ep.32 闘いのあと~余波~仲間
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「さて、晴れて君は冒険者になるわけだが。どうだろう、一度私と仲間を組んでみないか?」
「え……」
魔法使いの提案を聞いた周囲の人間がざわめく。
こっそり耳をそばだててみると、孤高を気取る魔法使いが誰かを誘うのは、よっぽどのことらしい。
(ただの社交辞令と受け止めず、返事は慎重になるべきか……)
抜きん出た実力者に認められたのなら光栄だけど、協調性のない人間である線も考え得る。
憂慮するのは、魔法使いが誰とも仲間を組まなかったのではなく、誰とも組めなかった人間である可能性だ。
冒険者の仲間ともなれば、ときとして命を預けることもあるだろうから、相手は吟味せねば。
「おっと! その話は、俺様をとおしてくれねえとなあ!」
ふいに周囲の群衆の中から声が上がる。
「ちょ、おい、やめ、どけっ! どけって……ぬがっぐぐぐ…………うおッ!?」
「……誰だ?」
人垣を無理に押し分けたことで反感を買い、皆に小突かれ躓きながら飛び出て来た軽薄男に、魔法使いは怪訝そうな顔を浮かべる。
「君の仲間かい?」
「違う」「そうだ!」
魔法使いの質問に、それぞれ異なる返答が重なる。
「ええと、見解の相違が見られるようだが……?」
「オレがいつお前の仲間になったよ……」
「はあ!? なんでだよ! その剣貸してやったろ!」
「あぁ、これか……」
確かに試合中に軽薄男から模造剣を貸して貰ったが、それで仲間になった覚えも、仲間になるつもりもない。
「おいおい、スカしてんじゃねぇよ。俺様が手助けしてなきりゃ、決闘に負けてただろ? となれば試験も合格できず、冒険者にもなれなかったわけだ。わかるか? すべては俺様の、お・か・げ・よ!」
(あの局面を切り抜ける術なんて他にもあったけど……なるほど。傍からすれば、そう見えたか)
軽薄男は恩着せがましく自分の手柄を主張してくるが、もちろんオレは同意しない。
そも事前に、そのような取り決めを交わした覚えなどないし、いくら模造剣を貸して貰った恩があるとはいえ、それはそれこれはこれだ。
こんな奴と仲間を組むなど、ごめん被る。
(こいつこそが、誰とも仲間を組めなかった人間だろうからな)
大体、出会いからして軽薄男の心証は最悪で、距離を置きたい手合いナンバーワンの人間だ。
今後、よっぽどのことがない限り交流を持つことはないだろう。
「――というわけだ。じゃあ、返すぜ。ありがとな」
以上のことを話してにべもなく断ると、さすがに軽薄男も消沈した様子で、渋々ながら引き下がる。
(少し、言い過ぎたかな……)
オレの中で罪悪感がもたげる。
軽薄男の腹積もりがどうであれ、力を貸してくれたのは事実だ。
「チッ、なんだよ、なんだよ……つれねえ野郎だな。後悔しても知らねえからな……」
軽薄男はブツブツと不満を垂れながら、オレが差し出している模造剣を受け取ろうと手を伸ばし――――そこで剣の刀身がポッキリと折れた。
「あ」「んえ?」「おや」
(そうか。スキルで強化せず、強引に泥人形〈ゴーレム〉をぶった切ったから……)
「ぬわああああ!? 俺のヴァレンティーヌがああああぁぁぁぁ!!」
「ヴァ、ヴァレ……なんだって?」
翻訳障害スキルが発動し、オレは思わず対象の名前を訊き返す。
(……っていうか、こいつ剣に名前なんて付けてるのか)
「どうしてくれんだっ! 弁償しろ、弁償ゥ!」
「あー弁償、ね……したいのは山々だけど、今は手持ちが……」
「おおぉぉん! 愛しのヴァレンティアァ! 伝説の剣となるはずのお前が、こんなとこで終わるなんてええぇぇ……!」
「いや、たぶん名前間違えてるし! そもそも模造剣だろ、それ!」
魔物どころか野菜も切れない剣が、どうやって伝説になろうというのか。
人目を憚らず大泣きする軽薄男にドン引きしつつも、それほどまでに入れ込んでいた剣を折ってしまったことを知り、いよいよもってオレの両肩に罪悪感がのしかかる。
(仕方ないか……)
「ハァ、わかった……一度だけ。一度だけ冒険に付き合ってやるよ。それで今は勘弁してくれ」
「本当だな!? 約束じたぞ! あど代金はぢゃんど弁償じで貰うがらな!」
瞬間、折れたヴァレナンチャラを前にして、床に蹲っていた軽薄男は、涙やら鼻水やらでぐしょ濡れの顔を跳ね上げると、加速スキルかくやの敏捷な身のこなしでオレに迫る。
「あーはいはい……うおっ!? それ以上近づくなバッチイ!」
「ぷげらっ!?」
体液を垂れ流しすり寄って来る軽薄男を、オレは思わず蹴り飛ばしてしまう。
この怪力を受けても、軽薄男は爆ぜることなくもんどりうった。
模擬試合を経て力加減を覚えてきたオレである。
(それでも、やっぱり人間相手は苦手だな……)
魔物を容易く屠る怪力も、人間が相手では十全に振るえず弱点になるとは……。
「ほう。ならば、やはり私の協力が要るな。近場を冒険するにしても新人二人では心細いだろう?」
魔法使いは、すでに冒険者として活動実績のある自分の有用性を、ここぞとばかりに説いて売り込んでくる……やはり早口で。
「わかった! もう十分わかったから! 最初の冒険はこの三人で行こう!」
「よっしゃ!」
「賢明だな」
こうなってしまうと、オレはもう考えるのも面倒になって諸々の提案を承諾する。
(やれやれというやつだ)
人生、先のことは誰にもわからない。
迷い、悩み、慎重を重ね、最善を尽くしたつもりが裏目に出ることもある。
いつだって後悔の奴は後に立つ卑怯者なのだ。
(それなら、いっそ流れに身を任せるのも、ありのはず…………そうだよな?)
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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