ep38 遭遇――魔物!?
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「――ハッ! 気を付けろ! 何か潜んでいやがるぞ!」
町を離れてしばらくして、街道が荒れ始め背丈の高い草木が目立つようになった辺りで、唐突にジョニィが警鐘を鳴らす。
「…………気のせいじゃないか? 何も聞こえないぞ」
皆一斉に息を殺し周囲を警戒するが、それらしい兆候はない。
「て、てて敵襲だ! か、かか構えろ!」
けれど、ジョニィだけは敏感に不穏な気配を感じ取っているようで、小刻みに震える手で短剣を構えている。
冒険者の仲間ともなれば一蓮托生だ。誰か一人が異常を訴えたら、念を押して行動を起こすべきなのだろうが、発足して間もないこの仲間はメンバー間における信頼が薄い。
「うぎゃあッ! で、出たなっ、魔物!」
側の草むらが揺れ動き、ジョニィが大きく飛び退く。
そして、中から黒い影が飛び出した。
「い、いい、いいだろう! このジョニィ様が相手になってやるぅ!」
恐怖のあまり半狂乱になりながら、その場で短剣を振り回すジョニィを、ドロシーが冷静になだめる。
「落ち着きたまえ。見ての通り非力なただの小動物だ」
現れたのは小型犬サイズの、何とも形容し難い姿をした哺乳類だ。
「攻撃性はないので、放っておいて問題ないだろう」
「へえ、なんて名前なんだ」
初めて見る奇妙な生物に、オレは興味本位で尋ねる。
「名前? さあな」
「ドロシーにも知らないことがあるんだな。あ、もしかして相当レアな生物とか?」
オレの軽口に気色ばんだドロシーが釈明する。
「失敬な。一応の知識はあるさ。町の近辺に数多く生息しており、さりとて利用価値もなく、市場に出回らない生物なので、明確な名前がないだけだ」
何でもその獣は過食部分が少なく、臭みが強くて味は最悪。毛皮の質も肌触りが悪く低級で、捕まえたとてまるで売り物にならないのだとか。
「ふーん、そういうものなのか」
実利が伴わず、自分たちの生活に影響しない生物のことなど、無関心であって普通か。
(この世界に、生物学者などはいないのだろうか?)
「……待てよ。そういえば狩人のイェーガー氏は、あれを名前で呼んでいたな」
とはドロシーの言説。
「へぇ、なんて?」
「あれは、確か……ええと……モドキ、そうウサギモドキと呼んでいた。兎と思い仕留めてみたら、実際は奴で落胆するそうだ」
「なるほど。言われてみれば、兎に見えなくもない、か……?」
オレは人間を前にしても警戒心を持たず、呑気に毛繕いをしている生物。ウサギモドキなる獣の大きい耳に注目する。
「俺んとこじゃマヌケザルって呼んでたぜ。あいつら時々やってきては作物を荒らす厄介者なもんで、めちゃくちゃ嫌われてた。まあ、間抜けばかりだから罠にすぐ掛かるんだけどよ。捕まえたとこで、やっぱ使い道がねぇわな」
とはジョニィの言説。
「なるほど。見様によっては、猿に見えなくもない、か……?」
オレは人間を前にしても警戒心を持たず、呑気にうたた寝を始めている生物。マヌケザルなる獣の長い四肢に注目する。
「私はリチャードと呼んでいましたわ。お庭に迷い込んでいたのを、こっそり保護して育てていたら、爺やに見つかって叱られてしまいましたの」
とはマティルダの言説。
「なるほど。見様によってはリチャードに――いやいや、人名! それ人名だろ!」
(奇しくも、組合長の秘書も同じ名前だったはず……)
オレは人間を前にしても警戒心を持たず、呑気に爆睡を決め込んでいる生物。リチャードなる獣の七三分けに……いやいや。
「嗚呼、リッキー。彼は今も健やかでいるかしら……」
(リッキーなら農場で罠に掛かってるよ)
「そもそもの疑問なんだけど、魔物と動物の境界線はどこなんだ?」
小鬼や大鬼のように見るからに異質な怪物もいれば、獣のような見た目で判別の難しい種もいて、明確な違いを知らないままでは、この先の冒険に支障を来しそうだ。
「広義では人類に対する驚異の度合いにより分類されている。より危険なものを魔物とし、そうでないものを動物にといった具合にな」
とは物知りドロシー先生。
「ずいぶんとアバウトなんだな……」
「いや、小魔力の保有量を基準として、細分化されてはいるぞ。ただ、今ここで座学を始めるわけにもいかないだろう?」
「あ、ああ、そうだな……」
冒険の最中であり、それもいつ魔物が襲って来るとも知れない場所で、青空教室など危険過ぎる。
(そうなると実地で攻略していくしかないか……)
「余談だが、この基準は人間にも適応され、一定値を超えた小魔力を有する人間を魔人と呼ぶ……らしい」
「らしい?」
「実際、魔人と呼ばれる者に、お目に掛かったことがないのでな。二百年前、世界を暗黒で支配し、かの七星英雄に討ち取られた魔王がそうであったと聞くが……所詮は御伽噺だよ」
「ほほぉ、英雄に魔王ときたか。たいへん興味深い話だ」
オレが男子の好奇心を剥き出しにして、鼻息を荒く身を乗り出すと、ドロシーは苦笑いを浮かべるのだった。
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