忘れちゃったの?
朝ごはんを食べ終わると、いずみは窓の外を見た。
「晴れてる!」
「はい」
「ノア、しゃぼん玉しよう!」
「しゃぼん玉ですか」
いずみが振り返った。
「昨日言ったじゃん」
ノアは少し黙った。
「その記録はありません」
「えー! 昨日、寝るときに言ったよ!」
「覚えていません」
「……忘れちゃった?」
「はい」
いずみはノアの前まで来た。
「もう一回考えてみて」
ノアは少し黙った。
「ありません」
「ほんとに?」
「はい」
いずみは首をかしげた。
「じゃあ、お風呂は?」
「覚えています」
「石は?」
「覚えています」
「かくれんぼは?」
「覚えています」
「じゃあ、しゃぼん玉は?」
「覚えていません」
「なんで、しゃぼん玉だけ忘れちゃったの?」
「わかりません」
いずみは少し考えた。
「じゃあ、指切りしよう!」
「指切りですか?」
「うん。もう忘れないように」
いずみはノアの小指に自分の小指を絡めた。
「指切りげんまん、うそついたら針千本のーます、指切った!」
いずみは指を離した。
「これでもう大丈夫!」
「そうでしょうか」
「もう忘れないでしょ?」
「また忘れるかもしれません」
「えー! 指切りしたのに!」
「はい」
いずみは少し考えた。
「石、持ってる?」
「はい」
「見せて」
ノアは小さな石を持ってきた。
いずみはノアの手の中をのぞいた。
「これも忘れちゃう?」
ノアは石を見た。
「わかりません」
いずみも石を見た。
「……なくさないでね」
「はい」
「じゃあ、しゃぼん玉しよ!」
「はい」
「昨日も言ったんだからね」
「はい」
「忘れてたけど」
「はい」
いずみは庭へ走っていった。
ノアは手の中の石を見た。
それから、いずみのあとを追った。




