第47話 ダリウス視点2
「ぐっ……がはっつ!」
エンシェント・ドラゴンと同化していたトーヤは吐血し、態勢を崩す。
追撃をクリスティとギルバートが行おうとするが、エンシェント・ドラゴンが消滅したことで、爆発的なエネルギーが衝撃波となって襲い来る。その凄まじい衝撃波に、見張り台に居た者たちは持ちこたえようと足掻いた。しかし、カイルがとっさに障壁を厚くしたが、数秒と持たないだろう。
(周囲を巻き込んで道連れを選んだのか)
全滅。
このまま俺が何もしなければの話だが。
「疾っ!」
俺は刀を一振り凪いだ。
刹那、それは凄まじい衝撃波となって城砦に向かう衝撃を相殺する。
「次はトーヤ、お前だ」
「ぐっ……。その力は、結月の──」
トーヤが反応する前に、俺は背後から蹴り飛ばした。
「があっ!」
男はそのまま降魔ノ森へと吹き飛ばされ、木々が何本か倒れていくのが見えた。
俺はカイルへと視線を向けた。
「カイル!」
「閣下、回復されたのですね!」
「ああ。すぐに終わらせてくる。城砦の事は任せた」
「はい!」
ギルバートたちにも声をかけようと思ったが、今はあの男を葬る方が先だ。本当はユヅキを城砦に置いていくべきだろう。けれどあの男の狙いがユヅキなのならば、傍に置いておいた方がいい。何より彼女は俺の代わりに傷を引き受けたのだ。回復するにも俺が傍に居た方が治りは早いだろう。
「ユヅキ、もう少しだけ待っていてくれ」
「ん……」
意識を失っていても、俺の服を掴んだ彼女の仕草が愛らしくて頬を擦り寄せる。傷は俺が傍に居ることで、回復に向かっている。人間に近くなったとしても、龍神族の生態はそう簡単には変わらないようで少しだけ安心した。
***
降魔ノ森──。
鬱蒼と生い茂る森の中、白銀の月が周囲を照らすものの、やはり昼間よりはだいぶ薄暗い。とはいえ、夜は魔物が活発に動ける。有象無象に魔物が集まってきた。
「結月を返せ!」
奇襲。一瞬にして俺の間合いに入ったトーヤは、ユヅキへと手を伸ばす。やはり彼女を連れてきてよかった。置いてきていたら、彼女を奪われたかもしれない。
俺は片腕で刃を振り下ろす。
「ぐああああああああ!」
片腕を斬り落とす。
彼女に血が飛ばないように、気を付けながら。トーヤは地べたに転げ落ちた。グリフォンやゴーレムなどの魔物も襲ってくるが、軽く剣を振りかざした瞬間、周囲の木々ごと吹き飛ばす。
周囲に土煙が舞う。
これでだいぶ見晴らしがよくなった。木々も魔物もすべて蹴散らし、周囲を更地に変えたのだから。
今、用があるのはトーヤだけ。こいつだけは見逃すことは出来ない。
「なぜ、こうなった。お前もユヅキと同じ龍神族ならば──もっと違う道があったのではないか?」
「ハッ、何も知らない癖にその口で龍神族を語るな。これは復讐だ! 陽善と結月は良い奴なのに損ばかりする。そいつらが侮辱されるのも、貶められるのも絶対に許さない。陽善の時は間に合わなかった。すでにある王国に龍神族が王位を継ぐことで、継承問題で国は荒れた。なら最初から龍神族が王であったなら──。だから一から国を作った、世界の理に干渉した! 結月を──」
男は歯を食いしばる。
今までの敬語が消えたのはこれが男の素で、本音なのだろう。だがユヅキの名を口に出した瞬間、目の色が変わった。そこには強い意志が──ユヅキとよく似た目をしていた。気高くて、真っすぐな強い意志を持った瞳。
「結月を幸せにしたかった」
消え入りそうな、それでもこの男の本音であり、根本にある強い意志。
「…………」
「結月は超がつくほどのお人好しで、情に厚い。龍神族で誰よりも強い癖に、涙もろいし、抜けているし、甘い。だから、僕が陽善の代わりに──守りたかった」
「守ろうとした? 「傷つけた」の間違いじゃないのか。自分を選ぶようにユヅキを追い詰めて、それのどこが守ることに繋がるんだ!?」
トーヤは微苦笑した。その顔を見て、もしかしたらこの男は恋愛に関しては俺以上に不器用なのかもしれない。大切にしたいと思いながら、彼女にとって最善を躊躇いなく出来るとしたら──。
「ハッ。ならばお前はあの子の見てきたモノを見せてやろう。それでもまだあの子の隣に入れると言えるか──試させてもらおう!」
「!?」
トーヤの濁った宝玉が煌めき、真っ白な光に包まれ意識が引き込まれてしまう。
***
それはトーヤの記憶だろうか。
セピア色の映像が流れ込んでくる。
白銀色の長い髪の青年と、その後ろをくっついて歩く少女の姿見えてきた。年齢は十二歳前後だろうか。その少女がユヅキだと俺はすぐに気づく。ならば、その傍に居るのは彼女の兄だろうか。酸漿色の双眸、白銀の髪は父親譲りのようだが、随分な優男だった。
常にニコニコと笑っている。
「刀夜。結月のことを頼む。オレはもうすぐ彼女と結婚するからな」
「はいはい。陽善も王女様と幸せに。結月は僕が君の分まで守るから安心しなって」
「陽兄、結婚おめでとう。あのね! 母様と一緒にお守りを作ったの」
二人の間にユヅキは割って入った。ヨウゼンは膝を着いて、少女と同じ目線になる。妹を愛おしそうに抱きしめると、大事にお守りを受け取った。
「ありがとう、結月。これからはオレが世界を変えていく。龍神族と人間が共に暮らす国を作って見せるさ。そうすれば父様も安心するだろう」
「うん。父様、陽兄なら大丈夫だって、泣いてた」
「相変わらず泣き虫だな、父様は」
「ねー」
あんなに自然に、そして朗らかに笑う子だったのだ。
「あの破壊神様は本当に涙もろいようだね。まあ、僕も陽善には期待しているんだから、頑張ってね」
「ああ」
それは眩しいほどの優しい記憶。この男が大事に思っていた記憶だろう。映像はそこで途切れ──場面が切り替わる。





