神矢
「帰れ!」
空亡との戦いを終えたその夜、佐伯家を訪ねてきた佐伯 麟太郎に対して敵意をむき出しにするエリス。
「そんな〜。久しぶりに上沢に来たんですから、ちょっとぐらいいいじゃないですか……」
「エリスちゃん、そんなに毛嫌いしなくても……」
「ママは黙ってて! コイツの所業を知っていたら絶対にそんな事、言えないんだから!」
甥っ子同然の走矢に会いに来た麟太郎、それを許さないエリス。
リリスがフォローしようとするが、エリスはそれを受けつけない。
「麟の字、お前さんいったい何をやらかしたんだ?」
麟太郎に同行してきた元蔵が横から尋ねる。
「なっ、何もしてませんよ、本当に……」
「ああ、これはやらかして気づいてないパターンね」
弁明する麟太郎に風香が追い打ちをかける。
「せめて、せめてプレゼントだけでも渡させてくださいよ。少し遅れましたが、高校進学のお祝いのヤツです……」
麟太郎がそれらしき包みをカバンから出すと、エリスはそれを奪い取って乱暴に包装を破いて中身を取り出す。
『うわぁ……』
中から出てきたものを見て、その場にいた一同が呆れたような声をあげる。
それは大量の渦巻きが描かれたシャツだった。
「いやっ、これはですね、悪者が走矢くんを襲ったときこの渦巻きを見て目をまわすという……」
「悪者の前に私の目が回りそうよ……」
「知っていましたけど、改めて酷いセンスですね」
風香と紫炎の容赦ない感想。
「まあ、多少はマシになったわね。走矢に着せるつもりはないけれど」
「多少はマシって……」
言葉を失う元蔵。
「小学校に入学したときは唐草模様のランドセルで、中学のは迷彩柄のカバンと財布。アンタは走矢に泥棒とかあだ名をつけさせたいの?」
唐草模様のランドセルと聞いて、コントの泥棒を想像する一同。
「カバンとかお財布みたいな無くしちゃいけない物に迷彩柄ってのもどうなの? 落としたりしたら見つけるの大変よね?」
「コイツからしたら取られ辛いとか、そういう発想なのよ。落としたりしたときの事なんて考えてないんだから」
「まぁ、麟太郎さんなりに、一生懸命考えた結果なんですよね?」
風香の疑問似応えるエリスとフォローする紫炎。
「紫炎さん……」
サンドバック状態の麟太郎がすがるように紫炎を見つめる。
「あっ、勘違いしないでくださいね。私も母親ですから、エリスさんの気持ちはすっごくわかりますから。もし、うちの子に近づいたりしたら私、鬼になっちゃいますよ」
そう言って両手を額に当て、人差し指を立てて角の様にしてみせる紫炎。
「自前の角があるのに……」
「お嬢の鬼ジョークは突っ込んだら負けだぞ」
ポツリと呟くリリスに、元蔵が助言する。
「って、お子さんがいるんですか?」
妖というものは見た目で歳を判別できない。
かく言うエリスも見た目は20歳前後で、紫炎と大差はない。
「人間の子供を引き取って育てているの。まだ小学生よ」
と、風香が説明する。
「それは確かに近づけたくないわね」
「ないてすよね〜」
奇妙な所で意気投合するエリスと紫炎。
「ちょっとまってください。静音さんは?! 静音さんはどこに行ったんですか?!」
「ああ……。叔母さまなら久しぶりに走矢に会うって……」
「ずるい! 静音さんだけ!!」
「だからアンタは入ってくるな!」
リリスの言葉を受けてスイッチの入った麟太郎だったが、あえなくエリスのバックドロップに沈む。
「なんか外が騒がしいわね……」
「また麟太郎がエリス制裁されているのね」
外が気になるアリスに静音が応える。
「それにしても走矢、だんだんと走司に似てきたわね」
走矢の顔を見ながら嬉しそうに微笑む静音。
「ああ、やっぱり叔母さまもそう思います? 不思議よねぇ、血は繋がっていないはずなのに」
「それは違うわ。人間とヴァンパイアは混血が産まれない。つまり、血が交わらないって事だけど、むしろそれ以外は交わって受け継がれていくものよ。癖とか性格とか」
「走矢って姿勢が良いでしょ。でも照れたりすると、少し右に傾く癖があるのよ。お父さんそっくり」
「あと何かしようとする時、手の指を曲げたり伸ばしたりするのもそうでしょ? 頭をかくときかく方に頭を傾けたり」
走矢と走司の共通点で盛り上がるアリスと静音。
「僕のおうち〜」
「絶対に嫌」
そんなリビングの片隅で、余白とヘルハウンドが余白ハウスの争奪戦を繰り広げていた。
「まだやってんの? アンタ達」
呆れた様子の羽月。
「当たり前でしょ! これは僕のお家なんだから、取り戻すまで終わんないよ」
「貴女はベッドの下ででも寝ればいいでしょ? 私はこの犬小屋が気に入ったの。今後はヘルハウンドの神殿として活用していくわ」
「ワン子大戦争だな」
「そりゃあ、狐もイヌ科だけど……」
言い争う2人を見てポツリと感想を述べる霧香に、星垂が呆れる。
そんな中、走矢は騒動の後、どこかに行ってしまったソラの事を考えていた。
以前、街を破壊した時の戦いや今日の戦いでだいぶ消耗しているというソラ。
彼女の体調も心配なのだが、それと同じくらい常識の無い彼女の素行が気になっていた。
「やあ、お2人さん。お久しぶり」
その男は人妖機関に収容されている九骸の部屋に突然現れた。
「お前は……。神矢」
「よく入ってこれたな。結界まみれの施設なのに」
驚く虚空と感心する九骸。
「ここに寄ったのはたまたまさ。懐かしい顔が2つも揃っていたんでね」
「たまたま上沢市に?」
「そう、たまたま。あ〜、九骸さん信じてない」
「そりゃ、お前の言うことだからな。で、上沢で何をするつもりだ?」
神矢と呼ばれた見た目若者はため息をついて口を開く。
「神話計画。神クラスの妖を集めて擬似的な神話を作り出すんだ」
「昔話してた奴だな。神話とはその後の時代の設計図だと」
「新たな神話を紡ぐ事によって、世界のあり方を変えるってヤツか」
九骸と虚空の言葉を聞いて、にやりと笑う神矢。
「ソロモン王にティポーン。最低でもあと1人、神話級が欲しいんだけど誰か心当たりない?」
と、無邪気に問いかける。




