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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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俊紅5

 走矢達が閉じ込められた亜空間では校舎も地上もなくなり、宇宙ともとれる空間が広がっていた。


 偽物のエリスが恐ろしい形相で向かってくるが、愛美は翼のひと振りでソレを撃墜してしまう。


「ヴァンパイアに限らず、空を飛ぶための翼を持つ妖は気をつけなきゃ駄目よ。足は腕の数倍の力があるって言うけれど、私達の翼はその足よりもはるかに力が強いの。今みたいに翼で本気で殴られたりしたら最悪、命に関わるわ」


 愛美の説明に顔がこわばる走矢。


 そう言えば足の速い馬の蹴りとかも強力だと聞いたことがある。


「だっ、大丈夫よ、滅多にあることじゃないから。基本、翼は殴るための部位じゃないし」


 自分で自分の発言をフォローする愛美。


 ふと、ふっ飛ばした偽のエリスを見ると空中に横たわるようにして動かなくなっている。


「行ってみましょう」


 そう言って偽エリスに近づくと見えない床があり、そこに彼女が横たわっていることに気づく。


 動かなくなった偽の母の姿を見てうわっ、と声をあげる走矢。


 顔も肌も土の様な色になり、アチコチがボロボロと崩れ落ちている。


「土人形、ゴーレムとかの一種ね」


 愛美はそう言いながら、今時分が言った言葉を反芻(はんすう)する。


 以前、エリスが言っていた保健室に運ばれた女子生徒の表情。


『死人みたいな顔してたわ』


 この土の様な色の顔、確かに生者には見えない。


 エリスは偶然それを見たのか、あるいは彼女に疑いを持たせるためわざとそれを見せたのか……。


 愛美の脳内で嫌な想像が膨らんでいく。


「とにかく、ここから脱出しないと……」


 言いかけた愛美が何かに気づく。


 空間の一部がよじれて槍状になり、愛美たちに向かって伸びる。


「危ない?!」


 走矢を守るように自分の後方に押し込み、その槍を左手で掴む愛美。


「近いわね……。姿を現したらどうかしら?」


 そう言って愛美は翼を羽ばたかせると、ソレからある空間に向けて羽根を発射する。


「えっ?!」


 驚く走矢。


 愛美の羽根は狙い撃った空間を削り、この空間の主(あるじ)の姿をあらわにさせる。


「さすがですね、相沢先生」


 そこに現れたのは長身の白衣の女性、保険医の来島 紗由理(クルシマ サユリ)だった。


「あの人は保険医の……」


「来島先生、貴女だったんですね」


 愛美の言葉に微笑で返す保険医。


 と、同時に先程の槍のときのように空間がねじれ、鎖状になって愛美に襲い掛かってくる。


 愛美はそれを翼ではたき落とすが、それを見た保険医は複数の鎖を出現させる。


 全方位から襲いかかる鎖。


 愛美は走矢を抱えて飛翔し、回避と翼による迎撃で対処する。


 一瞬のスキをついて先程のように羽根を保険医めがけて発射するが、彼女は光の壁を出現させてそれを防ぐ。


 このままではまずい。


 愛美に焦りが見えはじめた時、彼女は自分の右腕に違和感を感じた。


「先生?!」


 走矢の焦ったような声に反応し右腕を見るといつの間にか鎖がからまっていた。


 自分が鎖の出現ポイントに誘導されていた事に気づく愛美。


 機動力を封じられ、迫りくる鎖の群れに迎撃だけで対処するが全てをさばききれず両腕、両足を拘束されてしまう。


 愛美が拘束された事で走矢は放りだされ、見えない地面に激突する。


 ぐえっ、と鈍い声をだす走矢。


「佐伯くん!」


「こんな状態でも生徒の心配なんて、教師の鑑(かがみ)ね。でもこれでおしまい、この子は私が貰い受けるわよ」


 そう言って今度は走矢を鎖で拘束しようとする。


 しかし鎖は走矢を捕らえることは無かった。


 何者かが走矢を抱えてその場から飛翔する。


「えっ、咲花?!」


 走矢を抱えて飛翔したのは純白の翼を広げた霧崎 咲花(キリサキ エミカ)だった。


「貴女達、どうしてここに?!」


 驚いた様子の愛美の声に反応し、彼女の方を見る走矢。


 そこには愛美を鎖から解放する桜、春香、直の姿があった。


「これで5対1、テメェの勝ちの目はねぇぞ!」


 愛美を解放した桜が啖呵を切る。


 その桜はまっすぐ保険医に突っ込んでいき、途中で光の壁を出されるがそれもキックで破壊して殴り合いに持ち込む。


 桜の猛攻をかろうじてさばく保険医。


 しかし押され気味で徐々に攻撃を食らうようになっていき、とうとう桜の渾身の回し蹴りをその顔面に食らう。


 しかし、クリーンヒットを放った桜は違和感を覚える。


