ep.18 轍~チュートリアル男爵
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら 幸いです
一同は、○○大平原に伸びる××街道を行く。
「――で、あるからして……」
道中、オレは紳士改め◇◇男爵の親切心から、この世界の地理や風習についてレクチャーを受けていた。
レクチャーといっても簡略的なもので、男爵が治めている領地と、その周辺くらいの狭い範囲の情報に留まっている。これは、とりわけ男爵が世界情勢に疎いというわけではなく、物事の伝達手段が伝聞か手紙に限られている時代においては、例え貴族であろうとも触れられる情報量が少ないからだ。
その辺り産業革命や世界大戦を経て、テクノロジーが発達した世界とは訳が違う。個人が指を動かすだけで、世界中に張り巡らされているインターネットを介し、膨大な情報にアクセスが可能な現代社会と比較するのは酷だ。
ちなみに地域や男爵の名称がいい加減なのは、マティルダ嬢のときと同じ理由で、発音が難しいからだ。
(単に記憶を失う以前のオレが、いい加減な奴だったかもだけど……)
地域の歴史を教わる過程で、◇◇男爵家の成り立ちと功績について~を滾々と聞かされる羽目になったオレが、その表情を曇らせていると、人の良い男爵は一層親身になって語りかけてくる。
「町に着いたら、まず役所に掛け合い尋ね人の確認をしよう。そなたの行方を捜している親類の方々が届けを出しているやも知れぬからな」
「それは――……どうでしょうね。オレはこの地方の生まれじゃないみたいだし……」
記憶の断片から推測するに、オレが暮らしていたところは、この世界とは決定的に異なる。ゆえに、この世界にオレを捜索している親類などいるはずがない。
「何か心当たりが?」
街道に転がる小石を車輪が轢いてしまったようで、馬車が小さく揺れる。
「い、いやほら、オレは顔立ちからして、皆さんとは違うじゃないですか!」
自分が別世界の住人など明かせば、気が触れていると捉われかねないので、男爵たちには秘匿していた。
「察するに、もっと東の生まれなんじゃないかなぁ、と……」
胸中を悟られまいとして咄嗟に吐いた嘘だが、あながち間違いとも言い切れないのではないだろうか。
オレが居た世界で言うところの、西洋人に酷似した彼らが存在しているのだから、オレに近しい人種、すなわち東洋人風の者たちが治める国だって、どこかにありそうだ。
「うーむ……そなたは我らと同じ□□人の風貌であるが……」
男爵は怪訝そうな面持ちを浮かべ、その主張の賛同を得ようとマティルダ嬢と顔を見合わせる。
「こちら、使われます?」
マティルダ嬢も男爵と同意見のようで、手鏡をオレに差し出し確認を促してきた。
「――なるほどな……」
はたして、水溜まりより解像度の高い鏡に写ったのは、黄色人種の平凡な少年――ではなく、赤毛を短く刈り上げた異国風の少年だった。
彫りが深くハッキリした顔立ちと碧色の瞳は、一般的な黄色人種の特徴とは、明らかにかけ離れており……とはいえ、純粋な白色人種ともどこか異なるような感じでもあり……いずれにしても、男爵やマティルダ嬢が親近感を覚えるのも頷ける風貌だ。
(なんだろう……懐かしい感じだ……でも、この顔じゃあ、オレが異邦人なんて言っても説得力に欠けるよなぁ……)
手鏡の中で、東洋人であると主張した少年が顔を引きつらせている。
「無理もありませんわ。記憶喪失なのでしょう? あなたのそのエキゾチシズムなお顔立ち、私は好きですわよ」
キャッ言ってしまいましたわ! と頬を染めるマティルダ嬢。
「ふむ。最悪、親族が見つからなかったとしても、そなたほどの腕っぷしがあれば、勤め先に困るどころか引く手数多だろう。儂としては我が家の近衛兵として迎え入れたいところではあるが……おお! 義理の息子として永久就職するという手もあるではないか!」
「やだわ、お父様ったら気が早い!」
「ハァーッ、ハッハッ!」
本人そっちのけで盛り上がる男爵親子。車内に響く二人の朗らかな笑い声に、オレは一人だけ俯いて深刻に考えているのが、なんだか馬鹿らしくなってくる。
(まったく……)
顔を上げ窓越しに馬車の外を眺めれば、街道の先には密集した建物の影が見えてきた。
記憶を失くし、未知の世界で目覚めて、先行きの見えない状況に置かれているけど、人の良い親子に出会えたことは僥倖だった。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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