もう一回
朝から雨が降っていた。
いずみは窓の前に立って、外を見ていた。
「雨だね」
「はい」
「いっぱい降ってる」
「はい」
いずみは窓に顔を近づけた。
「何をしていますか」
「雨、見てるの」
「さっきから見ています」
「うん」
「変化はありません」
「あるよ」
いずみは窓の向こうを指さした。
「ほら、あそこ。水たまり大きくなった」
ノアも外を見た。
「大きくなっています」
「でしょ」
いずみは窓に鼻がつきそうなくらい、顔を近づけた。
「はーっ」
ガラスが白く曇った。
「あ」
いずみは指を伸ばした。
丸を描いた。
目を2つ。
口をひとつ。
頭から何本か線を出した。
「できた」
「何ですか」
「ノア」
ノアは窓の絵を見た。
「私ですか」
「うん」
「私の髪は、このような形ではありません」
「いいの」
「しかし——」
「あ! 消えちゃう!」
描いた顔が、もう薄くなっていた。
「結露した水分が蒸発して——」
「ノア、しゃべってるから!」
「私のせいではありません」
いずみはもう一度、窓に息を吹きかけた。
「ノアも描いて」
「何をですか」
「いずみ」
「わかりました」
ノアは指を伸ばした。
輪郭を描いた。
髪を描いた。
目を描いて、鼻を——
「あー!」
「何ですか」
「消えてる!」
ノアが見ると、最初に描いた輪郭がもう薄くなっていた。
「……消えました」
「ノア遅い!」
「正確に描いていました」
「早く描かないと消えちゃうよ」
「わかりました」
いずみがもう一度、窓を曇らせた。
「もう一回」
ノアはさっきより速く描いた。
丸。
髪。
目。
鼻。
口。
「できました」
いずみは絵を見た。
「かわいくない」
「いずみを描きました」
「もっとかわいくして」
「実物と異なってしまいます」
「いいの!」
ノアは目を少し大きくした。
その間にも、絵は薄くなっていく。
「早く!」
ノアはまつ毛を足した。
「どうですか」
「かわいい!」
「実物とは異なります」
「いいんだってば」
いずみは笑った。
窓の外では、まだ雨が降っていた。
「もう一回」
「はい」
2人はまた、窓に顔を近づけた。




