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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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結界

 母の姿を見て安堵する走矢。


「まんまとハメられたわね。それにしてもアンタ達、よくあの結界に入れたわね」


 エリスの話だとあの結界は羽月のモノよりはるかに強力で、彼女でも穴を開けるのは容易ではないとの事だ。


「ああ、それね」


 と言って愛美は直の方を見る。


「こういう事は得意なのよ」


 直は嬉しそうに両手な人差し指をピンと立てて、クルクルと回して見せる。


「どっちかって言うとこうだろ」


 そう言って桜が鉤爪のように曲げた人差し指を強調する。


「えっ……、それって……」


「泥棒?!」


 走矢がためらった言葉をエリスが容赦なく投げかける。


「アハハははははぁ……」


 笑って誤魔化そうとする直だったが、段々と大人しくなる。


「ヴァンパイア怪盗の家系だったらしいわよ」


「いっ、今は足を洗って真面目に生きてますからぁ! 今は……」


 春香の解説を直が直々に補足してみせる。


「まぁ、だからコッソリ結界とかに穴開けて侵入するのが得意なんだ」


 つきあいの長い桜が要約する。




 エリスは怪しいと睨んだ高木 絵理子(タカギ エリコ)の後をつけ、屋上に出たところ亜空間に閉じ込めらたそうだ。


 そこで大量の高木絵理子に襲われ今に至るという。


「この土人形、予備が大量にあったようね」


 破壊された土人形の残骸を爪先で蹴飛ばすエリス。


「高木絵理子……。だれ?!」


 その光景を見た愛美が呟く。


「こんなヤツいたっけ?」


「桜まで何いってんの……。アレ、誰だっけ」


「信じたくないけど私達全員、記憶を操作されていたようね……。信じたくないけど……」


 春香の言葉に一同が青ざめる。


「教室で私達を襲ってきた子達ってちゃんといる子だよね?!」


 教室で咲花達を襲ってきた見知ったクラスメイト達。


 彼らも土人形だったのだが、本物は気を失った状態で別の亜空間に閉じ込められていた。


 衰弱している様子もなく、捕らえられてそれほど時間が経っていなかったと一同は判断した。


「エリスさんを誘い出す前後ぐらいに入れ替わったのかもな」




 その後、来島 紗由理(クルシマ サユリ)と名乗っていた少女をしかるべき機関に引き渡し、その日は解散となった。


「あったわ、これで7つ」


 日が暮れた学校の敷地内。


 愛美は同じヴァンパイアである女教師、西倉 綾(ニシクラ アヤ)と共に学校の周辺を調査していた。


 亜空間を作り出し記憶まで操作していた紗由理。


 術にしろ能力にしろ相当な力を持った存在という事になる。


 しかし結果はまだまだ若い未熟なヴァンパイアである桜の鉄拳に倒れている。


 もし亜空間や記憶操作を自分の力だけでやっている様な強敵ならありえない展開だ。


 愛美は彼女が何らかの自分が有利になる仕掛けを施していると考え、学校やその周辺を調べ始めたのだった。


 愛美が見つけたのはビー玉程の大きさの透きとおった何かの結晶。


「これで力を増幅していたんですね」


 綾がそう言いながら愛美越しに結晶を覗き込む。


「間野 羽月(マノ ハヅキ)も彼女が手引きしたんでしょうか?」


 確かに記憶を操作する力があれば彼女の正体を隠す事も難しくないだろう。


 しかし愛美はそうは考えなかった。


 俊紅の血を狙う羽月と走矢そのものを狙っていた紗由理。


 利害が一致しないわけではないが、もし協力関係にあったのならこの2人が同時に仕掛けくるのではないか?


 この2人が協力関係にないなら、羽月の協力者がいるはずだ。


 愛美はまだ結論づけるのは早い、と綾に釘を刺し調査を続ける。


「もし記憶操作がこの結晶による結界の効果なら、これで解呪されるはず……」


 愛美が見つけた結晶は高純度の妖力の塊で、妖(あやかし)や魔術師などが結界や魔導具を作るのに使われる。


 


 調査の結果、学校の敷地内とその周辺から合わせて50を超える結晶が見つかった。


「これ全部、来島先生……。じゃなかった、あの魔女の娘が仕込んだ物なんですかね?」


 学校の職員室は臨時対策室となっており、とある教員の机の上に集められた結晶が置かれていた。


 発言したのは走矢のクラスの副担任、浪川 栄子(ナミカワ エイコ)だった。


 栄子は普通の教員で愛美の様に荒事に対処はできないが、自分のクラスに関わる事件のため居残りしていた。


 教員の中には愛美のような妖(あやかし)や『気』や『魔力』といったモノを操る術師、導師といった者もおり、そういった者達すらこの結晶に気づいていなかったという事なのだが……。


(同僚を疑いたくはないんだけれど……)


 そして、この一連の関係者に同僚が関わっていたとして、それが正体をあらわしているとも限らない。


 現に羽月も紗由理も人間でないことや特別な力を持っている事を隠していた。


 つまり……。


「ななななっ、何ですか相沢先生。急にジッと見つめて?!」


 突然、愛美が凝視してきた事で栄子がわかりやすく動揺する。


「まさかね……」


 そう言って愛美は1人考え込む。


「おそらく使われていたのは個人ではなく、土地にかける記憶操作術。結界に入った物の記憶を自動で書き換える術なのでしょうね」


 記憶操作術について説明するのは術師であり数学の教師でもある神崎 裕翔(カンザキ ユウト)。


「神崎先生でも見抜けなかったんですかぁ?」


 栄子の問に悪意はないのだが、


「面目ない……」


 と覇気のない声で謝罪する。


「気がつかなかったのは私達も一緒なのですから、神崎先生1人の責任ではありませんよ」


 と、愛美がフォローする。




 一方、家路についた走矢達。


「っていうか、お前本当に直だよな?」


 唐突に幼馴染の直を疑い出す桜。


「ひっどぉぉぉい! 幼馴染にむかってぇ!」


「冗談だって」


「でも、いないはずの人間を以前から居たって事にする記憶操作って恐ろしいわね。例えるならこの面子に突然知らない子が友達づらして入ってきて、私達もそれに気づかず当たり前のように接しているって事でしょ?」


 春香の例え話に静まり返る一同。


「相沢先生でさえ気がつかなかったんだよね……。走矢、さっきからなんか考え込んでいるみたいだけどどうしたの?」


 咲花の問に、


「いや、人を増やしても気づかないんだったら人を減らしても気づかないのかなって思って」


「例えばこの中の誰かを最初っから居なかった事にするってことか?!」


「それは増えるより嫌かもね……」


 暗いトーンで春香が呟く。

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