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母はヴァンパイア  作者: 見えてる地雷
母はヴァンパイア
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俊紅4

 昼休みが終わり、午後の授業が始まったがエリスが戻ってこない。


 幸いにも愛美の授業だったことから、走矢は母の事を彼女に話す。


「いいえ、早退の話とかは聞いていないわ。ちょっと待ってて……」


 そう言い残して教室を出ていく愛美。


 結局、愛美の授業は自習となり放課後をむかえた。


「スマホもつながらないみたいなのよ。一体どこに行っちゃったのかしら」


「何も言わずに帰っちゃうような女性(ひと)でもないしね」


「あれっ、ソウちゃんは?」


「またいねぇ、1人でウロウロすんなって言ったのに……」


 そう言って教室を出ようとする桜だったが、出入口で1人の生徒とぶつかる。


 いや、行く手をさえぎられたと言ったほうが近い。


「なんだぁ、ちっとは避ける素振(そぶり)りぐらいしろや……」


 言いかけて妙な違和感に気づく桜。


 彼女の行く手を阻(はば)んだ女子生徒。


 親しくはないが見慣れたクラスメイトだ。


 しかし、その彼女は人形のように無表情でその視線は何も無い空間を見つめている。


「なに?!」


 春香達も女子生徒の違和感に気づき、そちらに視線をやる。


 と、同時に自分達を囲むようにしているクラスメイト達に気づく。


「そう言えば、今日は随分と居残り組が多いわね」


 眼鏡の位置を直しながら呟く春香。


「これって……」


「くるよ、エミちゃん……」


 咲花と直にも緊張が走る。




「相沢先生!」


 母を探す走矢。


 偶然視界に入った愛美を呼びとめ、駆け寄る。


「佐伯君……」


 浮かない表情の愛美。


 それを見て、まだ母の行方の手がかりが無いことを走矢は察する。


「ごめんなさい、まだ佐伯さんの行方は分からないの。何度も彼女の気配を追っているんだけど、この先で完全に消えているのよ」


 そう言って屋上につづく階段に視線をやる愛美。


「母さんは屋上に?!」


「確かに屋上に行った痕跡(こんせき)はあるのよ。でもそこで完全に気配が消えていて……」


「飛んでいったとか?」


「たとえ飛んだとしても気配は残るわ。むしろ私達が空を飛ぶときって半分以上、妖力によるものなの。余計に痕跡が残るわ」


 2人は話しながらドアを開けて屋上に出る。


「母さん、一体どこに……」


 屋上を見回す走矢。


「走矢、その女性(ひと)から離れて! その女性(ひと)は敵よ!!」


 突然響く母の声。


 声の主を探す走矢の目に困惑の表情の愛美の姿が映る。


 その愛美の視線の先に、ボロボロのエリスが翼を羽ばたかせて空を飛んている姿があった。


「これはその女性(ひと)が仕込んだ罠よ、早くこっちに!」


 屋上に着地して自分の元に来る様に指示するエリス。


 戸惑う走矢の前に手を横に伸ばして静止する愛美。


「彼女は貴方のお母さん何かじゃないわ」


「走矢、その女性(ひと)の言う事を聞いちゃダメ。その女性(ひと)は貴方を狙う悪いヴァンパイアよ!」


「大丈夫です、先生。俺でもあの人が母さんでないくらいわかります」


 その言葉を聞いた愛美は走矢の方を向いて苦笑いする。


「そりゃそうか。親子だもんね」


「どうして?! どうして私の言う事を信じてくれないの……。私が一番、貴方の事を……」


「本物の母さんは俺のことを『アンタ』自分の事は『アタシ』って言うんだよ。さらに自分を襲った相手なら絶対『ソイツ』って言い方するから」


 走矢の言葉におとなしくなる偽エリス。


「本物の佐伯……、さんだとちょっと紛らわしいわね。本物のエリスさんはどこにやったの? 事と次第によっては……?!」


 何かに気づいた愛美の表情が変わる。


「佐伯君、私に掴まって!」


