来訪者達
「エルフ……。あの面倒な連中が日本に?! いったいなんのために……」
「まさか、俺の空亡のデータを奪いに?!」
「あはは、そんな事あるわけないじゃないですかぁ」
「わからんぞ。エルフという連中は特異な存在で、この世界とは違う異世界から来た種族とも言われている。この世界の外から呼び寄せる空亡の召喚とは無縁じゃない」
虚空の意見をあざ笑う神矢。
九骸はそのリアクションに異を唱える。
そして九骸の言うとおり、エルフと呼ばれる種族は人とも妖とも異なる、特別な存在だとエルフ達自身が宣言している。
彼らは様々な世界を渡り歩き、『エルフの大地』と呼ばれる聖地を目指し、その過程でこの世界に現れたのだと言う。
「その聖地とやらに行くためには『秘宝石』と呼ばれるアイテムが必要と……。神矢、お前何か隠してないか?」
「ほぐが?! 九骸さん達に隠し事?! そんな事あるわけないじゃないですかぁ」
「ああ、すまん。俺達に言ってないことがあるんじゃないのか? 例えばさっきの作り物のハデスの材料とか」
「ああ、それなら物凄く貴重な宝石が手に入りまして。魔宝石ってヤツですかね。『アビスガーネット』と言いまして……」
「だからそれがエルフの秘宝石じゃねぇか! それがアイツラの目的だ!!」
「なっ?! じゃあエルフ共が来たのは神矢が原因?! そのせいで俺の空亡のデータが……」
「お前は黙ってろ、虚空! って言うか支所長って肩書なんだからもうちょっとそっち方面の心配しろよ! そういうトラブルの対処が仕事だろ!」
「あはは、大変ですね。虚空さん」
『お前が大変な事にしてるんだよ!』
おっさん2人が声をそろえて怒鳴りつける。
「つまり、エルフの秘宝石を盗み出したのは貴方達の祖母、怪盗ヴァンパイアって事でいいのね?」
虚空達がダベっている人妖機関、第18支部。
その別室では超人機関との死闘の直後、エルフ来日の報を受けた由利歌はその対処に追われていた。
「その後、ブラックマーケットに流れた秘宝石は様々な組織、術師の手に渡り、エルフ達はそれを追っていたそうです。秘密裏に。そして日本にまだ未回収の秘宝石が存在しているという情報を得て、今回の来日騒動となった次第です」
と、由利歌の秘書が経緯を説明する。
「とにかく、エルフの連中は秘密主義で情報がほとんど無いのよね。秘宝石についてもわかっているのは存在だけで、具体的にどういった物なのかは知られていない。でも、それを盗んだ貴方達お祖母様はある程度の事はわかっていたって事よね。教えてもらえるかしら? 貴方達の知っている範囲で」
由利歌に言葉を投げかけられた直の両親、梨央と真央は顔を見合わせた後、口を開く。
「お祖母ちゃんがどういう経緯で詳しい情報を入手したのかは聞いてないけど……」
と、梨央が前置きしたあと真央が続ける。
「当時、エルフが所有していた秘宝石は6個。この世界に来るまでに手に入れたと、エルフ達は主張していたらしいわ。そしてこの世界で7個目を手に入れればエルフの大地への道が開けるって言うのが彼らの理屈よ」
「その6個のうちのいくつかは回収していて、残りが日本にあるという事なんでしょう」
真央の説明を秘書が補足する。
「ありがとう。他に何かわかったら教えてちょうだい」
そう言って退室する由利歌。
これからエルフの代表と会談に臨む事になる、人妖機関の総本部長。
彼女ほどの経歴の持ち主でもエルフ自体と接触するのはこれが初めてで、どのような展開になるか彼女にも読めなかった。
「大ばば様」
廊下に出た由利歌を待ち受ける様に現れた葬魔に秘書の女性はヒィッ、と悲鳴をあげて床に尻もちをつく。
「驚かせてすまねぇ。どうしても大ばば様に伝えたいことがあってな」
「葬魔、いったいどうしたの? こんな所に現れるなんて」
「単刀直入に伝える。72使徒のバックにいる組織、ソロモンが入国してきたぞ。目的はエルフ共が取り返した秘宝石を再び奪う事だ」
「完全に私の失策よ。油断してた……」
「よしてください。それは僕も同じです。だいたい、人妖の分室の近くであんな事が起こるなんて、普通は想定できませんよ……」
負傷した呉夫達を連れ帰ったバックベアードは彼らに謝罪するが、呉夫は彼女に非はないと言う。
「しかし、霧にまぎれての襲撃者。いったい何者なんだ?」
「コソコソと、俺が嫌いなやり口だな」
「ちょっと、一応女の子なんだから」
襲撃者の正体について考えるケルベロス、あぐらをかいて私見を述べるベリト。
そしてそれを注意するフォカロル。
ベリトの真似をしようとしていたがそれを見て思い直したダンタリアン。
「ご家族への連絡は?」
「娘さんに伝えました。すぐ来るそうです。ただ奥さんの方が……」
「そうですか……」
総士の言葉を受けて、他のグレムリン達の方を見るラードン。
負傷者2名に遺体が3つ。
そして行方不明が3人。
これに呉夫とバックベアードを含めた10人が空亡との戦闘跡地に向かったのだが、生還者は半分以下。
「この街、まだ色々と見えていない顔がありそうですね……」
ラードンは静かに呟く。
「くそ、アチコチ噛みつきやがって……」
「攻撃っていうよりも肉片の採取って感じだったね。いったい何者だったんだ……?! なんだこりゃ?!」
霧の中の襲撃を逃れたグラシャラボラスとブネ。
そのブネが物陰に隠すように置かれた複数の死体に気づく。
「人間に擬態しているが妖、グレムリンか?!」
「1つ、2つ……。グレムリンの死体が4つか。これもあの襲撃者の仕業だろうね。殺してから肉片を採取したみたいだ」
「72使徒とは……」
「別口だろうね。少なくともアタシはこんな事する元仲間を知らないね」
「ヴァサゴ様にも伝えたほうがいいな」
そんな夜の闇に消えていく元72使徒の2人を見つめる者達がいた。
「アイツラはあの子が追っているんだよね? コッチはどうする?」
「私が追うわ」
「頑張ってね。そしたらパパもきっと褒めてくれる」
「え〜、私もお父さんに褒められたいぃ。私がいく〜」
「アンタはダメ。すぐに気づかれるのがオチ」
「はいはい、喧嘩しない。お父様のためにもあの強い連中は絶対に手に入れたいわ。当初の予定どうり、エーコに尾行してもらうから、エーコは大人しくお留守番」
「ちぇ〜。エーコがそう言うなら仕方ないなぁ」
夜の闇の中、浪川栄子の面影を持つ少女たちがうごめく。




