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第19話 過去と向き合う

 城砦に現れた魔物──グリフォン襲撃から早くも一か月が経とうとしていた。私の作った魔導具によって、ダリウスは常時発動している魔力の放出を抑えることが可能になった。それによって今まで抱えていた会議やら書類作業を、城砦の中央にある執務室で行うことが出来るようにもなったそうだ。


 私はダリウスが政務に励んでいる間、寝室で大人しくしている訳もなく、城砦の散策を行うのが日課になっていた。

 城砦の中央二階。その部屋は目を疑うほどの本棚が並んでいた。書庫というよりは図書館の雰囲気が近いだろうか。


(ジャンルは歴史書から小説までたくさんあるのね。ダリウスからこの国(イルテア)の事は聞いたけれど、本から得られる知識もあるかもしれないわね)


 片っ端から歴史書を開いて調べてみた。もしかしたらダリウスが何か隠しているかもしれない。地上に残った龍神族は本当に一握りだ。その彼らが国を興し、王族として君臨するだろうか。

 ペラペラとページを捲る。

 だいたいどの本も書かれている最初は似通っているようだ。


 七百八十三年前の世界は絶望と魔物の脅威に襲われていた。それを救ったのが龍神族の長リュー=レン。のちにレン=フォン・カーライルと改名した初代皇帝だという。


(リュー=レン……。やっぱり覚えがない。純粋な龍神族じゃないのかも?)


 龍神族の持つ高度な技術は秘匿され続けたが、国境付近の魔法結界や食糧不足や生活水準の向上などに尽力した。それもあって人々は龍神族を神の御使いであると同時に、為政者として認めていく。

 年に何度も目撃される魔物の出現。そして国境周辺に群がる魔物を抑えはするが、脅威は残したままという記述も記録が残っていた。


(建国して七百年の間、内乱もあったようだけれど、ダリウスが言っていた十年前のような魔物の侵攻は数百年単位でも見られる。となれば十年前に刀夜が関わっていると考えるのは、早計だったかもしれない)


 パタン、と分厚い歴史書を閉じる。元あった本棚に返そうと思った時、ふとあるタイトルが目に入った。

『西の果てヴァルハラ国の悲劇』

 まるで私が読むのを待っていたかのように、その本はひっそりとあった。緋色の背表紙、重厚な重さなのは本の表紙が凝っている。厚紙を使ったもので、紙そのものも丁寧に作りこまれていた。


(ヴァルハラ……兄様が王として地上に残り、そして死んだ場所)


 指先が震えながらも、私はページを捲った。

 歴史書というよりは伝承に近い内容のようだ。皇国イルテアが建国する以前の物語。

 高度な魔法文化を持った王国──西のヴァルハラ。そこで金髪の王女と、龍神族の青年が結ばれた。彼は白銀の髪に、心優しい人物だった。

 国王となった龍神族の男は、豊かにするため魔法技術をさらに発展させていき、国は豊かになる。しかし時は流れ、「龍神族の子どもたちのいずれか」が次の王となる事を人間たちは認めず内乱が起こる。

 女王の親族たちが反旗を翻し、王位継承による骨肉の争いと発展。


(王位継承? ……龍神族の子どもたちって、兄様の子どもは一人だったはず。それとも最後に会ったのが五年前だから、兄弟がいたとしても間違いじゃないけれど……)


 次々に争い合う親族たちを見て、王となった龍神族の男は悲しみを断ち切らんと立ち上がった。しかし人知を超えた力を恐れた人間たちは、彼の息子である王子を──殺した。憎しみと怒りに身を焦がした王は──。


 そこで私はページを閉じた。

 その後の事は誰よりも知っている。そしてその終幕も。

 血と硝煙。悲痛の怒号。

 紅蓮の炎とむせ返るオレンジ色の夕日。間に合わなかった──。もうずっと昔の事だというのに、涙は枯れやしない。

 思い出すたびに、涙が零れ落ちる。


(兄様……)

「皇太后様?」

「!?」


 ふと声を掛けられ、私は慌てて涙を拭って振り返った。そこに居たのは二十代前後の侍女だった。こげ茶色の三つ編み、幼さが残った顔立ちは、困惑した顔で私を見ている。


お読みいただきありがとうございます。゜(゜ノД`゜)゜。




下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

執筆の励みになります٩(ˊᗜˋ*)و

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