 そう言うと愛美のブラウスが裂け、その背中に猛禽類を思わせる鳥の翼が広がる。


 裂けたブラウスの下からはスポーツブラが現れ、その背中の部分は大きく露出していた。


 愛美の翼はエリスのそれよりもさらに大きく、おそらく脱ぐか破くかしないと広げる事ができないのだろう。


「ちょ、ちょっとジロジロ見ないで! 恥ずかしいから……」


 つい、はじめて見る愛美の翼に見とれてしまった走矢だったが、下着姿を凝視していると思われ焦る。


「すっ、すいません、そんなつもりじゃ?!」


 言い終わる前に愛美は走矢を抱きかかえて飛び立つ。


「くっ、迂闊だった」


 愛美が言うと同時に走矢は世界が歪んていくのを目にする。


「えっ、一体何が?!」


「何者かの結界内に誘い込まれていたのよ。しかも亜空間型の結界ね。妖力とかを使って作られた人工的な異次元ってとこかしら」


 結界と聞いて以前、羽月が逃げられないように張った見えない壁を思い出す走矢。


「こういう結界もあるんだ……」


「基本的に何かを隠したり寄せ付けないようにするためのモノね。でもこれはターゲットを逃さないようにするためのモノ。エリスさんもコレに閉じ込められているのかも……」


 走矢を抱きかかえて飛ぶ愛美はかつて彼の父、新矢を守って飛翔したときの事を思い出していた。



 走矢の父、新矢と初めて出会ったのは彼が小学生、低学年の頃。


 とある事情から、近所の佐伯家に引き取られた新矢。


 無邪気というか脳天気というか、ヴァンパイアである愛美にすぐになつき、彼女をお姉ちゃんと呼ぶようになった。


 俊紅の血と呼ばれる特別な血を持つ彼はよからぬことを考える人外や、ときには人間に襲われることがあった。


 愛美は度々その場に出くわし、そのよからぬ者を撃退していた。


 そんな日々を過ごすうちに、俊紅にさえ生まれなければと新矢に同情するようになっていく。


 そして新矢が中学を卒業した日、彼は愛美に告白した。


 しかし愛美はその回答を濁した。


 それは見方によっては告白を拒絶したとも取れた。


 新矢の事が嫌いだったわけではない。


 むしろ、愛美も彼に好意を抱いていた。


 彼の気持ちを受け入れられなかった理由は簡単、自分がヴァンパイアで彼が人間だったからだ。


 ヴァンパイアの歳のとり方は人間とは違う。


 二十歳前後くらいまでは人間と同じくらいのペースで成長するが、その二十歳前後を超えると歳のとり方は急激に遅くなる。


 出会った頃は可愛い小さな男の子だった新矢。


 しかし彼はすぐに大きくなり、愛美に告白するまでになった。


 そして愛美の歳を追い越し、愛美よりも先に寿命をむかえるだろう。


 その事を考えると、彼を本気で愛することに抵抗があった。


 いや、恐怖していたと言ってもよかった。


 しかしその後、新矢の死で自分が彼の事を深く愛していたことを思い知る。


 数日前、偶然立ち聞きしてしまったエリスと桜達の会話。




「なぁ、エリスさんさぁ……。人間の旦那と結婚するって迷いは無かったのか?」


「無かったわね、全然」


 桜の質問にあっけらかんと答えるエリス。


「生きる時間が違うからって事でしょ? 私達、妖は長寿で人間は短命。でもそんなのは妖(あやかし)の傲慢(ごうまん)だわ。私の父はね強い妖、ヴァンパイアだったわ。それでも妖同士の争いに巻き込まれて命を落としたの。妖だから人間より長く生きられるなんて保証はどこにもないのよ。だから私は目の前に居る愛しい人を全力で愛するって決めたの。種族なんて関係なくね……」


 愛美にはその言葉が自分に向けられているように思えた。


 もし、自分が新矢と結ばれていたら。


 彼が死ななかったなどと傲慢な事を言いたいわけではない。


 それでも、彼を守る機会があったかもしれない。


 自分がそばにいる事で何かできたかもしれないなどと考えてしまう。


 そして今、この腕で抱きかかえる少年の母親に自分がなっていたのかも知れないとも……。

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