きれいだから
母と一緒に、いずみはノアを連れて散歩に出かけた。
いずみは少し先を歩いては、振り返る。
「ノア、早くー」
「これ以上の速度での歩行は推奨されていません」
「おそいよー」
いずみは戻ってきた。
「ほら」
ノアの手をつかむ。
「走るよ!」
「走行は――」
いずみはもう走り出していた。
「いずみ、走らないで」
母の声が後ろから飛んできた。
「はーい」
「いずみ、待ってください」
少し走ったところで、いずみが急に止まった。
ノアも止まる。
「見て!」
道の端にしゃがみこんだ。
「なんですか?」
「きれい!」
いずみが小さな石を拾った。
白っぽい石の中に、きらきらしたものが混じっている。
いずみは石を太陽に向けた。
「光ってる!」
「石英が含まれている可能性があります」
「せきえい?」
「鉱物の一種です」
「ふうん」
いずみはもう一度、石を太陽に向けた。
「きれいだよ」
「はい」
「ノアも見て」
「見ています」
「こっちから」
いずみはノアの顔の前に石を持っていった。
「ほら」
ノアは石を見た。
「光を反射しています」
「きれいでしょ?」
「はい」
いずみはもう一度、石を見た。
「宝物にする」
石をポケットに入れる。
散歩の帰り道、いずみはさっきの石を取り出した。
「ノア」
「はい」
「これあげる」
ノアは石を見た。
「私にですか?」
「うん」
「宝物にすると言っていました」
「うん」
「では、なぜ私に渡すのですか?」
いずみは少し考えた。
「あげたいから」
ノアは黙った。
いずみは石を差し出したまま待っている。
「いらない?」
「その質問の意味は――」
「じゃあ、あげない」
いずみが手を引っ込めようとした。
「受け取ります」
ノアは石を受け取った。
いずみは満足そうに笑った。
「ありがとうは?」
「ありがとうございます」
「どういたしまして!」
いずみはまた歩き出した。
少し先まで行って振り返る。
「ノア、早くー」
「はい」
ノアは石を持ったまま、いずみのあとを歩いていった。




