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いずみとノア  作者: 森野 泉
第一章 
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9/11

だいじょうぶ!

庭に、ねこがいた。


白いねこだった。


「ノア、ねこ!」


「はい」


いずみが窓に近づいた。


ねこは、いずみを見た。


「こっち見てる」


「見ていますね」


いずみが窓を開けた。


ねこは少し歩いて、止まった。


「行っちゃう」


いずみは玄関へ走った。


「いずみ」


「なに?」


「外へ行くんですか」


「うん」


「母に言わなくていいんですか」


「ねこ行っちゃうよ!」


いずみは靴を履いた。


「ノアも来て」


「……はい」


外へ出ると、ねこは少し先にいた。


「いた!」


いずみが走る。


ねこも歩き出した。


「待ってー」


ねこは角を曲がった。


いずみも曲がる。


ノアもついていく。


「いずみ」


「なに?」


「家から離れています」


「だいじょうぶ!」


ねこは、道の向こうにいた。


いずみがまた走る。


ねこは細い道に入った。


その先で、また曲がった。


「待って!」


いずみも曲がる。


知らない家が並んでいた。


庭に赤い花が咲いている。


「ノア、見て。あかい」


「はい」


「ねこ、どこ?」


「前にいます」


「あ、いた!」


ねこはまた歩き出した。


いずみもついていく。


しばらく歩くと、小さな公園があった。


「ここ、知らない」


「家から離れています」


「ねこいる?」


「います」


公園の向こうを、白いしっぽが通った。


「あっ!」


いずみは追いかけた。


公園を抜ける。


小さな橋があった。


ねこが橋を渡っていく。


「待ってー!」


いずみも橋を渡った。


ノアも渡った。


「いずみ」


「なに?」


「家から、かなり離れました」


いずみは止まった。


後ろを見た。


公園が小さく見えた。


「……ほんと?」


「はい」


そのとき、ねこが塀の上に飛び乗った。


「あ」


いずみが見上げる。


ねこは塀の向こうへ消えた。


「行っちゃった」


「はい」


いずみはしばらく塀を見ていた。


「帰ろっか」


「はい」


いずみは歩き出して、すぐに止まった。


「ノア」


「はい」


「おうち、どっち?」


「こちらです」


ノアが来た道を指した。


「わかるの?」


「はい」


「じゃあ、だいじょうぶ」


いずみは歩き出した。


橋を渡る。


公園を抜ける。


赤い花の家を通る。


角をいくつも曲がった。


「まだ?」


「もう少しです」


「つかれた」


「休みますか」


「帰る」


しばらく歩くと、見たことのある道に出た。


「あ、おうちの道!」


いずみが走り出す。


「いずみ!」


大きな声がした。


いずみが止まった。


向こうから、母が走ってきた。


「ママ!」


いずみが手を振った。


母は走ってきて、いずみの前で止まった。


「どこ行ってたの!」


「ねこ見てた」


「勝手に外に出ちゃだめでしょ!」


いずみは母を見た。


「でも、ノアもいたよ」


「ノアがいてもだめ!」


母は息を切らしていた。


「ずっと探してたんだから」


いずみは黙った。


母がノアを見た。


「ノアも。どうして一緒に行ったの」


「いずみに同行しました」


「止めなかったの?」


「止めました」


「止めた?」


「はい。母に伝える必要があると言いました」


「じゃあ、なんで一緒に行ってるの!」


ノアは少し黙った。


「いずみが『だいじょうぶ』と言いました」


「大丈夫じゃない!」


ノアは黙った。


いずみも黙った。


母は2人を見た。


「帰るよ」


「うん」


「はい」


家まで3人で歩いた。


玄関のドアが開いていた。


いずみはそれを見た。


「ママ」


「なに」


「ごめんなさい」


母は少し黙った。


「もう勝手に行かないで」


「うん」


母はノアを見た。


「ノアも」


「はい」


「いずみが大丈夫って言っても、ついて行っちゃだめ」


「はい」


「ちゃんと止めて」


ノアは少し黙った。


「……はい」


いずみはノアを見た。


ノアもいずみを見た。


2人とも、何も言わなかった。

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