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第27話 隠し切れない想いは膨らむ


(可能性はある。下界に降りる際に刀夜は、この国を「皇国イルテア」と言っていた。……先遣隊の報告による情報かもしれないけれど、天界で殆どの者が眠っていたが、刀夜は眠っていなかった。父の補佐もしていたのだから、天界から時折下界に向かう事は出来るだろう)


 陽兄と、刀夜と私の約束した未来。

 それは「龍神族も人間も変わらなく同じ国で生活して暮らす」──そんな夢物語のような、奇跡と思えるような夢を私たちは願い、叶えようと邁進した。

 陽兄は王女と結婚し、その国を理想郷にしようとして──失敗。結果、邪龍となって国一つを壊滅して滅んだ。

 もっとも最悪の結果となって終わったのは、つがいであり伴侶の彼女が逃げたからに他ならない。彼女は愛する夫を見殺しにして自分だけ逃げたのだ。


 人間は醜い。

 平気で裏切る。情など一時的なもので、損得勘定で動くような者たちしかいない。当時はそう思っていた。そんな人間しかいなかったのだ。

 それを数百年単位で刀夜は変えていったのだろうか。


(圧倒的な力で滅ぼすのではなく、時間をかけて龍神族との溝を埋めて──畏敬を崇高なる者へとすり替えたのだとしたら? すでに私が何か出来るという次元じゃないとしたら……私はどう動くのが正しいの?)


 もちろん、武力行使による反乱ならば多少役には立つだろう。だが現状、魔物の襲撃以外に脅威らしいものはない。刀夜を見つけたとしても同族殺しを言及する以外に何が出来るだろうか。悶々と悩み続けても答えは出なかった。


 頭を冷やそうとようやくそこで私は考えを切り替えて、シャワー室へと向かった。魔導具で造られたシャワー室は、お湯も出るのでかなり便利だった。千年前であれば、水をくみ上げて湯を沸かすから始まるというのに。

 白い湯気を上げつつ、肌に心地よい温度のお湯は私の体を洗い流す。ぐちゃぐちゃになりかけた感情も少しだけ冷静に、客観的になれた気がした。


(まだまだ情報が足りないもの。やっぱり少し休んだら降魔ノ森のことを調べてみた方が──)


 ふと、そこで思った。

 なぜダリウスは龍神族についてあまり話さなかったのか。そう考えたところで、私は彼が皇族であり、前帝だったということを思い出す。

 彼は知っているのだ。

 かつての王族や皇族たちが龍神族たちをどのように扱っていたのか。だから、彼自身自分の身分を名乗る事を渋った。

 私に敵意を持たれないために。

 それとも私を騙して、貶めようと──。


(ダリウスはそんな人じゃない!)


 前帝として戦場に居たダリウスを思い出し、私は頭を振った。見惚れていた──とは言いすぎかもしれないが、鎧を身に纏い戦場を闊歩する姿こそ彼の本来の姿なのだろう。心が躍らなかった──といえば嘘になる。けれども前帝としての彼は、普段の姿とは異なり別人のようにも思えた。

 近いようで遠い。

 戦闘こそ役に立ったと自負しているが、その後の兵の配置や指示出しなどにおいて私はお荷物というほど役に立たなかった。こんな時、軍師としての知識があった刀夜や、周囲への気配りの上手かった陽兄、温かな笑顔と美味しい食事を用意してくれた母様、存在するだけで心強さとカリスマ性を発揮した父様。改めて私は戦う以外に人並み以上に出来るものがない。

 これではお飾りじゃないか。とてもではないがダリウスの隣には──。

 そこまで考えて私は再び頭を振った。寸前で叫びそうにもなった。


(気づけばダリウスの事ばかり考えて! それじゃあ、まるで私がダリウスの事が好きで、好きで、気になってしょうがないみたいじゃない!?)


 もはや隠し切れないほど、ダリウスへの気持ちが育っていた。けれど私はそれを認めたくなくて、自分の気持ちを閉じ込める。

 吊り橋効果というものがある。今日の彼の姿を見て、美化されて──好きという気持ちだと勘違いしたのかもしれない。

 誤魔化して、濁して、目を逸らす。

 私は怖がりだ。

 本当は誰よりも弱くて、人を信じるのが怖い。

 大きくため息を一つ吐くと、私はシャワー室から出た。


 白のガウンに袖を通して、寝室へと直行する。今日は色々とありすぎた。久々の稽古もあったのだ、気疲れもあったのかもしれない。寝室も魔導具によって物が転移したのだろう。

 ふかふかのベッドに体を沈める。白いシーツからは、ほんの少しだけラベンダーの香りが鼻腔をくすぐった。横になった途端、急に疲れが出たのか、睡魔が襲う。


(少し休んだら、森を散策しなきゃ……)


 近くにある毛布を手探りで探し、自分にかけたところで意識は途切れた。



 ***



「ずっと、この時を待っていたよ。やっぱり追いかけてきてしまったんだね────結月」


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