第18話 ダリウス視点 後編
こいつは根っからの龍神族に崇敬しているところがある。カイル自身は見た目こそ龍神族に近いが、その実──魔法量や身体能力に至っても人間とさほど変わらないのだ。だからこそ、こいつは本物に憧れる。龍神族の持つ魔法の数々をその目で見たいとも思っているだろうし、手合わせ出来たらと考えているだろう。武人として分からなくもないが──万が一にもユヅキがカイルに惚れられたら、という嫉妬心が芽生える。
心が狭いと言われても、構わない。
この際、龍神族の伝承にある求婚印を付けてしまおうか──と気持ちが先走ってしまう。求婚印は自分が惚れているというのを相手、周囲にアピールするのはもちろん、正式に婚姻を申し込むのと同義だ。だが、もう少し、ユヅキの気持ちが自分に傾いてから──。いや自分の身分を明らかにしてからだろうか。
そんなことを考えつつ朝を迎えると、ユヅキが傍に居るだけで安心する。普段明るく振舞っているが、夜寝ていると泣声が聞こえることがままあった。
誰も知らない土地に降りたことや、同胞の目的を挫くためどこか焦っているのかもしれない。傷の回復が人間より早いだろうが、それでも傷を癒さなければ、戦うことも出来ないと彼女はわかっているのだ。それが歯がゆいのだろう。
俺に出来るのは涙を拭って、抱き寄せることだけだ。
腕枕をしてソッと抱きしめると、少しだけ身を縮こませて身を任せてくれる。温もりを求めて擦り寄る姿は愛らしくてしょうがない。
「愛している」
「ん……」
俺を弱いと思っているのか、それとも迷惑をかけたくないと遠慮しているのか、理由は分からないが、ユヅキは俺を頼ろうとしない。
彼女が望めば、なんだって叶えてやろうと思うのに。
(俺が前帝だと話せば──頼ってくれるだろうか。それだけの力と情報網はある。……体の傷も癒えてきているのなら、明日にでも話しておくのも悪くない。前帝だと知られて距離を置かれることを怖がっていても、いずれバレるのだからな)
そう決意した翌日。
目を覚ました時、彼女はベッドにいなかった。
たったそれだけの事だというのに、血の気が引くのを感じた。
「──ッ、ユヅキ!?」
絞り出した声は自分でも驚くほど、かすれていた。
目の前から愛しい女が消える。
ようやく埋まりかけていた空洞が一瞬で砕けて、より大きな穴が開いていく。
「ユヅキ!?」
馬鹿みたいに彼女の名を呼ぶが返事はない。
いなくなった。昨日まで──そこに居たというのに。
(ユヅキが約束を破った? いや、そんな真似をするような女じゃない。なら、誰かに──?)
俺は後悔し、慌てて身支度を整えていると──唐突に魔物の気配が出現する。最悪な時ほど物事は重なるものだ。
(よりによってこんな時に!)
そう思った刹那、膨れ上がる魔力と雷鳴。
おそらく第七位階魔法かそれ以上の魔法攻撃。それも詠唱時間の短さからいって──その使い手が居るとしたら一人だけだ。
急ぎ塔の屋上めがけて駆け上がる。
「ユヅキ!!」
展望台に辿り着くと、淡藤色の長い髪と白のワンピースが風で揺らいだ。未だ痛々しい包帯をしたままの彼女の姿を見て、慌てて駆け寄る。
すぐさま抱き上げると、彼女は頬を赤らめて小さな抵抗をした。恥ずかしいだけで、本当に嫌がっていないのを見て心から安堵する。
「目が覚めて、お前がベッドにいないとわかった時は悪夢かと思ったぞ」
本当に心臓が止まったほどに──。そういったところで、ユヅキは信じてくれなさそうだが。
「散歩がしたかっただけよ」
そう呟き、大人しく抱きしめられる彼女を見るたびに、少しだけ過信してしまう。心を許してくれただろうか──と。
半面、俺が前帝だと告げる前に知られてしまったのはバツが悪かったが、ユヅキの反応は以前と変わらなかったことにホッとした。
今回の襲撃は突発的なものだったが、魔物の襲来は増えるかもしれない。
俺の戦いは周囲を畏怖させる。この強さにユヅキの表情が変わるかもしれないと思うと、怖い。
戦闘狂の前帝が──たった一人の女にこうも振り回されるとは、思いもよらなかった。
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