ep.22 恋人ごっこ~お嬢様は嫉妬深いお年頃
ウサミミは好きですか?
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
「どうぞ」
などと理屈をこねくり回している間に、オレの朝食が出来上がったようで、給仕によって運ばれて来る。
ちなみに、ちなみにその給仕さんはウサミミだった。何度でも言おうウサミミである。
厨房へ戻る際、短くまん丸ふわふわの尻尾が付いたヒップを、フリフリと揺らす姿がキュートだ。
(人参とか好きなのだろうか? いや、人参が好きという認識は――)
ウサミミ給仕さんとは、今日初めて顔を合わせた。
(ふむ……)
この広い屋敷に、まだ会ったことがない使用人が他にも居るのだとすると、そのうちオレの癖に刺さるケモミミさんが、ひょっこりと現れるかもしれない。
「じぃーーーー……」
そんな期待に胸を膨らませつつ、ウサミミ給仕さんを目で追っていると、意中の男が他の女性に関心を寄せていることに、機嫌を損ねたマティルダが、厳しい眼差しを向けてきた。いわゆる、ジト目である。
「な、なにかな?」
嫉妬してくれている女性に対して、オレはどうしていいか分からず、あたふたと言葉をどもらせてしまう。
ここぞというときにスマートな対応ができないあたり、哀しいかなオレにはモテ男の才能がないのだろう。
「べっつにぃ! ぼんやりしていると、せっかくのお食事が冷めてしまいますわよ! ふんっ!」
「そ、そうだね……さあ、食事、食事――――」
――――記憶を失う前のオレに恋人は居たのだろうか?
マティルダのことを意識していたからだろう。ふと頭の中にそんな疑問が浮かんだ。
以前の人間関係のことは、なるべく考えないようにしていた。
恋のひとつしていてもおかしくない年頃だけど、なるべく考えないようにしてたことだ。
だって、どうしようもないではないか。
例え好きな人が居たとして、世界を隔てたふたりは、もう会えないのだから。
それなら、思い出したとしてもつらくなるだけだ。
オレの一方的な片思いならまだいい。もし両想いの女の子が居たとしたら、それは…………独り残された彼女の気持ちを思うと、胸が締め付けられるようだ。
「もし、どうかされました? 嫌いな物でもありました? それともお体の具合でも? 神官をお呼びしましょうか?」
「ッ!」
急に黙り込んだオレを、マティルダが不安そうに覗き込んできた。
(オレ、そんなにひどい顔してたか?)
親身になり、オレのことを心配してくれるマティルダ。
オロオロと狼狽えている彼女を見ていると、逆にこっちは冷静になれた。
その優しさに触れて、沈みかけていた気分が持ち直す。
「…………ううん、ありがとう。なんでもない……さあ、食事、食事! 今日も美味そうだ!」
つらいときこそ努めて明るく! いつものようにオレは振る舞う。
カリカリに香ばしく調理されたベーコンと目玉焼き。
さまざまな種類のチーズに白パン。
オレは、目の前にずらりと並んだ品々を、半分に分けたパンに次々と挟んでいく。
ここで葉物野菜のひとつでも欲しいところだが、世間では地面に生える野菜は低級と見なされているそうなので、富裕層の食卓にはあまり上がらない。
「なにをしてなさいますの?」
マティルダが顔に浮かべているのは、行儀の悪さを咎めるものではなく純粋な好奇心。
「これか? オレの故郷ではポピュラーな食べ物なんだけど、サンドイッチって言うんだ」
単に具材をパンに挟んでいるだけなので、殊更紹介するまでもない。こちらの世界にも普通にある食べ方だろうけど、箱入り娘の目には物珍しく写るのだろうか。
「まあ! とても興味深いですわね!」
マティルダは、オレのことを恩人という色眼鏡を通して全肯定してくれる。
身分の違いにより生じた常識や価値観のズレを好意的に捉え、些細なことにも新鮮な反応を示して、空っぽなオレの自尊心をくすぐった。
(なんて都合のいい女の子だろう……悪い男に捕まらないか、心配だ……)
だからこそ誠実に向き合わなければならない。
マティルダは、見様見真似で作ったサンドイッチをいたく気に入ったらしく、口いっぱいに頬張っている。
普通なら眉を顰めたくなるはしたない振る舞いも、彼女がすれば愛らしく見えるのだから美人は得だ。
「どうなさいましたの? そんなに熱い眼差しを向けれては、照れてしまいますわ……」
「あーいや、頬にパン屑がな……」
「まあ! 私としたことが! ……そうだわ。取ってくださいませんこと?」
言うが早いか、マティルダは身体をよじり、顔をこちらに寄せてくる。求めているのは、口元に付いた米粒を取るような、つまり仲睦まじいカップルがするあれだ。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
ご感想など お待ちしてます 活動の励みになります




