ep.17 男爵親子と渡りに船
拙い文章ではありますが あなたの心に触れられたら幸いです。
「ぉぉおーーい! おおぉーーい!」
現在進行形で記憶喪失のオレが、自身の出生について尋ねられ、その返答に窮していると、何やら遠くから声が掛かる。
「おぉ、無事であったか! 我が愛しのマティルダ! お前が空の彼方へ消えたときは、さすがの儂も肝を冷やしたぞっ!」
「お父様も! ご無事で何よりですわっ!」
馬車にいた紳士が兵士たちを引き連れやって来ると、感極まった様子でマティルダと抱擁を交わす。
その会話から察するに、どうやら二人は親子関係にあるらしい。
「彼のおかげですわ! 彼が身を挺して大鬼から私を守り! そして退治してくださいましたのっ!」
「ほぅ! ただ者ではないと思ったが、あの怪物をたった一人で倒したのかっ!」
(この親子、テンション高いなっ!)
顔を異様に紅潮させ、なぜか自慢気に語るマティルダにより、オレは紳士ご一行に紹介される。
「さぞや高名の戦士とお見受けする。此度の助力に深い感謝を申し上げたい」
紳士は襟を正すと、娘を溺愛する過保護な親父の姿から一転して、気位の高そうな貴族の顔に早変わりする。
(さて、こうなるとマジで自分のことを、どう説明したらいいか……)
オレは転移といった不確かな部分は端折り、記憶を失くして森で遭難していたことなどを明かす。
「――なるほど。おおよその事情は理解した。つまり、どこにも行く宛てがない、と……であるならば、どうだろう。当面の間、我が家で暮らすというのは」
「えっ? でも、それはさすがに……」
(さすがに話が上手過ぎやしないか)
どのみち、人里までの道案内をお願いするつもりでいたので、寝床まで提供してもらえるなんて渡りに船なのだが、普通、出会ったばかりで素性の知れない人間を、自宅に招いたりするだろうか。
しかも、そいつは記憶喪失など胡散臭い話を引っ提げたわけありだ。後ろ暗い過去を隠していると取られても不思議じゃない。
「それは名案だわ、お父様!」
いの一番に賛成を唱えたのはマティルダ。言うが早いか、急かすようにオレと腕を組む。
……その拍子に、オレの肘に少女の柔らかい双峰が触れ、ドギマギとしてしまったことは内緒だ。
「遠慮は不要だぞ。なにせ、そなたは我々にとって命の恩人なのだから。賓客としてもてなすとも」
ただより高いものはない。という慣用句があるように、無償の善意には大抵何か裏があり警戒して然るべし。
だけど、先の戦闘の加勢に対する礼という理由なら、一応は納得はできる。
さして労せず大鬼を退けたので、自分の功績を軽く見積もっていたが、もしもあの局面でオレが加勢しなければ、紳士一同は全滅していた可能性が高い。
オレは人数の減った兵士たちを見やり、そんなふうに考える。
となれば、紳士がオレを自宅に招くほど深い恩義を感じていても、別段おかしいところはない。ここは変に身構えず好意に甘えるべきか……。
「……なるほど。そういうことなら遠慮なく…………」
「まあ!」
言葉とは裏腹に遠慮がちに承諾したオレを、満面の笑みを咲かせたマティルダが迎え入れる。
かくして、一同は紳士の邸宅がある町へ向かうのだった。
ご高覧いただき ありがとうございました 次回へ続きます
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