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ep.26 決 闘 宣 言

拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです

「ちょっと、いいかな。私は魔法に関して少しばかり詳しくてね。自前で小魔力(オド)を探知する能力を有していているんだ」



 気怠そうな担当員が引き連れてきた所員は、そう言うと掌をオレの前へ(かざ)し呪文を唱える。

 通常の検査とは異なる手順に、周囲に居合わせた皆の注目が集まり始めている。

「――こ、これは……信じられない、よもやこのような人間が存在しようとは……!」

 オレの中に眠るオドの適正を調べていた所員。その表情がみるみるうちに強張っていく。


「ど、どうでした?」

「なるほどな、水晶玉では測れないわけだよ」

(この流れにも既視感があるぞ……オレの予想が正しければ、この身にとんでもない総量のオドとやらが秘められているんじゃなかろうか! それこそ、測定器なんかでは到底測れないほどの!)

 すでに怪力の件もある。ひょっとすると異世界人のオレは神の恩寵(おんちょう)を授かっているのかもしれない、などど期待に胸を膨らませていると想定外の答えが告げられる。

「……カラッポだ」

「カラッポ?」

「体内に小魔力が全く存在しない」


「なんだって!?」


「まさか、そんなことが!」


「あり得ない!」


 事の重大さが分からず呆けているオレを差し置いて、聞き耳を立てていた群衆から口々に驚きの声が上がる。

「それは、やっぱりよくないこと……なんですよね?」

 恐る恐るオレが訪ねると、魔法について造詣が深そうな所員こと魔法使いは、その場で即席の講義を始める。


「そうだな、まず前例がない。この世界に生きとし生けるものは、大気や食物を通して、大いなる大自然が(もたら)大魔力(マナ)から恩恵を受け小魔力(オド)を保有している」

「大いなる大自然て……」

(頭痛が痛くなりそうだ……)

「――であることからしても、小魔力を持たないということは、自然の摂理から外れていることに他ならない。それというのも大魔力とは魔力の大源に留まらず、生命の根源たる――」

「あーっと、要はマナは太陽光でオドは電力。人間はソーラーパネルって感じかな?」

 講義が専門的な分野まで掘り下げられ、いよいよ長引きそうだ。そう予感したオレは、悪いと思いつつも途中で遮る。

「まだ体内に全然蓄電されていないオレは、家電――つまり魔法を使用することができない」

 余所者のオレは、こちらの世界に来て日が浅く、まだ体が馴染んでいない。これは、そういったことの弊害だろうか。

「そーらーぱねる?」

 自分なりに解りやすく例えたつもりだったが、今度は魔法使いの方が聞き慣れない単語に呆けている。

 それもそのはず。

 便利な魔法に頼り切りのこの世界において、化学技術や機械工学の分野は未発達であり、家電なんて物は存在しない。

 したがって、現地人にソーラーパネルなど、機械に関する名詞を聞かせても、なにそれおいしいの? といった反応を示されるだけ。

「その例えは理解できないが、適正検査で赤点を叩き出した君は、残念ながら魔法を扱う才能がゼロだということだ」


 おそらく前代未聞の理由で、冒険者史上初の魔法試験落第者誕生の瞬間である。


「ああ、やっぱり?」

(まあ、魔法使いになれなくても、筋力には恵まれているわけだし、生粋の戦士として前衛で活躍すればいっか……でも、魔法か……使ってみたかったな……)

 魔法と聞いて童心が蘇り、もしかしたら幼い頃に抱いたであろう夢が叶うのかもしれない、という淡い期待はあっけなく崩れ去る。

 誰しも一度は憧れ、そして試したことがあるはずだ。

 奇跡(ミラクル)を起こす秘密の呪文。

 箒を股に挟み段差からジャンプ。

 必殺の構えを取り、怪光線を放つ真似事を。

(うん? 最期のは魔法とは、ちょっと違うか? ……ところで、オレがときたま使ってるスキルは、どういう扱いなんだろ?)

 おそらく、大原生林で目覚めたときには、すでに宿していた能力だ。

 便利さでいえば魔法に匹敵する感じがするけど、自分以外使っている人を見たことがない。

 もしかすると、オレだけに許された特別な能力なのだろうか。

(出るか? 必殺の怪光線! ……あとで、こっそり試してみよう)

 さすがにこう人目のあるところで、ポージングをキメる勇気はない。

(……残念だけど、すでに十分な戦闘力を持つオレが、魔法を使う能力まで求めるのは、欲張りが過ぎるってもんか)

 そう自分に言い聞かせて、オレは未知の力に対する憧れを閉ざす。


「冒険者になるのは諦めた方がいい」


 しかし、そこで予期せぬ展開が待ち受けていた。

「えっ!? ちょ、ま、待ってくれ! オドがないから冒険者失格!? いやいや! 魔法なんか使えなくても、オレには格闘の才能が――」

「……魔法()()()だと?」

 魔法を軽視するような発言に、魔法使いが眉根を寄せ不穏な空気を漂わせる。

「あ、いや、今のは言葉の綾というか……」

(しまった! よりにもよって本職を前に、なんて迂闊(うかつ)な……!)

「なるほどな。君は腕っぷしにかなりの自信があるようだ。では、そんな君に訊くがな。剣の一振りで、複数の標的をいっぺんに焼き払ったり、瞬時に味方の傷を癒す働きを成せるか? いや、わざわざ答えなくていい。つまり、そういうことだ」


 どうやら、この世界では魔法の才能がそのまま戦闘力と見なされるようだ。

 考えてみれば、というより考えるまでもなく当然のことだ。

 近代戦にしてみても、ナイフより重火器の方が優れているように、刀剣より魔法の方が強力で汎用性に富むのは想像に難くない。

 いわく詠唱ひとつで戦局を左右させる魔法使い(メイジ)こそが戦場の花形であり、小競り合いしか能のない戦士(ウォリアー)は半端者らしい。

 その半端者の戦士でさえ、なけなしのオドを使い肉体強化等の魔法を使って戦うそうで、カラッポのオレはそれすらできない貧弱者と見なされているわけだ。


「納得してなさそうだな」

「理屈の上では理解した。でもオレは……」


 あのとき男爵の護衛が脅威と見なしていた大鬼。そいつを瞬殺したオレの怪力が、そんじょそこらの魔法使いに引けを取るとは考えづらい。


「比べもしないで結論付けられるのは不服だ」

 オレは向こう見ずな新人らしく反骨精神を剝き出しにする。

「…………そうか、いいだろう。なら、実際に試してみるか?」

「試す?」

「本来、冒険者試験は魔法の適性検査の後に、実技試験に移るのだが、肝心の魔法が使えない君には、特別に試験を用意しよう」

「特別な試験……それは?」



「一対一の実戦形式による試験……言うなれば、そう――決闘だ!」

ご高覧いただき ありがとうございました 次回から決闘開始です

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