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31 commute 2-3

後日、目を覚ますと船は止まっていた。


《みんな上がって来なさい。作戦会議よ。》


観測艇に乗り移り、管制室に入る。


私達は目標の海域から5キロほど離れた沖合にいた。

既にリーシャ達はドローンとヘリを先行させている。目的の島付近を偵察し始めていた。


「リラ、船の方は手に馴染んだ?」

「問題なし。」

「そう。ならいいわ。メリッサ、モモ。2人はこの船に残りなさい。仕事の時間よ。」

「あいあい。」「了解です。」


2人はドローンの操縦だ。デスクワークは涼しい部屋で座れて羨ましいもんだ。


全員で地図とモニターを取り囲む。

モニターにはリアルタイムで島がいくつも映っている。


「んで?最近の海賊は無人ボードに爆弾積んで来るとかって聴くけど。実際はどうなん?」

《大量に来ると思った方がいいですよ。リラ、十分に気を付けてくださいね。》

クレアの声がスピーカーから割り込んできた。

「ご心配なく。鎖国してるっつー割りには、随分文明的なもんだ。」

「陸地や海溝の一部に神聖な土地があるとかなんとかって話よ。多分そこに行くんじゃない?」

レイチェルが答えた。

「詳しいのねアンタ。」

「この間ドキュメンタリー番組で見た。」

《『耳付き』と言われる少数人種が崇めてる土地神ですね。私達はそこにダンジョンがあると踏んでます。》


東の人間は超常現象なんかをひっくるめて神とする。

宗教で信奉する『唯一神』だとかとは違う。より緻密に表現するなら『上位存在』だ。


善も悪もない。益も災厄ももたらす手の施しようがない超越的な存在を神と概念的に呼称する。


ダンジョンが発生させる魔物だとかの影響を、そういった上位存在の怒りだとかと捉えているのだろう。

「古いね。アホらし。」

シキタリだとかに縛られた連中か。呆れたもんだ。

そういう連中はしぶとくて戦うのも面倒だし、何気ない一言が琴線に触れやすい。

地雷の多い連中とは、正直一緒に過ごしたくない。


《彼らはそれよりも、更に古い人種ですよ。耳に毛が残ってる、獣人の遺伝子が残っていますから。》

「話には聞いた事あるけどね。どんな連中なん?」


《ザッ…獣と人が混ざり合ったデータから生まれ出でた原初の人間。文明発達以前の野人だった当時は魔法を使って地上を生き延びていた、我々のご先祖様の血統だよ。数万年前の話だ。》


別のモニターのスピーカーから声がする。フェクトの声はノイズとエンジン音が交じった声だ。

《大陸では複数の人種と交配が進むにつれて、魔法も耳も退化していった。毛が抜け落ち、エルフの耳となり、それもまた短くなっていく。今ではエルフさえ数少ない人種になった様だね。》

「この島国で、ずっと鎖国してたから遺伝子が色濃く残ってるわけね。」

《そうだ。ただ、遺伝的多様性の面を考えれば、この地でも普通に耳の毛が落ちていてもおかしくない人口ではある。何かあるぞ。》


「…。」


マザーは眉ひとつ動かさない。


しばらく静かになった後、フェクトが続けた。

《彼女の名誉の為に言うが、長耳が進化の遅れている人種だとか、淘汰されるべき存在ではない。》

「別にフォローしなくてもいいのだけれど…。」

マザーはボヤくが、フェクトは続ける。

《我々は潜在的に、過去の姿に立ち戻ろうとしているだけにすぎん。破損したダンジョンが、旧人類を再現しようと発達させる恣意的なモノだ。魔法は副産物にすぎん。》

「んなバカな。意図して退化してるってわけ?」

モモが冗談めかして言うが、彼は声色が低いままだ。

《…私もバカなコトを言っていると思うし、主観的な推察が多いが、根拠もある。》


歴史の年表と、過去の地図が出てきた。


日本、最北にはマンタの様な広大な島があるが、今の地形は見る影もない。

照らし合わせてみると、隕石のクレーターの半円が4つほどあって、列島を4分割している。


《2度の世界大戦、クリストフ合衆国とツァーリ連邦の、自由主義と共産主義の2大陸の核開発競争。これは私が生きていた歴史にもあったことだ…。日本と陽乃下、言葉の意味も同じだ。偶然にしては出来過ぎている。》