 と、同時に保険医の頭部が粉々になり、一同は騒然となる。


「これは……、土人形?!」


「えっ?! 本体じゃなかったの?!」


「そんなはずはないわ、あの鎖も光の壁も間違いなく彼女が起点になっていた。そこに本体があるはずよ!」


 動揺する桜と直に見解を述べる愛美。


「んなこと言ってもよぉ……。うわぁっ?!」


 桜の一瞬のスキをついて頭部を破壊された保険医が抱きついてくる。


 それと同時に何かが保険医の身体から飛び出してくる。


 それは小学生低学年ぐらいの少女で、保険医の身体は人の形(かたち)を失い桜を拘束する。


「やってくれたわね。もう容赦しないわよ」


 少女はそう言って一同を睨みつける。


「桜っ!」


 春香が猛ダッシュで桜に駆け寄り、勢いをつけたキックを繰り出し桜を解放しようとする。


「おいっ、ちゃんと加減しろよ?! 加減んっ……!!」


 春香は桜を拘束する土人形だった物もろとも彼女をふっ飛ばす。


「テメェ……。だから加減しやがれってぇ!!」


 起き上がりながら春香に怒鳴る桜。


「拘束の強度がわからないんだから全力でやるしかないじゃないの」


 勢いあまって一緒にふっ飛んだ春香が起き上がりながら反論する。


「来るわよ、2人とも相手に集中して!」


 桜と春香に活をいれる愛美。


 そして彼女の言葉どおり、保険医だった少女は周囲に光の十字架を大量に出現させる。


「まずい?!」


 愛美が咄嗟に漏らす。


 十字架は多かれ少なかれヴァンパイアの精神に影響する。


 この光の十字架は拘束魔法で、これに捕まるとその空間に固定される。


 桜達は本来の動きができず、次々と拘束されていく。


「走矢!」


 十字架を見て動けなくなった咲花は走矢を突き飛ばして十字架を食らう。


「くそっ!」


 走矢以外は全員十字架に捕らえられ残るは走矢だけになった。


 逃げろと言いたい桜だったが、この空間でそれは意味の無い行動だと理解していた。


「走矢、逃げろ!」


 わかっていても言わずにはいられなかった。


「無駄な事はやめなさい。大人しく従えば痛い思いで済むわ。けど、抵抗するなら物凄く痛い思いをすることになるわよ」


 見た目幼い少女はその外見には似合わない威圧感をかけてくる。


 おそらく見た目からはほど遠い年月を生きてきたのだろう。


「貴女、妖(あやかし)じゃないわね。おそらく魔女、人間でしょ? それがなんで佐伯くんを狙うの? 魔女と言っても人間である以上、俊紅を得ても力を得る事なんてできないわよ」


「魔女だからよ……」


 愛美の質問に対して短く返すと保険医だった少女は続ける。


「貴女、魔女についてどれだけ知っているの? 突然変異的に産まれてくるぐらいは知ってるわよね? 魔女も俊紅も……」


「貴女まさか……」


「そう、本当は自分の身体を調べたいんだけど、自分で自分を解剖できないでしょ? だから俊紅の彼を代わりに解剖するの。なんであたし達が産まれてくるのか知るために」


 愛美は彼女の言葉の裏にある真意をなんとなく理解した。


 突然変異的に現れる存在。


 それはときにチェンジリングなどと呼ばれたりするが最悪の場合、母親が誰か別の男と、場合によっては人ならざるものとの間に作った子供なのではと疑われ、酷い仕打ちを受ける事がある。


 さらには追い出された母親が今度は突然変異の子に恨みをいだき……と、まともな人生を歩めない時代が長く続いていた。


「ざけんなぁ!」


 怒鳴り声とともに、拘束されていた桜が1歩前に踏み出す。


「テメェの事情なんざ知るか! んなくだらねぇ理由で俺のダチを傷つけられてたまるかぁ!」


 身体を引きずるように、それでも確実に1歩1歩近づいてくる桜を見て少女の顔に焦りが見えはじめる。


「足りないようならもっとあげるわ!」


 少女はさらには拘束魔法の十字架を出現させ、桜に向かわせる。


 それを見た春香は薄紫色の翼を広げ、十字架に向かって羽根を撒き散らす。


 先程自分達が拘束されたとき、この十字架は1対象しか拘束できない事を見抜いていた春香。


 先に自分が撒き散らした羽根が拘束される事で十字架は効果を失うのでは、と分析していたのだった。


「サンキュー、春香」


 羽根を捕らえた十字架が自分の身体を素通りする事を確認した桜が呟く。


「ひっ?!」


 少女は咄嗟に障壁を出現させるが、桜の渾身の右ストレートがそれを貫通してターゲットを撃ち抜く。




 少女が意識を失うと桜達を拘束していた十字架と亜空間は消滅し、通常空間の屋上に帰還する。


「あら、戻った」


 屋上の一画からする聞きなれた声。


「母さん?!」


 見れば数え切れないほどの土人形の残骸の上に仁王立ちするエリスがいた。

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