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作戦

『やっぱり貴方でしたか……』


 とある人物の不審な行動に気づき、後をつけた夢子は2階の廊下に響く声に足を止める。


「今の声、やっぱりレイコの弟くん。達郎って人のだ。でもいったい、誰と話しているんだろう……」


 避難の終わった廊下に人影は無く、どこかの教室で話していると思われる、達郎ともう1人。


 夢子は廊下から教室の様子を伺いながら、慎重に歩を進める。


『しかしよく遠目に俺がわかったね。そんなに面識なかったろ?』


『貴方の写真を穴が開くほど見てましたから。その姿を見てすぐにわかりましたよ、里田(サトダ)さん』


「里田?! なんか聞いたことあるような無いような……」


『機関を辞めたあと、佐伯さんの事がどうしても忘れられなくって、貴方と三宅さんの事を調べました。三宅さんについては裏がとれましたが、貴方に関しては同級生の方全員が別人だと証言しました。いったいあなたは誰なんです?!』


『ご想像の通りだよ。俺は里田 幸夫(さとだ ゆきお)という男の戸籍を買った、ただの名無しの権兵衛さ』


 夢子は声のする部屋を見つけ、コッソリと覗き込む。


 そこでは達郎ともう1人が対峙していた。


「里田さん、貴方がここに来たのは作戦を遂行(すいこう)するためですか?」


「まさか。紅賀の絶滅陣はまだしも、宗像……いや、蘭堂 怪魔(ランドウ カイマ)の全人妖のクローン化は看過できないからな。それを妨害しに来ただけだ」


「あの人達は超人機関を利用していたと言うことですか」


「そこはお互い様だ。俺達もあいつらを利用していた。ただ、1つだけ計算外だったのは、空亡なんてとんでもない代物を隠し持っていたって事だ」


 不敵な笑みを浮かべる里田。


「なるほど……。貴方はそれを横取りしに来たと……」


「人聞きが悪いな」


 次の瞬間、里田の左手から放たれた呪符が高速で達郎に向かって飛ぶ。


 (すんで)のところで、横っ飛びで回避する達郎。


「馬鹿な奴だ、コソコソと嗅ぎまわったりしなければ、静かに余生を送れたものを!」


 戦う術を持たない達郎は逃げ回るしかなかった。




「術式って言うのはさぁ、文字通り計算式みたいな物なんだ」


 空亡との戦場、遅れて来た紗由理がその空亡攻略のためと言って薀蓄(うんちく)(かたむ)ける。


「たとえば2✕4は8。この2の部分が術に使うエネルギーの量。『気』とか『妖力』って奴ね。んで、✕4が術式と呼ばれる部分で8が術の効果。ここで術式の逆、つまり÷4をする事によって元のエネルギーに戻すことができる。これが解術式(かいじゅつしき)って奴」


「これ、アタシも聞かなきゃダメなの?」


 術師ではないエリスが唐突に質問する。


 現在空亡の相手は、蒼水、バエル、バックベアード、麟太郎の4人がしている。


「知ってたなら聞かなくていいよ。でも知らなかったなら聞いておいて。アイツ(空亡)を攻略するのに必要な知識だから」


 言われてため息をつくエリス。


「ぶっちゃけ、アイツ(空亡)の術の効きが悪いのは、この解術式が大量に仕込まれているからなんだ」


「ちょっと意味がわからないんだけど……」


 術に(うと)い羽月がわかりやすく首をかしげる。


「ありとあらゆる術式の解術式を仕込んでいるから術の効果が薄いって事よ。まぁ、ピンとこないでしょうね。私もそうなんだから」


 そんな羽月にダンタリオンが説明する。


「たしかに普通じゃ考えつかない事だよ。この世に存在する術式のそのほとんどに個別の対策を(おこな)ったって事だからね」


「それで、そこからどう攻略するつもりなの?」


「その流刃って人がどれほど時間をかけても、この世に存在する術式全てを対策するのは不可能だと、アタシは思ってる。必ず抜け穴はあるはずなんだ」


「だから、具体的にどうするのよ」


「空亡を改造した人が知らないような術。マイナーな物や新しい術。逆にものすごく古い術とかなら対策されていない可能性があると思うんだ」


「それでダンタリオンってわけね」


 羽月の質問に応える紗由理。


 それに納得するフォカロル。


「たぶん、使える術式の数では彼女が圧倒的に多いからね。それに同じ流派の術って術式がどうしても()てくるんだ。別の術の解術式の影響を受けたりもする。そういう意味でも流派とか関係ない彼女が1番相性がいいと言えるんだ」


「でもそれで、アイツを倒せるの?」


「無理でしょ」


 羽月の質問に即答する紗由理。


「じゃあ、この時間は何だったのよぉ!」


 紗由理にヘッドロックをかけながらわめき散らすエリス。


「だからぁ、そうやって効果のありそうな術式見つけて、そこを攻めるんだってば……」


 そう言い残して紗由理は力つきる。




 その頃、南東の石板の上書きに向かった桜達は、ストーンゴーレムと交戦していた。


「これってあの石板が変化したやつなんだよね?」


「ヒト型になって襲ってきたって言ってたから、そういう事なんでしょうけど……」


「最初からストーンゴーレムった()やぁいいのに」


 直、春香、桜は各々感想を言いながらも、とある嫌な考えが浮かんでいた。


「もしかしたら石板ごとに、仕掛けられている罠が違うのかも」


 その嫌な考えを深完がストレートに言う。


 


「1体って言ってたわよね」


「ああ、言ってたな」


 元蔵と風香の前には槍を持った影と翼の生えた影が立ちはだかっていた。


「アンタそっくりね」


「お前の方がそっくりだろ」


 互いにそっくりと言い合う2人に、2体の影が襲いかかる。




「なんだ?! さっき戦った奴と全然違うぞ?!」


「さっきのはいかにも影って感じでしたけど、これは黒い鎧騎士った感じですね」


「なんにしろ作戦は始まっちまったんだ。やるぞ!」


 ボーイッシュな栄子こと、ミキの号令でケルベロスと純華も戦闘に入る。




「くっ、まさか封印式とは……」


 由利歌の向かった石板は、ヒト型になったりしない代わりに、近づいた者を封印するという機能の持ち主だった。


「この封印式、私がここに来る前から準備されていた。まさかあの石板はつながっていて、情報を更新しているとでも言うの?! とにかく、なんとか脱出しなくちゃ……?!」


 しかし次の瞬間、閃光が由利歌を包み込むと、封印式は消滅し由利歌と無力化した石板がそこにあった。


「大丈夫か? 大ばば様」


葬魔(ソウマ)?! 来てくれたのね!」


 そこにはかつて、虚空に所属していた雨上 葬魔(ウガミ ソウマ)と火頭魔がいた。

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