「歴史さえ再現されてるって言うワケ?にわかには信じられないけど。」

シスナも信じられないという口で肩を竦める。

《勿論、細やかに違いこそあるが、大筋は同じなんだ。現人類は地形が大きく変わって地政学的な最適解が変わっていながら、不自然すぎるぐらいに私が生きていた時代と似た歴史を辿ろうとしている。何よりも…》


《シトリンや私と言う、前人類の歴史を知っている異物が居て尚も、実力的には圧倒的に格下だったはずの君達に負けたことだ。》


フェクトの言葉に、アタシの中のリラが不快感を示した。アタシの喉元もイラついて動悸がする。


《君らは冒険街ドイネルを地図から消し、ルメリア首都への帝国の侵略を促し史実をなぞる形になってしまった。君達自身、思っているはずだ。"何故勝てたか分からない"とな。》

何らかの歴史の修正力が働いている。彼はそう言いたいらしい。


しばしの沈黙。少しばかり波で船が浮き上がる様に傾き、軽い耳鳴りがした。


「……負け惜しみたぁみっともねえぜ、ジーさん。」


思わずアタシは口走った。多分過去のリラが言わせたんだろう。

彼女はエクソシストとして、魔物となったラケルとフェクト達を仕留めて使命を果たしたが、それは同時に西側の教会にも弓引いた結果を招いた。


その事実を自覚していたから、後に彼女も教会の刃を脱走し、マザーと行動を共にしたのだろう。


贖罪と真相を求めて、今度は仲間としてクレアに従った。


でも、そこにまた会いたかったラケルの姿はない。

彼女は2度もデータ化して復活するのを望まなかった。自らが信じる神の下に行くと行って、500年前に"アタシが殺した"時に人間としての死を選んだ。



思い出したくない。忌まわしい失敗の過去だ。



《そうだな。この話はここで終わりにしよう。作戦の説明をする。》


日本地図や歴史年表のブラウザが閉じ、上陸地点が表示された。


《事前に言った通り海賊狩りを行うわけだが、相手はギャングの集団だ。活動する為にも交渉が必要になる。》

映しだされた港は、浜辺の汽水域から入ってすぐの、河川域にある小規模な港の集まりだ。


《中央本州の南端が上陸地点だ。名もない漁船の港町だが、人も多い活気づいている場所だ。ここから出向した船が東アジア海で海賊行為を行ってる。治安が悪いぞ。》

「私達が交渉役?」

シスナが聴く。

《いや、交渉は全員で行く。もう1キロ程度接近したら向こうから集って来るだろう。こういう手合いは力関係を判らせてやらないと話にならん。》

「了解よ。リラ、操縦お願いね。」

「へいへい。」

《気を付けろよ。特にモモとメリッサ。最近の自爆ボートは水上に出ないタイプも多い。上から水中をよく見て、しっかりリラをナビゲートしろ。》

「ほいさ。」「了解しました。」


私達は作戦会議室を出た。装備や電子機器を持ってボートに戻る。


ソナーにFPVドローンのカメラと銃の類を操舵席に接続した。

メリッサ達の信号が繋がり、ドローンのプロペラが回り出す。



ボォォォォーーーー



隣の船が汽笛を上げた。

水平線に無数のクルーザーと漁船。目を細めてみると、塗装が剥げてマダラ模様で汚くなっている。

如何にも発展途上国みたいな感じだ。


「おいでなすったみたいよ。」

アタシはエンジンを付けて観測船の前に出た。メリッサとリラのクアッドコプターと、飛行機型の観測ドローンも無数に飛び立つ。


「かかって来な!まとめてサメの餌にしてやらぁ!」


アクセルを全開にして突っ込む!

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