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因縁

「で、その封印した空亡はどうするおつもりですか? 母上」


 戦闘の終わった上沢高校の校門付近にて、蒼水が由利歌に尋ねる。


「どうもこうも、とりあえずは人妖機関の本部に保管しておくわ。準備ができ次第色々と調べて、それからね。コレをどうするか決めるのは」


「迂闊に刺激して暴れだしたり自爆されたら一大事だもんね」


 由利歌が空亡の扱いを述べると、紗由理がそれに同意する。


「にしても、あの蒼炎って人の術が通用した理由が知りたいな、アタシは。やっぱり複合術式には対応してなかったって事なのかな?」


「まだ走矢くんの中に居るんでしょ? 聞いてみたら?」


「聞いたよ。そしたら『最強だから』ってドヤ顔で返されて、危うくドロップキックを見舞いそうになったよ。危ない危ない、身体は俊紅の子のだからねぇ。そんなことしたらあのお母さんに殺されてたよ」


「まぁ、あの子、天然のところがあるからねぇ……。本人もよく分かってないんでしょ」


「答えはもっとシンプルだと思いますよ」


 と、由利歌と紗由理のやり取りに、蒼水が口を挟む。


「最初から兄上がよく使うような術は対策がされていなかったんではないでしょうか」


 蒼水の仮設に呆気にとられる由利歌と紗由理。


「流刃が空亡を手に入れた時点で兄上は故人でした。わざわざ対策する必要が無いと考えたか……。あるいは、兄上が空亡に敗北する姿を想像すらしたくなかったか。私は後者であることを願いたいです」


「そうね……」


 由利歌少し(うれ)いげな表情で走矢を見ながら、同意する。




 かつて走助が惨殺された時代。


 俊紅を狙った俊紅狩りと呼ばれる行為が横行していた。


 人が妖を恐れ、妖が人を襲うのがあたり前だったその時代において、その妖に力を与える俊紅は妖以上に忌み嫌われていた。


「おととい来やがれぇ!」


 怒鳴り声の主は当時、雨上流を束ねていた当主の雨上 由利歌(ウガミ ユリカ)


 走助殺害に加担した者達が怪物と化し、今も暴れ続ける桜花を何とかしてほしいと雨上流を頼ってきたのだが、由利歌はそれを一蹴した。


 自分達の身、可愛さに幼い子供を母親の目の前で惨殺した者達を助ける義理は無いと由利歌。


「蒼炎、塩! 塩持ってきな!」


「ほらよ」


 由利歌に言われ、何かが入ったツボを渡す蒼炎。


「…………。ちょっとぉ、ナニコレ? 私は塩を持ってこいって言ったの。これはただの砂じゃない!」


「塩も最近、値上がりしているんだ。それで我慢しろ」


「ったく。しけてるわねぇ。おととい来やがれ!!」


「ハハハハッ、砂かけばばぁっ?!」


 蒼炎が言い終わる前に、由利歌は砂の入った壺で彼の頭をどつく。


「絶対言うと思ったわよ!」


 頭をおさえて倒れ込む息子に、由利歌は吐き捨てる。


「しかし母上、最近このような俊紅狩りが増えているようですよ。我々も何か動いたほうが良いのでは?」


 蒼水が進言する。


「俊紅狩りの根柢にあるのは、妖への恐怖や憎悪だ。確かに雨上の範疇(はんちゅう)だな」


 蒼水に同意する蒼炎だった。




 当時の俊紅狩りも、現在の超人機関も、根柢にあるのは妖への不信感や恐怖、憎悪といった負の感情だ。


 元から世の中にあったそういった思想が人妖機関に入り込み、根付いたと考えると走助の時代から続く因縁でもある。


「まずは第18支部の地下施設とそれに関わった者達。そこからどれだけ関係者を調べ上げる事ができるか……」




「押収した『亡の書』、ありゃ偽物だ」


 九骸の収容されている部屋に入るな否や村田 厚(ムラタ アツシ)こと虚空が叫ぶ。


「何だいきなり?! 順番に話せよ」


 今日起こった事とその過程で亡の書を押収したことを告げる虚空。


「なるほど、大変だったんだな。それで、超人機関の連中が使っていた亡の書をよく見たら偽物だったと」


「そういう事。まぁ、ご愁傷さまってヤツだ」


「そういや以前、いってたな。本物の亡の書からは異様な気配がするって」


「それだけじゃない。どうも正体不明の術式がかかれているんだ。俺が以前持っていた亡の書にはそんなものは無かった。空亡のエネルギーを使って何かをさせる術式が書かれていたんだ」


「そもそも、空亡のエネルギーを利用して絶滅陣を初ドアさせようとしていたんだろ? それとは違うのか?」


「違う。あんなあからさまな術式じゃなくって、巧妙に隠されている。この偽物を書いたヤツの最終目的がこの術式なのは間違いない。俺の感がそう言っている」


 虚空の力説に九骸は肩をすくめる。


「って事は本物の亡の書は野に放たれたままって事か……」


 虚空の様な人物の手にわたらない事を祈る、九骸だった。




「思ったほどのエネルギーが抽出できなくってね」


 暗がりのなか、若い男ががっしりした体格の中年の男に謝罪している。


「構わん、こうして現世に出ることができたんだ。多少の事は目を(つむ)るさ」


「けど、エネルギー不足のせいで、その姿を維持できる時間も予定よりだいぶ短くなってしまいましたから。気をつけてくださいね、ティポーン」


 若い男はそう言い残してその場から消えた。


「いいんですか? 信用して?」


 中年の男に話しかけるスーツ姿の女、サイクロプスの新崎は若い男をよく思っていないようだ。


「構わんさ。奴が何を企もうと俺が打ち砕いてやる。そして必ず、完全復活してやる」

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