ep.3 残滓
事物は多角性
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら幸いです
目覚めると、そこは森林だった。
見知った天井でなければ、見知らぬ病室でもない。
(悪い夢を見ていた気がする……詳しい内容は忘れてしまったけど……)
視界いっぱいに埋め尽くすのは、種々様々の木々が織りなす枝葉のカーテン。
風に揺れ、その合間から差し込む木漏れ日により、辺りは翡翠色の光に包まれている。
大自然が醸し出す神秘的な雰囲気に圧倒されて、思わず溜め息を吐いた。
それから、体をゆっくりと起こして視線を周囲へ巡らせる。
褥を共にしていたのはラッキーでスケベな美少女――――ではなく、毒々しいまでに異彩を放つキノコの他、蟻に運ばれる奇妙な姿の蛾の死骸。
(なんだか不吉だな……)
人気のない森林――原生林で覚醒した――は、ここに至る経緯をまるで思い出せず、巨木の下で呆然と立ち尽くした。
(落ち着け……落ち着け……冷静に状況を整理するんだ……)
再び瞼を閉じ余計な視覚情報を遮断して、深呼吸を繰り返す。
咽かえるほど濃密な腐葉土の匂いが鼻腔を満たした。
とにかく、意識を外界から内界へと沈める。
日付や住所。
名前や年齢。
家族構成や交友関係。
また勤めている会社など。
自分自身に関する、ありとあらゆる質問を次々と投げかける。細い記憶の糸を手繰り寄せようと試みた。
「………………!?」
迫るエンジン音とバンパー。
凄まじい衝撃と目まぐるしく回転する景色。
赤黒く滲むアスファルト。
そして――――。
「――ッ!」
突然、脳内にフラッシュバックしたのは、あまりにもショッキングな誰かの交通事故の映像で――は、驚愕に目を見開く。
自身の無事を確かめるように、震える体を抱えて擦った。
「ハッ、ハッ、ハァッ、ハァ……ハァ……ァ…………ふぅ………………」
(……そうか、分かった。自問の結果として、よく解らないことが判った)
しっかりと言語を用いて思考しているように、住んでいた地域で学んだ知識や、一般常識といった記憶はあるものの、人格を形成するのに重要な思い出に関する記憶がひどく曖昧だ。
つまりは記憶喪失。いわゆる、ここはどこ? 私は誰? 状態である。
(参ったな……)
己が正体を知れず、故に何処へ向かうとも知れぬ……などと、やや哲学めいた文言が浮かび、シニカルな笑みを作りながら、根の溝にできた水溜まりを覗き込む。
水面に朧げながら写る人物は、着ている服装から想定していたものよりも若い。
その見た目年齢から、一人称をオレと仮定する。ボクという線も考え得るが、スーツもとい学生服からしてワタシではないことは明白だ……特殊なケースを除いて。
それから、顔を上げて今一度周囲を見渡す。原生林で覚醒してから半刻ほど経過しただろうか、依然として誰かがオレを迎えに来る気配はない。
(これって……やっぱり、そういうことだよ、な…………?)
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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