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第30話 開花する恋心

 ダリウスは私の首筋に唇を付けた。次の瞬間、チクリと痛みが走る。次いでその首筋に彼の魔力が圧縮していく。魔力によって編まれた紋様が色濃く、広がっていくのを感じられた。とても温かい。


「この「求婚印」は、相手を想う心がそのまま花の形となって現れる。俺の想いは蓮の花か……」


 蓮の花言葉。

 それは古今東西、時代によっても異なるだろう。良い意味では「清らかな心」「神聖」「雄弁」「救済」「休息」、マイナスな言葉は「離れゆく愛」だ。蓮の花は咲いている期間がとても短い。それ故につけられた。

 私の心を読み取ったのか、ダリウスは両手で私の頬に触れた。感じるぬくもりは、温かくて心地よい。


「皇国イルテアで、蓮の花言葉は「神聖」と「永久の愛」だ」

「!?」

「たとえ花咲く期間が僅かだったとしても、来年もまた花が咲くのを一緒に見よう。何年後もずっと、傍に居よう──という想いが込められている」

「…………ダリウス」

「ユヅキ、愛して──むぐっ」


 咄嗟にダリウスの口を両手で塞ぐ。


「これ以上は、し、心臓が保たないから、ダメ」


 今の私は恥ずかしいことに、心臓の音が煩くて体が熱い。

 暑いのとは違う。

 こんなの──知らない。

 胸の──奥が熱くて堪らないのだ。思考もさっきから、まったくまとまらない。ダリウスが近くにいるだけで、一喜一憂する自分がいる。触れると熱がいっそう増して、心臓が煩く騒ぎ立てる。

「求婚印」を得て、ダリウスが本気なのだと、本当に私の事を想っていたと認めるしかなかった。演技や利益のためだけで、この印は結べない。「刻龍印」の一つ前の印、異性に求婚する──つまりは、本気で愛しているという証拠なのだから。


(ふぁあああああああああああ! 待って待って。落ち着いて私。さっきから頭が回らないのだけれど! こんなふうになるものなの? あ、もしかして病気!?)


「求婚印」による体の変化かもしれない──などと、自分の今の状況を客観視できない理由をこじつける。そうやって理由を押しつけて、訳のわかなない感情を整理しようとした。


「ユヅキ? さっきから顔が赤いぞ。大丈夫か?」

「心臓に一、二箇所穴が空いて、熱くて痛いなのだけれど、これって病気よね? 全世界の人がこんな気持ちになるものなの!?」

「いや。穴が空いていたら、それ死んでいるだろう。……まったく、やっと自覚させたと思ったらこれか」


 喉を鳴らして笑うダリウスを見ていると、ドキドキと胸が高鳴る。本当にどうしてしまったのだろう。これも「求婚印」の影響だろうか。


(あわわわわ。……だめ、ダリウスを直視できない! ダリウスってこんなにカッコよかったの?)

「言っておくが「求婚印」はあくまでも、意中の相手に好意を形にしたもので、心臓に影響力はないからな」

「う、うるさい」


 私が逆ギレしても、ダリウスは上機嫌だ。ふと最初にあった頃よりも、笑顔が増えていたことに遅まきながらも気づく。その笑顔が──だ。


(──違う、違う。結論を出すのは早いわ。うん。世の中の恋人や夫婦って、どうなっているのよ。心臓に毛でも生えているのかしら)

「──って、聞いているのか? ユヅキ」

「ひゃい!?」


 私は世の中の恋人、夫婦に賞賛の念を送った。友人や家族の好きとは全く異なる感情に、許容範囲を軽くオーバーした。


「……つ、疲れたから今日は寝る」


 やっとのことで絞り出した声に対して、ダリウスは身を翻した私を後ろから抱きしめた。ちょっとした触れ合いも、耳元で聞こえる声も、肌のぬくもりも──嫌じゃない。


(今までの私、なんで平気だったのぉおおおおおお……! ダメ、恥ずかしくて死んじゃう……!)

「食事は取らなくていいのか?」

(声が近い。優しい気遣いが嬉しい──じゃなくて! ……というか恥ずかしくて無理! ……と、とにかく一度頭を冷やして……)

「ユヅキ?」

「……し、食事の気分じゃないわ。これはホントのやつ」

「本当のやつってなんだよ。……もしかして、求婚印の影響か?」

「ほ、本当に大丈夫。考え事したい……だけ」

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