第20話 ティータイムといったら恋バナ
「……ちょっと眠くてあくびをしていたの」
「そうでしたか! ずっと読書をされていので疲れたのかもしれません。何かお持ちしましょうか?」
「ええ、お願いするわ」
「かしこまりました」
踵を返して、部屋を去ろうとする彼女を引き留めようと声をかける。
「ああ、それと」
「はい!」
「私一人でお茶を頂くのは申し訳ないから、手の空いている侍女たちも呼んでくれる?」
「え? あの、えっと……それはもしかして」
「貴女たちがよければ、私とお茶の相手をしてくれない?」
私の言葉に、目を輝かせた侍女は「かしこまりました!」と深々と挨拶をして消えてしまった。彼女の言動に小首を傾げた。
ダリウスが龍神族の末裔である以上、多少友好的だったらいいと思っていたが──予想以上の好感度ではないだろうか。
(私が知る限りであんな普通に、笑顔を向ける人間なんていなかった。みんな何処か打算と恐れがあった。顔には出さなくても、そう思っている人が殆どだったもの……)
だからいい機会だ。
侍女たちがどのように反応するか、私の立ち位置が「皇太后」だったとしても、人間は簡単に表情を隠すことは難しい。言葉の端々、所作によってボロが出る。そう思っていたのだが──。
「皇太后様! その侍女たちが書庫に入りきらないので、サロンを使用してもいいでしょうか?」
「え、ええ……。構わないけれど?」
「ありがとうございます! 十分、いえ五分で用意します!」
確かにお茶が飲みたいとは言った。
手の空いている侍女が居るなら呼んでもいいとも。それが──どうして、サロンでのお茶会になったのだろう。
しかも私は白のシュミーズドレスに着替えさせられ、髪も綺麗に編み込んで、これから夜会にでも行くかのような装いにさせられたのは、私の注文に問題があったからだろうか。
(どうしてこうなったの!?)
「皇太后様は、どんなスイーツがお好きなのですか?」
「それよりも閣下のどこに惚れたのですか?」
「閣下とはいつもどんなお話を?」
「閣下は不愛想ですけれど、皇太后様のことを本当に想っているんです」
私が答える暇も与えず、彼女たちは嬉々として話しかけてくる。改めて侍女たちを見回すが、どうにも貴族や良いところの出とは思えないほど自由すぎる。なによりよく考えれば、侍女と皇太后が同じテーブルを囲むなど発想に至ること自体が可笑しい。それともこの時代は、格式や身分などはあまり関係のだろうか。
「皇太后様、閣下──どちらが先に好きになったのですか?」
(ブフッ)
思わず紅茶を吹き出しそうになった。今も昔も女子はこう言った話が好きなようだ。私にとって恋が最も遠い場所にあったというに──。しかし、この問いは慎重に答えなければならない。なにせダリウスの名誉が掛かっているのだから。
「ダリウスとは互いに一目惚れ──に近いかしら」
「キャアー」と黄色い声が上がった。何故、彼女たちのテンションが上がるのか。自分ではない他者の色恋沙汰だと言うのに。
「あの閣下が一目惚れなんて……!」
(あのって……。一体普段からどう思われていたのかしら? いやでも体質があるものね)
「ようやく運命の方に出逢われたのですね。ああ、私ったら涙が……」
(なんで涙? しかも嬉しそうなの?)
「グリフォンでの一件で、閣下の焦った顔なんて初めて見ましたわ。その上、皇太后様を抱き上げてキスだなんて!」
(それは忘れて!)
「ダリウスは、皇太后役である私が居なくなったと思って慌てただけだ」──などとは言えず、適当に笑って誤魔化した。
「閣下の溺愛ぶりは愕きましたが、皇太后様を見ていれば惹かれるのもわかります」
「そ、そう?」
「はい! 私たちのような者にもお優しいですもの」
「ヤサシイ?」
「皇太后様、何故カタコトに?」
「私にとっては縁遠い言葉だったから、つい」
龍神族の私にそんな事を言う人たちは、居なかった。いても一時だけ。利用価値があるうち──。そう考えて自分の感情が沈んでいたことに気づき、明るく振る舞おうと皆に微笑んだ。
「……ほら、お茶が冷めてしまうでしょう。頂きましょう」
「はい!」
彼女たちの淹れたお茶や焼き菓子は文句なく美味しい。特にマフィンの出来栄えに舌鼓を打つ。そろそろ本題に入ろうと口を開きかけた瞬間、第三者によって私の言葉は遮られる。
「お前たち、何をして──皇太后様!?」
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