の大きい耳に注目する。


「俺んとこじゃマヌケザルって呼んでたぜ。あいつら時々やってきては作物を荒らす厄介者なもんで、めちゃくちゃ嫌われてた。まあ、間抜けばかりだから罠にすぐ掛かるんだけどよ。捕まえたとこで、やっぱ使い道がねぇわな」

 とはジョニィの言説。

「なるほど。見様によっては、猿に見えなくもない、か……?」

 オレは人間を前にしても警戒心を持たず、呑気にうたた寝を始めている生物。マヌケザルなる獣の長い四肢に注目する。


「私はリチャードと呼んでいましたわ。お庭に迷い込んでいたのを、こっそり保護して育てていたら、爺やに見つかって叱られてしまいましたの」

 とはマティルダの言説。

「なるほど。見様によってはリチャードに――いやいや、人名! それ人名だろ!」

(奇しくも、組合長の秘書も同じ名前だったはず……)

 オレは人間を前にしても警戒心を持たず、呑気に爆睡を決め込んでいる生物。リチャードなる獣の七三分けに……いやいや。

「嗚呼、リッキー。彼は今も健やかでいるかしら……」

(リッキーなら農場で罠に掛かってるよ)



「そもそもの疑問なんだけど、魔物と動物の境界線はどこなんだ?」

 小鬼(ゴブリン)大鬼(オーガ)のように見るからに異質な怪物もいれば、獣のような見た目で判別の難しい種もいて、明確な違いを知らないままでは、この先の冒険に支障を来しそうだ。

「広義では人類に対する驚異の度合いにより分類されている。より危険なものを魔物とし、そうでないものを動物にといった具合にな」

 とは物知りドロシー先生。

「ずいぶんとアバウトなんだな……」

「いや、小魔力(オド)の保有量を基準として、細分化されてはいるぞ。ただ、今ここで座学を始めるわけにもいかないだろう?」

「あ、ああ、そうだな……」

 冒険の最中であり、それもいつ魔物が襲って来るとも知れない場所で、青空教室など危険過ぎる。

(そうなると実地で攻略していくしかないか……)

「余談だが、この基準は人間にも適応され、一定値を超えた小魔力を有する人間を魔人と呼ぶ……らしい」

「らしい?」

「実際、魔人と呼ばれる者に、お目に掛かったことがないのでな。二百年前、世界を暗黒で支配し、かの七星英雄に討ち取られた魔王がそうであったと聞くが……所詮は御伽噺(おとぎばなし)だよ」

「ほほぉ、英雄に魔王ときたか。たいへん興味深い話だ」


 オレが男子の好奇心を剥き出しにして、鼻息を荒く身を乗り出すと、ドロシーは苦笑いを浮かべるのだった。


ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます

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