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伏兵

「アレは72使徒のサブナックとブネ、グラシャラボラスだ」


 突然、何者かがバックベアードの背後から語りかける。


「バエル?! 72使徒同士で争っているの?。以前、貴女が言っていた王が目覚めた時に発動するという、72使徒の自滅システム?」


「まぁ、そうなのだが少し違う。あのサブナックは元から王に取って代わろうとしていた男だ。自滅システムなどなくても始末しにかかっていただろう」


「なるほど、元から一枚岩ではないわけね」


 なにやら納得した様子のバックベアード。


「けど、あの連中の強さ、聞いていたものよりだいぶ上じゃない?」


「ブネとグラシャラボラスは自滅システムの発動により、リミッターの様なモノがはずれているのだろうな。サブナックについては断言はできないが、王に取って代わるために力を付けているのだろう。返り討ちにした72使徒を取り込むなどして、王に近づこうとしているのかもしれない……?!」


「なに、この霧は……」


 バックベアードとバエル、そして彼女達が遠目に見ていたサブナック達まで(おお)うように突然、霧がたちこめてくる。


「なんだ? こんな小細工を使うようになったのか? グラシャラボラス」


「ふざけるな。このグラシャラボラス、こんなくだらない真似などせん! 貴様の仕業じゃないのか、サブナック!」


「ふん、やはりお前達ではないか……?! 何者だ!」


 何も無い空間を突然、斬りつけるサブナック。


『このオジサンこわ〜い』


『でも強そうだね。ちょっと味見してみる?』


『しようしよう!』


 きりの中から聞こえてくる、少女のような話し声。


「ぐわぁ?!」


「なに?! どうしたグラシャラボ?! 誰だ! アタシの手に噛み付いたのは!!」


 手に噛みついた何かを振りほどきながらグラシャラボラスと背中を合わせるブネ。


「霧の中に何かいる」


「わかってる、今俺も噛みつかれた」


 グラシャラボラスとブネの会話を聞きながら、姿の見えない敵と戦うサブナックは、広範囲に広がる霧からの脱出を目論(もくろ)む。


「なんだ、コイツラは? 何匹いるんだ?!」


 敵の攻撃を回避しながら霧の外に向かうサブナック。


「くっ、逃げる気だぞ。アイツ!」


「残念だけど追いかける余裕はないね。サブナックが逃げたのはアタシらよりもこの、霧の敵の方が厄介だとふんだからだ。アタシらも目の前のコイツラに集中しないと、命は無いかもよ」


 ブネの言葉に舌打ちするしかない、グラシャラボラス。


「その舌打ちは同意って事で良いんだね?」




「私達も引きましょう。呉夫達が心配です」


「この上沢という土地は、色々な輩が住み着いているな」


 バックベアードの言葉に、バエルは静かに従う。


「これは、血な匂い?! まさか呉夫!」


「1人ではないな。アチコチから血の匂いがする」


「くそ、護衛を連れてこなかったのは失敗だった」


 負傷した呉夫を抱き起こすバックベアード。


 バエルは他のグレムリン達を回収して、バックベアードの元に駆けつける。


「とりあえず回収できたのは5人。息があるのは2人だ」


ここ(上沢高校)へは私と呉夫を合わせて10人で来た。つまり……」


「3人足りないか……。急いで離脱しよう。このままだと息のある者も危険だ」


 バエルの意見に同意し、バックベアードはその場から離れる。


『あの2人、強そうね(おいしそうね)


物陰からその光景を見つめていた存在が、少女の声で呟く。




「神話計画って、新しい神話を創るにしてもティポーンはミスキャストじゃないか? 強すぎるんだよ、大神ゼウスを一度は退けたヤツだぞ? これに見合うヤツはいないのかって話だろ? いるわけねぇじゃん」


 18支部の九骸が収容された部屋。


 その中で九骸が神矢に言葉を投げつけていた。


「対するソロモン王に関しちゃ、(まった)くの未知数だからな。いい勝負するかもしれないし、あっさり殺られるかもしれないし」


 虚空からもダメ出しされる。


「いや、だからどなたか、釣り合いの取れるお人をご紹介……」


『いるわけねぇじゃん』


 おっさん2人がハモって返す。


「そんな、仲良く声をそろえて言わなくても……」


「そうだ、空亡なんてどうだろうか。ティポーンと比べても遜色ないだろ?」


「待て待て、下手すりゃティポーンよりヤバイって事になるぞ。だいたいこのご時世(じせい)、儀式の段階で人妖機関に消されるぞ」


 落ち込む神矢に虚空が別の提案をして、九骸がそれを止める。


「以前、話たろ? オリジナルの空亡が召喚される過程をトレースして、そのデータを元に2体目の空亡を召喚したって……」


「お前まさか……」


「空亡なら召喚できるぞ」


「空亡参戦決定ですね」


 バカヤロー、と九骸の絶叫が部屋の外にまで鳴り響く。


「ほんと、元気ですね。九骸さん」


「お前らのせいで、出したくもない元気を出してんだよ。コッチは……。空亡は強いとかじゃねぇ。アレが生贄の魂を取り込んだら世界が終わる。新しい神話どころじゃねえっての」


「まぁしかし、変わらないな神矢は。昔から見切り発車の神矢とか泥縄の神矢なんて呼ばれてたもんな」


「虚空さん、申し訳ないけどその2つ名はとっくに返上してますよ。一応、3人目は用意してあるんですよ。その名もハデス。さっき名前が出た、大神ゼウス級の冥界神です」


「おいおい、大丈夫か? 冥王ハデスなんて簡単に呼び出せるモノじゃないぞ? なんか騙されているんじゃないのか?」


「ああ、本物じゃないですよ。レプリカです。名工のドワーフに依頼して作ったもらっています。ソレに空亡のエネルギーを組み込めたらと思ったんですけど」


 レプリカと聞いて力が抜ける九骸。


「けど、空亡のエネルギーを組み込むというのは面白そうだな」


 感心する虚空とそんな虚空を見て、ため息をつく九骸。


「あと三ノ輪さん、そのドワーフに聞いたんですけど、エルフの連中が大量に入国してきたみたいですよ。何が目的なんですかね」


 その言葉を聞いて、2人の表情は険しくなる。

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